スパダリ様は、抱き潰されたい

きど

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はじまりは、あの日

27.修羅場…?

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気を抜くと顔が緩んでしまうので、表情筋を引き締める。休みだった昨日は一日中、顔が緩みっぱなしだった。

「田浦さん、頑張って真顔を作っているけど、ニヤケ顔隠せてないですよ。何か嬉しいことでもあったんですか?」
依頼人宅に向かう車の助手席に座っている多田くんが呆れた様に言う。

「あぁ、ごめん。そうなんだ、最近ちょっといいことがあってさ。
そういえば、多田くんは駅前に新しく出来た水族館に行ったことある?」

「俺はないですけど、行った友達から、デートとかに最適だって、すごく勧められましたよ。
田浦さんも恋人とデートで行く予定ですか?」

「そうなんだよね。まぁ、まだ恋人ではないんだけどね。多田くんは、デートだとどういったとこ遊びに行くの?」
多田君が鋭い質問をしてきたので、話題を変える。

「俺はデートとか面倒なんでしないですね。そんな時間あったら、ささっとホテル行った方が早いじゃないですか。」
とドライな回答がくる。支店長が生活指導したのって、この部分なのかもと邪推しそうになるが、

「そうなんだ。まぁ、価値観は人それぞれだよね。」
そう返答する。
そして、次の川奈さんとのデートの候補に水族館を入れることにした。

* * *
約束の日になり、川奈さんの部屋があるフロアに着くと、誰かが騒いでいる声がした。
まだ寝るには早い時間だが、近所迷惑だ。
そう思っていたら、まさかの川奈さんの自宅前で騒いでいる男が……。

「かーわーなー!」

ただ騒いでいるのではないと分かった。
玄関ドアが開け放たれ、川奈さんの体がエントランスに乗り出している。そして川奈さんの右手は何故か、その男の顔を鷲掴みに。男は顔面を鷲掴みにされているせいで川奈さんに近づけず手をバタバタしつつ名前を呼んでいる。
この状況は、川奈さんが襲われそうになって自衛のためにこうなったのか、川奈さんから仕掛けたのか不明だが、これは俗に言う修羅場に遭遇したか?

「あ⁈田浦くん」

とりあえず、そう考え早足で川奈さんと男の間に割入ると川奈さんが俺の名前を呼ぶ。心なしか目が潤んでる気がする。
川奈さんを俺の体で隠す様に男の前に立ち
鷲掴みしている手を外す。
そして

…さんですか?」

「え?」
心あたりの名前を尋ねるたら、目の前の男ではなく背後の川奈さんから戸惑った声が聞こえた。

相当な力で顔面を掴まれていたのか男の顔には川奈さんの指のあとが赤く残っている。その顔で俺を見てから

「えーとっ、誰?」
と言葉を発した。
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