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第十三話
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俺が声の主の方に振り返る前に、向かい合っていたサージャが屈んだ姿勢からパッと立ち上がる。
「はい!中庭の花を植え替えておりました!」
「そうか。そういえばリーテ、カリーノがお前を探していたぞ」
サージャがシャロルに報告するが、当の本人は、その内容に気に留める様子もなく俺にでたらめな話題を振る
「殿下、カリーノ様は」
「探していたぞ」
カリーノ様はダンテの母親のハルバー侯爵夫人とお茶菓子を買いに行っている。彼女をお見送りしてから、ここに来たから間違いない。
だから、俺を探しているはずがないことを伝えようとしたら、シャロルに言葉を遮られ、自分の発言が正しいのだと圧をかけられる。
「…分かりました。すぐに部屋に戻ります。殿下は、もう執務棟に向かわれますか?」
圧に屈するのが悔しくて、こんな所で油を売っていないで早く帰れと遠回しに言ってやる。するとシャロルは口の端をあげて不敵に笑うと
「いや、私もカリーノに伝え忘れたことがあるから、リーテと一緒に部屋に戻る」
とのたまった。
「優秀な殿下が、うっかり忘れてしまうなんて珍しいですね」
「そうか?でも、番と会う口実になるなら物忘れも時には悪くないだろう?」
俺の嫌味をサラリと受け流し、番への愛を語るシャロルを、サージャがうっとり見つめる。
おそらく、サージャは番を大切にしていて素敵とでも思っているのだろう。
シャロルはサージャが自分を見つめているのを確認すると満足した表情を浮かべ
「すまないが、リーテを借りていく」
「はい!どうぞっ」
サージャの返事を聞いてから俺の両脇に手を差し込み無理矢理立たせる。そして手首をシャロルに捕まれ引きずられるように歩かされる。
「痛っ。サージャ、また後で、っ!」
「こっちは心配しないで大丈夫」
サージャに声をかけると、俺の手首を掴む力がより一層強くなる。つい上りそうになる声を押し殺してシャロルを睨んだ。
* * *
中庭からカリーノ様の私室に向かうまでの間、シャロルはこちらを見向きもせずに大股で歩く。シャロルのペースに着いていくのに、俺は自然と小走りになる。それに手首を掴む力は相変わらず強くて、そのせいで血流が悪くなっているのか指先がじんじんと痺れてきた。
カリーノ様の部屋の前に着くとノックもせずに扉を開く。勝手に部屋に入ると主室のソファに俺を投げ飛ばす。
ソファはスプリングを軋ませて、俺の体を受け止める。
「いたっ。何すん、うぶ」
「あいつとは、どんな関係なんだ?」
シャロルの暴挙に非難の声を上げようとしたが、シャロルが俺の頬から顎のラインを鷲掴みしたせいで、へんな音が口から出た。
シャロルは俺の顔面を掴んだまま、グイッと顔を近づけてくる。そして不機嫌さを露わにした低い声で聞いてきた。
「ひゃいつって、シャージャにょひょと?
(あいつって、サージャのこと?)」
「ふざけているのか?」
頬がシャロルの指でおさえつけられているせいで、うまく発音ができない。それなのにシャロルは苛立ったように眉を顰める。俺の話し方、内容どちらに苛立ちを覚えたのかは分からないが、話し方がこんな風になっている元凶にそんな風に言われる筋合いはない。俺は顔を掴むシャロルの腕を手払いしてやった。
「ふざけているのは、あんただろ⁈カリーノ様が俺を探してるなんて、嘘ついて何がしたいんだよ!」
「リディ、まずは私の質問に答えろ。あの使用人と随分親しげだったが、どういう関係なんだ?」
思い切り啖呵を切った俺にシャロルは動じる様子もなく、再び同じ質問を繰り返す。投げ飛ばされたせいで、俺はソファに横たわる姿勢でいた。シャロルは俺を囲うように上にのしかかり、俺の顔の横に手をつき、見下ろしてくる。シャロルが体を動かすたびにソファのスプリングを背中に感じる。この体勢では逃げることが出来ないので、精一杯の虚勢をはる。
「ほんとに、何なんだよ!サージャは使用人仲間!質問には答えたんだから、俺を解放しろよ」
「ただの使用人仲間と手を握り合うのか?」
「はぁっ。それは流れでそうなっただけ。でも、あんたには関係ないことだろ!」
「関係ない?オメガの園の主は私だ。お前を含め、ここにいるもの全て私のものだ。だから、私には知る権利がある。だから正直に答えろ。あの使用人と関係を持っているのか?」
人を所有物のように言う口ぶりに心が冷え、サージャと邪な関係だと疑われ頭には血が昇る。
「人を物扱いって、あんた最低だな!それに、どんな妄想をしたら、俺とサージャが関係を持っているようにみえるんだ!欲求不満なんじゃないか⁈」
「ふっ。欲求不満なのかもしれないな。最近、どうしても試してみたいことがあるんだが、相手になってくれるか?」
感情のまま吐き出した言葉に、シャロルが嫌な笑い方に聞き方をしてくる。その様子に嫌な予感がして背中がスゥッと冷たくなった。
「なる訳ないだろ!あんたなら、ここにいくらでも相手はいるだろ!」
「確かにそうだが、お前以上の適任はいないんだ。番がいるオメガが、番以外のアルファを本当に拒絶するのか、確かめさせてくれないか?」
俺は一瞬、聞き間違いかと、自分の耳を疑った。
「はい!中庭の花を植え替えておりました!」
「そうか。そういえばリーテ、カリーノがお前を探していたぞ」
サージャがシャロルに報告するが、当の本人は、その内容に気に留める様子もなく俺にでたらめな話題を振る
「殿下、カリーノ様は」
「探していたぞ」
カリーノ様はダンテの母親のハルバー侯爵夫人とお茶菓子を買いに行っている。彼女をお見送りしてから、ここに来たから間違いない。
だから、俺を探しているはずがないことを伝えようとしたら、シャロルに言葉を遮られ、自分の発言が正しいのだと圧をかけられる。
「…分かりました。すぐに部屋に戻ります。殿下は、もう執務棟に向かわれますか?」
圧に屈するのが悔しくて、こんな所で油を売っていないで早く帰れと遠回しに言ってやる。するとシャロルは口の端をあげて不敵に笑うと
「いや、私もカリーノに伝え忘れたことがあるから、リーテと一緒に部屋に戻る」
とのたまった。
「優秀な殿下が、うっかり忘れてしまうなんて珍しいですね」
「そうか?でも、番と会う口実になるなら物忘れも時には悪くないだろう?」
俺の嫌味をサラリと受け流し、番への愛を語るシャロルを、サージャがうっとり見つめる。
おそらく、サージャは番を大切にしていて素敵とでも思っているのだろう。
シャロルはサージャが自分を見つめているのを確認すると満足した表情を浮かべ
「すまないが、リーテを借りていく」
「はい!どうぞっ」
サージャの返事を聞いてから俺の両脇に手を差し込み無理矢理立たせる。そして手首をシャロルに捕まれ引きずられるように歩かされる。
「痛っ。サージャ、また後で、っ!」
「こっちは心配しないで大丈夫」
サージャに声をかけると、俺の手首を掴む力がより一層強くなる。つい上りそうになる声を押し殺してシャロルを睨んだ。
* * *
中庭からカリーノ様の私室に向かうまでの間、シャロルはこちらを見向きもせずに大股で歩く。シャロルのペースに着いていくのに、俺は自然と小走りになる。それに手首を掴む力は相変わらず強くて、そのせいで血流が悪くなっているのか指先がじんじんと痺れてきた。
カリーノ様の部屋の前に着くとノックもせずに扉を開く。勝手に部屋に入ると主室のソファに俺を投げ飛ばす。
ソファはスプリングを軋ませて、俺の体を受け止める。
「いたっ。何すん、うぶ」
「あいつとは、どんな関係なんだ?」
シャロルの暴挙に非難の声を上げようとしたが、シャロルが俺の頬から顎のラインを鷲掴みしたせいで、へんな音が口から出た。
シャロルは俺の顔面を掴んだまま、グイッと顔を近づけてくる。そして不機嫌さを露わにした低い声で聞いてきた。
「ひゃいつって、シャージャにょひょと?
(あいつって、サージャのこと?)」
「ふざけているのか?」
頬がシャロルの指でおさえつけられているせいで、うまく発音ができない。それなのにシャロルは苛立ったように眉を顰める。俺の話し方、内容どちらに苛立ちを覚えたのかは分からないが、話し方がこんな風になっている元凶にそんな風に言われる筋合いはない。俺は顔を掴むシャロルの腕を手払いしてやった。
「ふざけているのは、あんただろ⁈カリーノ様が俺を探してるなんて、嘘ついて何がしたいんだよ!」
「リディ、まずは私の質問に答えろ。あの使用人と随分親しげだったが、どういう関係なんだ?」
思い切り啖呵を切った俺にシャロルは動じる様子もなく、再び同じ質問を繰り返す。投げ飛ばされたせいで、俺はソファに横たわる姿勢でいた。シャロルは俺を囲うように上にのしかかり、俺の顔の横に手をつき、見下ろしてくる。シャロルが体を動かすたびにソファのスプリングを背中に感じる。この体勢では逃げることが出来ないので、精一杯の虚勢をはる。
「ほんとに、何なんだよ!サージャは使用人仲間!質問には答えたんだから、俺を解放しろよ」
「ただの使用人仲間と手を握り合うのか?」
「はぁっ。それは流れでそうなっただけ。でも、あんたには関係ないことだろ!」
「関係ない?オメガの園の主は私だ。お前を含め、ここにいるもの全て私のものだ。だから、私には知る権利がある。だから正直に答えろ。あの使用人と関係を持っているのか?」
人を所有物のように言う口ぶりに心が冷え、サージャと邪な関係だと疑われ頭には血が昇る。
「人を物扱いって、あんた最低だな!それに、どんな妄想をしたら、俺とサージャが関係を持っているようにみえるんだ!欲求不満なんじゃないか⁈」
「ふっ。欲求不満なのかもしれないな。最近、どうしても試してみたいことがあるんだが、相手になってくれるか?」
感情のまま吐き出した言葉に、シャロルが嫌な笑い方に聞き方をしてくる。その様子に嫌な予感がして背中がスゥッと冷たくなった。
「なる訳ないだろ!あんたなら、ここにいくらでも相手はいるだろ!」
「確かにそうだが、お前以上の適任はいないんだ。番がいるオメガが、番以外のアルファを本当に拒絶するのか、確かめさせてくれないか?」
俺は一瞬、聞き間違いかと、自分の耳を疑った。
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