39 / 62
2章
急転
しおりを挟む
歩いている途中。
「式って、具体的に何かするか知らないんですけれど......」
「そうですね、向こうの指示通りにしていて、問われたことを答えたら大丈夫ですよ。形式的に式、と呼んでいるものの、近年は教皇様と顔を合わせるためのものになっていますし」
「そんなものですか」
確かに、公開してするような式でなければそうなっていくのかもしれない。
まぁこっちとしても負担が少なくて楽だ。
「さて、着きましたよ。準備はいいですか?」
目の前には大きな扉が。
そこでアミリアさんから確認される。
正直なんの準備をしていけば良いのかがさっぱりわかっていないが......立ち止まっても仕方がない。
「はい、大丈夫です」
俺は、そう答える。
アミリアさんはそれを見て合図を送る。
「新たに聖者認定を受ける者、ロード」
その声が聞こえた瞬間、その大きな扉の前に立っていた兵士二人がゆっくりと扉を開け始める。
「中に入れ、ロードよ」
その声に従って、俺は部屋の中に入る。
周囲には兵士が―――十名ほど、管理職だろう人が五名、そして教皇様とその隣に一人の女性――――おそらく大聖女様とやらだろう―――と、合わせ十七名の人が俺を見ていた。
「止まれ」
再び指示が。俺はその場で止まる。
ちょうど部屋の中心、それも兵士に囲まれる場所で止まったのは偶然ではないだろう。
正直探知魔法を使用したい気持ちでいっぱいだが、教皇様という宗教のトップの前で魔法を使用するとそれこそまずいことになる、と自制する。
「それでは、式を行う」
その瞬間、周囲の、教皇様と大聖女様以外の全員が跪いた。
俺もそれに倣った。
「ロードよ、其方を七神教の聖者と名乗ることを許そう」
「――――ありがたき幸せ」
指示でなかったために迷っていたら、式が一行に進む気配がなかったため返答した。
これだけで終わる式なら、正直服を着る時間のほうが長かったが......と思っていると、これから儀式のようなものがあるらしい。
扉の方から二人ほどの女性が金の杯を持ち、祈り、そして歌を歌う。
七柱の神への、祈りの歌を。
やっと終わりだと、だれもが息を吐いた頃だった。
事態が急変する。
「失礼します!」
大声で、扉の方から声が聞こえた。
「どうした、式の途中だぞ」
教皇様が咎める。
が、それを気にせず兵士らしき男が告ぐ。
「聖女アミリア様が、賊に攫われました!!」
その瞬間、俺の心臓がおかしな音を立ててなったような感覚に陥った。
脳裏でフラッシュバックするのは、試練の記憶。
アミリア様を選ばなかった結果、あの人が死んでいく光景。
あの目を思い出すだけで、俺は世界を滅ぼしたくなる激情に駆られる。
今までに感じたことのないほどの感情の高ぶり。
今すぐにでも賊を八つ裂きにしたいと叫ぶそれを無理やり押さえつけ、俺は立ち上がる。
「アミリア様を助けに参りますので、失礼します」
俺は俺のために行われている式よりも、アミリアさん一人を優先する。
俺が聖者という肩書を得るための式と、アミリアさんの無事を天秤にかければ、どちらに傾くかは明白だ。
形骸化している式ならなおさらだ。
「待て、むやみに探しても見つからない。地理にも弱いだろうし、戦闘能力のことも聞いている。続報を待ち、見つけてから出動する。全兵士に戦闘準備だ!」
教皇様が俺を言葉で止める。
確かに、その言葉には納得するしかない。俺も無理やりそこで立ち止まる。だが、心としてはすぐにでも助けに行きたかった。
が、全兵士を、と言っているあたり教皇様も万全の態勢で、取返しに行くだろうことがわかる。
バタバタと周囲の人間がせわしなく動く中、大聖女様が初めて言葉を発した。
「せめて、あの頑固な子が指輪を預けていれば......」
「指輪......ですか?」
俺はつぶやきに対して質問をする。激情が、手掛かりがあるならと収まった。
正直心当たりしかなかった。これを見越して託されたのではと思うくらいに、それは記憶に残っている。
「そうです。金の指輪に赤い宝石なのですけれど......あの子は頑固に誰にも預けなかったのですよ。早く頼りになる人に、と言っているのに、危険にさらすから、と言って頑なに......」
大聖女様のため息が小さく漏れる。
「その指輪があれば、アミリアさんは?」
「えぇ、すぐにでも救出に......心当たりが?」
どうやら根掘り葉掘り聞く俺に何かを感じたようで、期待のまなざしを向けてきた。
俺は確かにポケットの中に入れたそれを取り出す。
「その指輪は――――確かに、あの子の」
その指輪は貰った時とは違い、光を発していた。
それも、一直線に。
「その方向に聖女アミリアはいる。行け、聖者ロードよ」
「はい! 失礼します!」
「外まで案内します」
俺はすぐに部屋を退室すると、兵士の案内のままに建物の外まで移動するのだった。
「式って、具体的に何かするか知らないんですけれど......」
「そうですね、向こうの指示通りにしていて、問われたことを答えたら大丈夫ですよ。形式的に式、と呼んでいるものの、近年は教皇様と顔を合わせるためのものになっていますし」
「そんなものですか」
確かに、公開してするような式でなければそうなっていくのかもしれない。
まぁこっちとしても負担が少なくて楽だ。
「さて、着きましたよ。準備はいいですか?」
目の前には大きな扉が。
そこでアミリアさんから確認される。
正直なんの準備をしていけば良いのかがさっぱりわかっていないが......立ち止まっても仕方がない。
「はい、大丈夫です」
俺は、そう答える。
アミリアさんはそれを見て合図を送る。
「新たに聖者認定を受ける者、ロード」
その声が聞こえた瞬間、その大きな扉の前に立っていた兵士二人がゆっくりと扉を開け始める。
「中に入れ、ロードよ」
その声に従って、俺は部屋の中に入る。
周囲には兵士が―――十名ほど、管理職だろう人が五名、そして教皇様とその隣に一人の女性――――おそらく大聖女様とやらだろう―――と、合わせ十七名の人が俺を見ていた。
「止まれ」
再び指示が。俺はその場で止まる。
ちょうど部屋の中心、それも兵士に囲まれる場所で止まったのは偶然ではないだろう。
正直探知魔法を使用したい気持ちでいっぱいだが、教皇様という宗教のトップの前で魔法を使用するとそれこそまずいことになる、と自制する。
「それでは、式を行う」
その瞬間、周囲の、教皇様と大聖女様以外の全員が跪いた。
俺もそれに倣った。
「ロードよ、其方を七神教の聖者と名乗ることを許そう」
「――――ありがたき幸せ」
指示でなかったために迷っていたら、式が一行に進む気配がなかったため返答した。
これだけで終わる式なら、正直服を着る時間のほうが長かったが......と思っていると、これから儀式のようなものがあるらしい。
扉の方から二人ほどの女性が金の杯を持ち、祈り、そして歌を歌う。
七柱の神への、祈りの歌を。
やっと終わりだと、だれもが息を吐いた頃だった。
事態が急変する。
「失礼します!」
大声で、扉の方から声が聞こえた。
「どうした、式の途中だぞ」
教皇様が咎める。
が、それを気にせず兵士らしき男が告ぐ。
「聖女アミリア様が、賊に攫われました!!」
その瞬間、俺の心臓がおかしな音を立ててなったような感覚に陥った。
脳裏でフラッシュバックするのは、試練の記憶。
アミリア様を選ばなかった結果、あの人が死んでいく光景。
あの目を思い出すだけで、俺は世界を滅ぼしたくなる激情に駆られる。
今までに感じたことのないほどの感情の高ぶり。
今すぐにでも賊を八つ裂きにしたいと叫ぶそれを無理やり押さえつけ、俺は立ち上がる。
「アミリア様を助けに参りますので、失礼します」
俺は俺のために行われている式よりも、アミリアさん一人を優先する。
俺が聖者という肩書を得るための式と、アミリアさんの無事を天秤にかければ、どちらに傾くかは明白だ。
形骸化している式ならなおさらだ。
「待て、むやみに探しても見つからない。地理にも弱いだろうし、戦闘能力のことも聞いている。続報を待ち、見つけてから出動する。全兵士に戦闘準備だ!」
教皇様が俺を言葉で止める。
確かに、その言葉には納得するしかない。俺も無理やりそこで立ち止まる。だが、心としてはすぐにでも助けに行きたかった。
が、全兵士を、と言っているあたり教皇様も万全の態勢で、取返しに行くだろうことがわかる。
バタバタと周囲の人間がせわしなく動く中、大聖女様が初めて言葉を発した。
「せめて、あの頑固な子が指輪を預けていれば......」
「指輪......ですか?」
俺はつぶやきに対して質問をする。激情が、手掛かりがあるならと収まった。
正直心当たりしかなかった。これを見越して託されたのではと思うくらいに、それは記憶に残っている。
「そうです。金の指輪に赤い宝石なのですけれど......あの子は頑固に誰にも預けなかったのですよ。早く頼りになる人に、と言っているのに、危険にさらすから、と言って頑なに......」
大聖女様のため息が小さく漏れる。
「その指輪があれば、アミリアさんは?」
「えぇ、すぐにでも救出に......心当たりが?」
どうやら根掘り葉掘り聞く俺に何かを感じたようで、期待のまなざしを向けてきた。
俺は確かにポケットの中に入れたそれを取り出す。
「その指輪は――――確かに、あの子の」
その指輪は貰った時とは違い、光を発していた。
それも、一直線に。
「その方向に聖女アミリアはいる。行け、聖者ロードよ」
「はい! 失礼します!」
「外まで案内します」
俺はすぐに部屋を退室すると、兵士の案内のままに建物の外まで移動するのだった。
121
あなたにおすすめの小説
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる