スパダリ様は、抱き潰されたい

きど

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はじまりは、あの日

44.告白

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「とりあえず、中に入って」

「は、はい」

俺の疑問には答えず川奈さんが俺を招き入れる。仕事だと言い聞かせて渋々中に入る。久々に見た川奈さんは前より少し痩せた気がした。ついこの間、過労で入院したと報道されていたのに、なぜここにいるんだろうか。それに川奈さんは元彼とヨリを戻したはず。それなのに俺と会っていて大丈夫なのかよ。

「飲み物、コーヒーで大丈夫?」

「それより今日はどういった依頼ですか?」

リビングに入ると川奈さんはキッチンで飲み物の準備を始めようとする。川奈さんがどういうつもりで依頼してきたのかは分からないが、俺達はもう、飲み物を飲みながら話す間柄ではないはずだ。そう思うと川奈さんに問いかける声が無意識に冷たくなる。

「あぁ、今日の依頼ね。…あのね、少し田浦君と話がしたいんだ」

俺の言い方に川奈さんが一瞬傷ついた表情を見せるが、すぐにいつもの表情に戻る。でも躊躇いがちに歯切れ悪く依頼内容を口にする。

「……。前も言ったと思いますが、うちの会社には会話の相手役になるというサービスはありません。もし、ガス抜きで誰かとお話ししたいなら、そういったサービスを提供している会社に依頼してください。今回はサービスと依頼がマッチしていないので、今日はこれで失礼します」

複雑な俺の心境を悟られない様に丁寧な言い方を心がけた。そして帰るために玄関に向かおうとしたら、川奈さんが焦った声で俺を引き留め、背中に縋りついてきた。

「待って!こんなやり方が良くないってことも分かってる。でも、連絡しても返事が返ってこないかもって思うと、ずるいやり方でもいいから、どうしても田浦君に会って話したかった。…お願い。少しでいいから俺に時間をちょうだい」

「…。分かりました。でも依頼時間の1時間だけです。過ぎたらすぐに帰ります」

「ありがとう。…ここ、座って」

俺の返事を聞いた川奈さんは、ダイニングテーブルのイスを座りやすい様にひいてくれる。そこに腰掛け、部屋の様子を改めて見ると生活感はなく、本当にこのために借りたのだと分かる。過労で倒れたばかりで本調子ではないはずなのに、俺と話すためにこんなに労力を使ってくれるなんてと期待しそうになる。でも一方で、元彼と結局上手くいかなかったから、俺の所に戻ってきたのだと邪推してしまう。俺の心中など知る由もない川奈さんは向かいに腰掛けるとゆっくり口を開いた。

「田浦君は、新しい支店にはもう慣れた?」

「はい」

きっとアイスブレイクで俺の近況を聞いてきたが、川奈さんの話の内容が気になる俺は、そこは手短に返事をする。

「そっかぁ。それなら良かった」

「……」

俺たちの間に気まずい沈黙が流れる。川奈さんが俺の表情を伺いみてから、節目がちに話はじめる。

「何度も何度も田浦君の気持ちを否定したり、酷いことを言って、ごめん。…今更、こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど、俺さ……田浦君のことが好きなんだ」

川奈さんにずっと言って欲しかった言葉を言われ、俺の心には期待と猜疑心が渦巻いた。


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