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第二章 婚約者編

第十話 僕のための屋敷③

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 屋敷での生活は今の所、何も問題ない。どちらかといえば順調かな。

 フリードリヒ様は、王宮内に自分の部屋が当然あるんだけれど、基本的には殆どを僕と一緒に屋敷で過ごしていた。国王陛下や妃殿下への挨拶は、もう少し後でという話になった。

 本当はすぐにでもという話だったんだけど、急に入った公務の関係で国王陛下妃殿下共にしばらく国を離れることになってしまったらしい。

 断れない公務だからと、僕との正式な謁見はまた後日行われることになったと聞いて、正直ちょっとだけほっとした。十日しか準備する時間がなかったし、不安はあったんだ。

 それに、実はたいした移動じゃないのに環境が変わったからか疲労が溜まっていたんだよね。寝込むほどじゃないけど、最悪何か粗相をしていたかもしれないと思うと、ある意味では時間が貰えるというのはラッキーだった。勉強すれば、ちょっとはマシになるだろうし。

 礼儀作法や食事のマナーとかは、習得するのはかなり厳しいだろうなと思っていたんだけれど、意外と元の世界の知識が役立つことが分かった。かなりぎこちないし、完璧とは言い難いレベルではあるけれど、少なくとも何とか及第点は貰えそうな感じだ。

 貴族としての振る舞いの基礎を少し教えてやってくれと、フリードリヒ様が頼んでくれた男性の使用人からも、褒められたしね。

 映画とかで見たのをそのまま真似してみたんだけれど、この世界の作法とそんなに大差はないみたいで、心の底から安心した。アルテミス帝国でも、リードとかの作法は見ていたからそれも役には立ったかな……? じっくり見る心の余裕はなかったけど。

 使用人の人たちも、フリードリヒ様が信頼する人しかいないというだけあって、すごく良くしてくれている。無理矢理僕の世話をさせられていたら申し訳ないなと思っていたんだけれど、そんな風に僕のことを想う様な奴は一人としていれたつもりはない! とフリードリヒ様は断言した。

 ちょっと怒ったように言うから、僕もちょっとびっくりしちゃったんだけど、使用人さんたちがすかさずフォローしてくれて事なきを得た。むしろ、フリードリヒ様を諫めるように叱っていたし……。

「トーマ様が怖がります! 殿下は顔が怖いので余計です!」

「ミリー……お前、それは俺に失礼だろう!」

「本当のことです」

 ミリーと呼ばれた女性は、女性の使用人の中では一番最年長で、多分四十代後半くらいっといった年齢なんだけど、かなりズバズバと物事を言う人だった。フリードリヒ様のお母様の時代から王宮に務めているベテランで、フリードリヒ様のことも当然子供の頃から知っている。

 やらかし時代もきにかけていたとのことで、身分は違えどフリードリヒ様のことを子供のことのように思っているんだろう。フリードリヒ様も、口では文句は言っているものの本気で嫌がっている様子はない。むすっとした表情はどこか子供っぽくて、思わず僕も笑ってしまった。

「トーマまで……」

「ご、ごめんなさい」

 僕が謝ると、使用人さんたちがどっと明るい笑い声をあげた。

 彼女以外にも十数人、屋敷には住み込みで働いてくれている使用人がいるんだけど、皆適度にフランクなこともあって僕としては話しやすくて楽な人たちだ。勿論、フランクと言っても失礼な感じとか雑に扱われている感じは一切ない。ちゃんと、弁えるべきところは弁えている人たちなんだよね。

 僕も参考にしたいなとぽろっと零したら、怒られてしまったけど。

「トーマ様は、フリードリヒ様の将来の奥様になる方ですから私たちを参考にされては困ります。トーマ様の場合は逆にもう少し偉そうにするべきかと……」

「善処します……」

 いや、本当そう言うしかなかった。生まれて一度もそんな偉そうなことをいうような立場になったことないしね。
 
 子供にだってあんまり厳しい態度が取れなくて、教育実習の時なんて叱られたくらいだ。その態度では子供に舐められますよ、と。

(でも……確かにフリードリヒ様の隣に立つのに、僕がおどおどぺこぺこしていたら駄目だよな)

 頑張らないと。そう改めて決心した僕は、とりあえずは試しにと皆の前でらしく振舞ってみたんだけど……結果は言わずもがなだ。明らかに無理があるというか、ぎこちなさすぎて余計に舐められそうな言動になってしまった。ちょっと困った様子の皆の顔に、僕は自分が空回ったことを知った。

 みんなは練習ですからと慰めてくれたけど……恥ずかしい。




 その日の夜、屋敷の中にある大浴場で、僕は裸のフリードリヒ様抱き寄せられ、膝の上に乗る形で慰められていた。
 かなり立派なお風呂だからこんなにくっ付かなくても良い気がするんだけど、正式に婚約して以降、フリードリヒ様は僕にこういう風に積極的に触れてくるようになった。勿論、僕が少しでも嫌がればそれ以上は触ってこないし、今のこれも決して性的な感じではない。

 視界の端に映るフリードリヒ様の立派な物もおとなしいし……。

「ゆっくりで良いんだぞ。トーマ。いきなり、上に立つ者を真似ろだなんて無理難題は俺は言わない。少しずつ、そしてお前がこのくらいなら……と思える程度で良いんだ。かく言う俺も、優雅にと言われてもすぐには兄上の様にはいかなかった。今でも自信はない。だが、俺はそれで良いと今は思っている。あまりに自身と乖離する人格はどこかで綻びが出るからな」

 かなり実感がこもっている呟きだ。でも、フリードリヒ様がそう言う風に言ってくれると僕の肩に入ってた変な力が抜けていく気がした。

「はい……!」

 僕が元気良く笑いながら頷くと、フリードリヒ様も嬉しそうに笑った。






★☆★☆―――(BL大賞)1か月のお礼―――★☆★☆

一か月間、BL大賞の投票や作品の閲覧ありがとうございました。
最終日までに最終章まで行けず大変申し訳ありません。
12月中に完結迄UPする予定ですので、引き続きよろしくお願いいたします。
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