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2巻
2-2
しおりを挟む「それに参加したとして、私達に何かメリットがあるのですか?」
「もちろんです。参加していただくだけでも報酬は用意しますが、戦果によっては、あなた方が望む物を差し上げましょう。私に用意できる物に限りますが」
この言葉を聞いたエレナが、顎に手を当てて考える素振りを見せる。
珍しいな。何か欲しい物があるなら、言ってくれれば俺が用意するのに。
「……それでは、報酬としてあなたを貰いましょう」
ん? 今なんて?
一瞬エレナが何を言い出したのか理解できなかったのは、俺だけではないだろう。
周囲を見てもみんな首を傾げているし、言われた本人に至っては思考が停止しているようだ。
少しして、ようやく放心状態が解けたお姫様がエレナに尋ねる。
「それはどういうことでしょうか?」
「言葉の通りですよ。あなたの全てを貰います。あなたの体はもちろん、心や魂まで、我が主に捧げていただきます。その代わりに、帝国を蹴散らすだけの力を与えましょう」
姫様はその内容を聞いて驚愕の表情を浮かべた。
最近エレナは変な凄みが出てきているな。だいたい、願いを聞く代わりにお姫様を貰うとか、今度はどこの悪魔のセリフだろうか?
別に俺は魂まで欲しいなんて思っていないが、ここまでほぼ空気と化していたので、今さら会話に入りづらい。
エレナも俺を主と仰ぐ割には一切意思確認しないし、忘れられている可能性も否定できないよ、これ。
そもそも、現在交渉しているこの子は、どこぞの村娘とかではなく、エスネアート王国の王女だ。
いなくなったら周囲に与える影響とか大きいんじゃ……
お姫様はしばし驚きで呆然としていたものの、徐々にその顔が真剣な表情に変わっていく。
「それは本気でしょうか?」
「何を本気と確認しているのでしょうか? あなたを貰う件ですか?」
「いえ、グラス帝国を蹴散らすと言ったことです」
「ええ、本気ですよ。私達が用意する部隊を最前線に配置してもらう必要はありますが」
お姫様は少し考えてすぐに答えを出した。
「わかりました。その条件を呑みましょう」
おお、なんと肝の据わった女性なんだ。これも国を思えばこその行動なのか……
なんだか他人事のように納得してしまったが、お姫様の護衛達は黙っていない。
「姫様いけません!! あなたはこの国になくてはならない人物なのですよ!? しかもこんな得体の知れない人物の言うことを真に受けて、御身を危険に晒してはいけません!!」
まったくもってその通りなので、何も反論できない。
しかし、お姫様は決意の色を宿した目を彼らに向ける。
「確かに信用するには時間が足りません。しかし、条件が達成できなければ従う必要もないのです。黒い魔力の部隊や、魔物の軍勢を倒せる手段が見つかっていない現状で、もし本当にこの人達が帝国を撃退できるなら、私の命一つくらい、安いものです」
「ですが、姫様……」
「もう決めたことです。あなた達もエスネアート王国に仕える者の一人なら、国を第一に考えて行動しなさい。それと、彼らに私のメダルを渡しますので用意してください」
「……わかりました」
護衛の一人が馬車の中に戻り、一枚の手のひら大のメダルをエレナに手渡した。
もう完全に彼女が我が拠点の代表だと認識されているな、これは。
メダルを受け取ったエレナが、それをしげしげと眺めながら尋ねる。
「これは?」
「そのメダルには王家を示す家紋が入っています。王家が後ろ盾になることを証明する物です。このエスネアート王国であればどこに行っても、そのメダルを見せるだけで一定の支援を受けられます。それを持って、すぐに軍に加わってもいいですし、直接ナミラ平原に向かって合流しても構いません。ただし、くれぐれも七日後の期日に遅れないようにお願いいたします」
「わかりました。では、私達は直接ナミラ平原に向かうとしましょう。少しやりたいこともありますし」
お姫様はエレナの言葉に頷くと、最初と同じように優雅に一礼した。
「では、私達も急いで城に戻らなければいけないので、これで失礼いたします。この度は助けていただき、本当にありがとうございました。必ずお礼をしますので、戦争が終結したら、ぜひ城においでください」
お姫様はそう言うと、よほど急いでいたのか、すぐに馬車の中に戻っていった。
遺体の回収や負傷者の手当などのために護衛の大半を置いていったが、大丈夫なのだろうか?
先ほど襲われたばかりだというのに、不用心すぎる気がするけど……
俺はお姫様を心配しながら馬車を見送った。
****
「これは……遠くで見るとそこまで感じなかったが、かなり大きいな……」
俺は王都を囲む城壁を見上げながら、そう言葉を漏らした。
お姫様一行と別れた俺達は、ほどなくして王都に到着。城門での検問で、早速お姫様から貰ったメダルが役に立った。冒険者ギルド証の提示だけで入れるのかどうか、ぶっちゃけ不安だったけど、これは僥倖だ。このメダルを得られただけでもお姫様を助けた価値はあるな。
城門を潜ると、そこはアルカライムを上回る活気で溢れていた。
道は綺麗に整備されているし、ここからでも色々な人種の人達が歩き回っているのが見える。
建物も二階建て以上のものがほとんどで、景観を崩さぬように整然と立ち並んでいる。
そして一番驚いたのは、中央に聳え立つ巨大な城だ。
生前は城といったらまず日本風の物を思い浮かべていたけど、目の前にあるのはヨーロッパ風である。どの角度からも美しく見えるように意匠や造形が工夫されていて、その存在感は圧倒的だ。
さすがこの国の象徴だな。
実際に城を見るのは初めてだった俺は、しばし城を眺めて、その風景を楽しむ。
だけど、こういう場所に住んだら、自分の寝床に行くだけでもかなり歩きそうだな……
そんな間の抜けたことを考えていると、エレナが話しかけてきた。
「大丈夫ですよ。確かにエスネアート王国の王城は立派ですが、ケンゴ様にはこれよりも大きく素晴らしい城を必ず用意します。安心してください」
俺はいったい何を安心すれば良いのか?
そして、何故エレナは俺がこれよりでかい城に住みたいと思っていると勘違いしたんだ?
今拠点にある、『土魔法』で作った箱形の寝床でも満足しているのだが、あれじゃ駄目なのだろうか?
寝床を出たらすぐに〝酸っぱい果実〟が食べられる好立地なのに。
俺はいずれとんでもないことになりはしないかと、戦々恐々としながら馬車を走らせた。
さて、ナミラ平原での決戦は七日後。移動に五日かかるというので、明日か明後日に出れば間に合う。せっかく王都に来たのだし、買い物や観光もしてみたい。
だが残念ながら、俺達の中に王都に詳しい者は一人もいない。加えて、俺はアルカライムでも迷子になったほどの方向音痴だ。右も左もわからない王都でどうなるかは、火を見るよりも明らかであろう。
さあ、どうしようか……といっても、選択肢はないに等しい。
とりあえず歩くか。迷子になったら拠点に戻れば大丈夫だしな。
城門近くの厩舎に馬車を預けた俺達は、目につく商店にかたっぱしから入り、道を聞くついでに初めて見る物や珍しい食べ物を買い漁って回った。
ここで一番俺の興味を引いたのは〝リバーシ〟だ。まさか地球と同じボードゲームがあるとは……
これを売っていたおっちゃんに聞いたところ、どうやら〝帝国に召喚された勇者が開発した遊び〟ということになっているらしい。
帝国の勇者は間違いなく俺と同じ地球出身だろうな。
しかし、異世界に来てまで同郷の人に会えるとは思ってもみなかったな。少し嬉しくなって、思わずにやけてしまった。
そんな俺を、エレナ達三人は驚いたような顔で見ている。なんだろう、ボードゲームでにやけた顔がそんなにおかしかったのか?
俺はさっきまでの嬉しさも忘れ、すっかり足取りが重くなってしまった。
あらかた買い物を終えたので、俺達は拠点で活躍してくれそうな奴隷がいないかを確認するために、奴隷商へ向かった。
ところで、歩いていて一つ気付いたことがある。
――エレナ達がもの凄く目立つのだ。
初めて見た時から綺麗な子達だと思っていたけど、最近は雰囲気がかなり変わってきた。単に目を引くだけではなくて、存在感があるというか……
出会った時のちょっとそそっかしい感じが懐かしい。
だが、メリットもあった。
さっき入った店でも割引してくれたし、何より、この三人のおかげで俺が目立たなくなったのだ。
道中声を掛けられるのは百パーセントこの三人なので、恐らく俺は周囲の人にとって三人の横にいる霞程度にしか見えていないのだろう。あまり目立ちたくない俺には大変ありがたい。
このまま一人、誰にも気付かれず王都観光と洒落込むのも悪くないが……問題はエレナ達が他の住民に話しかけられながらも、俺から一切視線を外そうとしないことだ。
彼女達もだんだん俺の性格を理解してきているのだろう。
大丈夫、逃げないからそんなに見ないでほしい。
俺は蛇に睨まれた蛙のように縮こまりながら、奴隷商の入り口を潜った。
「いらっしゃいませ、お客様。本日のご用件はなんでしょうか?」
俺達が店に入ると、いきなり受付にいた男の一人に話しかけられた。
さすが王都だけあって、この店はアルカライムにあった奴隷商の店よりもはるかに大きい。当然、雇っている人間も多いようだ。
俺はエレナ達を入り口で待たせて、男に答えた。
「今日は奴隷の購入に来ました。良い奴隷はいますか?」
「奴隷の購入ですね。もしかして、お客様は戦闘奴隷のご購入をお考えですか?」
「いえ、どちらかというと街を造るとか、発展させられるスキル持ちを探しています。戦闘奴隷だと、何か問題があるんですか?」
「はい、現在エスネアート王国が帝国と戦争状態にあるのはご存じの通りです。近々行われる決戦に備えて、戦闘奴隷は全て王国に買い取られ、在庫不足になっています。最近は万が一に備えて、自分の身を守るために戦闘奴隷をお求めになられるお客様も多数いらっしゃるのですが、もう売れる戦闘奴隷がありません。おかげでクレームが多くて困っているんですよ」
そう言って、店員の男は苦笑する。
「それは大変ですね。エスネアート王国にとって、戦況は思わしくないのですか?」
「だいぶ旗色が悪いみたいです。この後ナミラ平原で決戦が行われるのですが、それ次第で王国の命運が決まりそうです。ナミラ平原を抜ければ合戦に適した要所も少なく、王都まで一直線ですからね。私どもも、すぐに逃げられるように準備をしております。お客様も用心した方が良いですよ」
エスネアート王国はそこまで厳しいのか……
魔物の軍団と怪しい黒い魔力を纏う者達が原因らしいから、一応、後でゴブ一朗達に油断しないように伝えておこう。
「教えてくれてありがとうございます。用心しておきます」
「それから、馬も在庫が少なくなっているので、早めの購入をお勧めしますよ。それでは本題ですが……お客様は街の建設や発展に寄与するスキルを持つ労働奴隷をお探し、ということでよろしいですか?」
「はい、それでよろしくお願いします」
「それでは見繕ってきます。少々こちらでお待ちください」
少し待っていると、十三人ほどの男女が連れて来られた。
店員の説明によれば、『建築』『測量』『石工』『鍛冶』『魔道具製作』『錬金』『服飾』『農耕』『会計』『政務』『商売』『教育』『畜産』と、様々なスキルを持つ奴隷達だそうだ。
さすが王都、多くのスキル持ちを揃えている。
「どうですか、お客様、気になる奴隷はいましたか? こちらは全て借金奴隷ですので、安心してご購入いただけますよ」
「凄く多様なスキル持ちを揃えているんですね。王都の奴隷商にはいつもこれくらいいるんですか?」
「はい、大体は似たような種類を揃えていますよ。王都は住んでいる人間も多いので、いろんな理由で奴隷に落ちる方がいるんです。もちろん国外からも仕入れますが、やはり一番多いのはこの王都ですね」
「そうなんですか。私も奴隷に落ちないように気をつけないといけませんね」
店員と言葉を交わしながら、一通り『鑑定』で奴隷達を見ていく。
みんな特に変わったところはなさそうだ。
「では、今回は『魔道具製作』の男性と『錬金』の女性をお願いします。労働の期間と金額はいくらくらいになりますか?」
できれば『教育』や『畜産』等のスキル持ちも購入したいが、現状拠点には子供もいないし、飼っているのはハニービーくらいだ。急ぐ必要はないだろう。
「『錬金』は金貨六枚で約一年の労役、『魔道具製作』は金貨九枚で一年半ほどの労役になりますね。購入されますか?」
「はい、お願いします」
「ご購入ありがとうございます。それでは契約しますので、こちらにお願いします」
店員に奥の部屋へと促されるが、俺にはもう一つ聞いておかなければならないことがある。
「すみません、その前にもう一つお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
「この奴隷商には〝訳ありの奴隷〟とかはいますか?」
男はその言葉を聞き、少し考えるような素振りを見せる。
「その質問に答える前に、こちらも一つ質問をして良いでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
「もしかして、お客様はアルカライムで訳あり奴隷を買われませんでしたか?」
……!? まさか、もうそんな情報が出回っているのか?
俺はそのセリフに驚愕を禁じ得なかった。マリア達を購入してまだ一ヵ月も経ってないのに、王都まで広まっているとは。
「はい、確かにアルカライムで訳あり奴隷を購入したのは私ですが、それが何かあるんですか?」
「あぁ、いえ、たまたま噂を耳にしたのです。アルカライムの奴隷商の男が〝呪い子〟や傷物の奴隷を引き取っていった奇特な人間がいると吹聴して回っていたので、もしやと思いまして。その話は今やこの界隈ではみんな知っていますよ」
あの店主、やってくれたな……この世界には守秘義務というものはないのだろうか?
しかも、誰が奇特な人間だ。今度会ったらどうしてくれよう……
「なるほど。それで、この店には訳あり奴隷はいるんですか?」
「ええ、一人だけいます。こちらにどうぞ」
やっぱりいるのか……
俺はマリア達が置かれていた悲惨な境遇を思い出し、覚悟を決めて店員の後に続いた。
「こちらです」
受付の男が開けたドアの先にいたのは、枷も何も付けられず、ただ木の椅子に座って物憂げに壁を見つめる女性だった。
「この人が?」
「ええ、声を奪われた歌姫サラ・リヴァイスです」
「声を奪われた歌姫ですか?」
「はい。お客様はこの歌姫の事件をご存じないのですか?」
「ええ、王都には最近初めて来たもので、そういう情報には疎いのですよ」
「そうでしたか。実はこのサラ・リヴァイスは、数年前まで、この王都で知らぬ者はいないほどの有名人だったんですよ。その歌声を一度聴けば天にも昇るほどの高揚感を覚え、万人が涙するとまで言われていました」
「それは凄いですね」
「ええ、さらに巷では、彼女の歌を聴いた後、身体の調子が良くなったり怪我が治ったりといった噂も数多くありました。そんな彼女を、市民は畏敬の念を込めて〝天の歌姫〟と呼んでいました」
歌声一つで身体の不調を治せるとは、本当に凄いな。これも何かのスキルの影響だろうか?
スキルブックには歌スキルなんて見当たらなかったが……
「しかし、彼女の栄華はそう長くは続きませんでした。嫉妬か誰かの陰謀かはわかりませんが、とある貴族が主催するパーティの席で、彼女が口にした飲み物に毒物が混入していたのです。彼女は毒物によって喉を焼かれ、その日から声を失いました。彼女の支援者達は多くの金銭を掛け、医者を呼んだり薬を取り寄せたりしましたが、結局誰一人として彼女の喉を治せませんでした」
可哀想に……
俺は店員の話を聞きながら、彼女に『鑑定』を掛ける。
やはり、彼女のステータスにはユニークスキルとして『歌唱』があった。歌の種類や歌い方によって対象者に数多くの恩恵や弊害を与えることができるらしい。
凄いな……俺の『付与』スキルと違って、対象者に弱体化――デバフも掛けられるのか。
能力を悪用したという話が出てこないから、恐らく良い人なんだろう。
店員は続ける。
「その後、奴隷に落ちるのは早かったですね。薬を探すために多額のお金を借りたものの、喉は治らず、借金は膨らむばかり。支援者達にも見限られ、家族さえ彼女の収入を当てにしていたのか、喉が治らぬことに憤慨し、家から追い出しました。彼女がここに来た時は、それはもう酷い状態でしたよ」
マリアといい、リンといい……この世界ではユニークスキル持ちは必ず不幸になり、奴隷に落ちるのだろうか? 今のところ、俺以外百パーセント奴隷だ。
俺も『神の幸運』持ちのわりには少し不幸な気がするが、まだ彼女達に比べれば運が良い方だと思う。
「しかし、声が出せないので会話もままならないですし、他に特に目立ったスキルもない……おまけに背負っていた借金の額も相当だったため、なかなか買い手がつきません。そうなると性奴隷か鉱山労働くらいしか道が残されていませんでした。ですが、どうにもそれは忍びなくて……労働奴隷として購入してくれる人を探していたんですよ」
「そうですか。独断でそんなことして大丈夫なんですか?」
店員の男が苦笑しながら答える。
「あぁ、申し遅れました。私はこの店の店主をしているグレイブと申します。以後お見知りおきを」
「店主さんだったんですか、失礼しました。それにしても、どうして彼女に対してそこまでするんですか? あなた方にとって、彼女は〝商品〟なのでは?」
俺は率直な疑問を口にした。
「実は私、彼女のファンでして。叶うなら、もう一度彼女の歌声を聞きたいと思っているんです」
「なるほど。それで、この奴隷は売っていただけるのですか?」
「売ってもいいですが、条件があります。彼女を労働奴隷として正当に扱うこと、そして、できる限り彼女の声が戻る方法を探すこと、この二つです」
「その程度であれば構いませんよ」
恐らく彼女の声が出ない原因は、喉が焼けて声帯が働かないせいだろう。それなら回復魔法で治るはずだ。万が一治らなければ、一度声帯を切除し、部位欠損と同じく再生してやるという手もある。
「簡単に仰いますね。結局、私には彼女を救えませんでした。どうか彼女の声を取り戻す手段を見つけてください」
「わかりました。それで、彼女の値段は……?」
「無料でいいですよ。そのかわり、もし彼女が声を取り戻すことができたら、一度だけ私に彼女の歌を聴かせてください」
「無料!? 彼女の借金額はかなりのものだという話ですが」
「負債は私が肩代わりします。ただし、法律で定められた労働義務は残っていますので、彼女はその費用の倍額分を、お客様のもとで働いて稼ぐ必要があります。期間は五年です」
「五年も? そうなると、かなりグレイブさんの負担が大きいんじゃないですか?」
「気にしないでください。彼女の歌がまた聴けるのなら、安いものです。それに、お客様であれば彼女を治すことができそうですしね。先ほど入り口でお見かけした獣人の子、アルカライムの訳ありの奴隷の子でしょう?」
凄いな、この店主。少ない情報からそこまで予想するとは、なかなかどうして侮れない。アルカライムの奴隷商とはえらい違いだ。
「わかりました。彼女の喉が治ったら、必ず歌を聴かせに来ますよ。それに彼女もあなたには感謝しているでしょうしね」
「そうだと嬉しいんですがね」
店主ははにかみながらそう言うと、彼女の手を取ってこちらに連れて来た。
俺にはそれがまるで大事な恋人を扱うような仕草に見えた。
必ず治療して、この人の前に連れてこよう。
俺はそう心に決め、店主と一緒に奴隷達の契約をするために、奥の部屋へと移動した。
****
その後、問題なく奴隷契約を終わらせて、俺達は奴隷商を後にした。
次は王都の冒険者ギルドに向かおうと考えているのだが……どういうわけか、先ほどよりも多くの視線を集めている気がする。
購入した奴隷達を含めて八人の集団になったのはあるにせよ、それだけが原因じゃないような……
俺が訝しんでいると、突然年配の女性が話しかけてきた。
「ちょっとあんたら、後ろに連れているのは歌姫じゃないのかい?」
あぁ、サラが原因だったか。
「ええ、そうですが、何か用ですか?」
「いや、最近めっきり見なくなっていたものだから、気になっていてね。もう喉は治ったのかい?」
「いえ、まだです。これから治療に向かうんですよ」
「ああそうかい! 治ったら教えておくれ! 急にいなくなって、みんな心配していたんだよ。歌姫の歌を楽しみにしている人はまだ大勢いるんだから、頑張って喉を治すんだよ!! ほら、これ食べな」
そう言うと、女性はサラに何かを手渡して去っていった。
気になって確認すると、それは少し歪な丸い物……おそらく飴玉だった。
この世界じゃ砂糖は貴重だろうに……
サラはとても嬉しそうに微笑んでいた。
うん、やはり美女には笑顔が似合うな。エレナももっと笑うと良いのに。
しかし、店主は応援していた人も見限ったと言っていたが、周囲の反応を見ると、全然そうは思えない。何かあるのだろうか?
まぁ、サラが治って王都でまた歌い出せば、自ずとわかるだろう。
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