10 / 11
【10】
しおりを挟む
何にもならなくなったおっさんがおしろで何もせずぼんやりしていると、何やら二本足で歩く一匹の猫がたずねてきました。
その猫がどうにもなつかしい、何やら困り顔と言うか、浮かない顔と言うか、何ともしっくりこないような微妙な顔をしていたものですから……おっさんはハッと、思わず目を輝かせました。
そして何も聞かず、もう隠れもせず猫の目の前で、「これか」と、まずは一枚のおおきなふくろになってみせます。
ところが猫はすぐさま、それと全く同じおおきなふくろを自分の背の影から引っ張り出して、どこか申し訳なさそうに首を揺らします。
「いいえ、それはもう持っているのです」
それを聞いたおっさんは「ならば」と、次は一そろえのながぐつになってみせます。
ところが猫は、やっぱりどこか申し訳なさそうに、それと全く同じながぐつをおおきなふくろから取り出して、今さらのように両足に履きながら目を伏せます。
「いいえ、それももう持っているのです」
おっさんは一瞬うっと息がつまりましたが、すぐににっこり笑みを浮かべて「よしよし、分かった分かった」と、最後は一匹のねずみになりました。
「ああ、……っ、そうそう! それです、……っ、それそれ!」
おっさんがねずみになったのを見届けるや、猫は思わずぐすりと涙ぐんでしまいながら、それでも無理やり、その生き様を大変喜びました。
だから最期の最期に、おっさんはおっさんで、まあまあ満足げにふっと小さく微笑みました。
その猫がどうにもなつかしい、何やら困り顔と言うか、浮かない顔と言うか、何ともしっくりこないような微妙な顔をしていたものですから……おっさんはハッと、思わず目を輝かせました。
そして何も聞かず、もう隠れもせず猫の目の前で、「これか」と、まずは一枚のおおきなふくろになってみせます。
ところが猫はすぐさま、それと全く同じおおきなふくろを自分の背の影から引っ張り出して、どこか申し訳なさそうに首を揺らします。
「いいえ、それはもう持っているのです」
それを聞いたおっさんは「ならば」と、次は一そろえのながぐつになってみせます。
ところが猫は、やっぱりどこか申し訳なさそうに、それと全く同じながぐつをおおきなふくろから取り出して、今さらのように両足に履きながら目を伏せます。
「いいえ、それももう持っているのです」
おっさんは一瞬うっと息がつまりましたが、すぐににっこり笑みを浮かべて「よしよし、分かった分かった」と、最後は一匹のねずみになりました。
「ああ、……っ、そうそう! それです、……っ、それそれ!」
おっさんがねずみになったのを見届けるや、猫は思わずぐすりと涙ぐんでしまいながら、それでも無理やり、その生き様を大変喜びました。
だから最期の最期に、おっさんはおっさんで、まあまあ満足げにふっと小さく微笑みました。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる