英雄教科書

大山 たろう

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来客

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「先生、あの犯罪者集団って、どうやって倒したんですか!」

「先生、どんな魔法使ったんですか! オリジナルですか!」

 その声がライズの周りで起きるも、それを気にせずにトルネ先生のもとへ。

「トルネ先生、魔法師同士の戦闘を......教えてくださるんでしたっけ?」

 その瞬間、教室から笑いが漏れる。この場の全員は彼の雄姿.......というより蛮行を目撃している。
 ライズのその言葉と、生徒の好奇な視線に当てられたトルネ先生は、「お、覚えてろよ!」と何ともお決まりの捨て台詞を吐きながら、授業をすっぽかしてどこかへと行ってしまった。

 きっと、あの人はまだ魔法に夢を見ていたのだろう。魔法は人の願いをかなえる力だ、魔法は人の暮らしを豊かにするものだと、まだ思っていたのだろう。

 実際は、そんなことあるはずがないのに。人の願いをかなえる、即ち欲望をかなえる力だというのだから、人殺しは当然のごとく、強盗、強姦をはじめとするほとんどの犯罪に魔法は使われている。

 戦争なんて、最たる例だろう。魔法を使った戦争を開始してから、戦死者は以前の数倍に伸びた。
 数倍というおとなしい数字に落ち着いたのは当然、全滅したためにこれ以上の伸びようがなかったからだ。
 けれど、戦争は終わらない。もうすぐ商国と戦争するという情報まで出ている。

 いつの世でも、魔法はどこまで行っても人殺しの道具なのだ。
 あのイカれた教団にとっても、『あの日』あの場にいた者たちにとっても.......そして、俺にとっても。

「......―――ライズ先生!」

 声が聞こえた。目の前のエアリからだった。

「トルネ先生が戻ってこないので、授業をお願いします!」

 そういえば、教室から走り去ってから戻ってきていない。何処をほっつき歩いているのか。己の無力さを悔やむか、外法の業に手を染めるか。ひたすら研究して、新たな世界を作るのか。......最後はないか。

 ライズは頭を横に振って、トルネ先生に対する思考を放棄した。
 今は、この子たちを教え導かねば。

「さて、授業を始めようか」

 ライズの声で、魔法理論の授業が始まった。






「これで、今日の授業は終わりだ。各自予習しておいてくれ」

 そうライズが言った瞬間、鐘の音が鳴り響く。

 ライズはすぐに研究をしようと、資料をもって研究室へと戻ろうとする。が、教室の前にいた理事長に呼び出される。

「お客人が来ていたのでここまで呼びに来させていただいた! ささ、ライズ先生! こちらへどうぞ!」

 ライズは理事長に引っ張られるようにして、応接間へと急かされた。



「お客人は君と一対一で話したいらしくてね。わたしはここで待っているとするよ」

 理事長が戸の前でそう言った。
 ライズは来客に心当たりがなくもなかったが、今日接触とは、案外早いものだ。それとも、教団からの襲撃を重く見ているか。どちらかだろう。

 戸を開ける。

 そこにいたのは、顔をお面で隠した白髪の女性。

 華奢な肉付きをした、黒いドレスに身を包む女性。その雰囲気はどこかつかみにくいと初対面なら思うだろう。

 が、やはり。そうライズは思った。もちろん心当たりが的中した意味だ。

「お久しぶり。元気にしてた?」

 仮面と黒の服装という暗そうなイメージを一気に吹き飛ばすぐらいに明るい声でそう言った。

「まぁな。そっちもみんな元気してるか?」

「もちろん。ライズの持ってた金を使って豪遊したり、研究三昧したり、あと暴食の限りを尽くしたり。まぁ、誰が誰だか想像はできるよね」

「もちろん」

 そう、こいつが俺の無一文事件の元凶であった。全財産を没収され、王都の片隅に投げ捨てられるようにしておいてかれた俺の心が、どれだけすさんだか。

 そんなことをライズは考えていて、黒いドレスの女性はそれを見て「そうかそうか」 と言っていた。心なしかその声は楽しそうだった。

「それで、ここまで来て何の用だ。全財産またむしりに来たのか」

「それもあるけど、一番はもう一度協力を、と思って」

「断る」

「どうして?」

「俺の魔法は、この世界には不要だ、そう実感したからだ」

「実際、あれはまぎれもない『勝利』だった。それでも不満?」

「まだ、俺はそう割り切れていないからな」

「そう。なら無理やりにとは言わない。けれど、まだこの学園への襲撃は終わっていない、それを覚えといて」

「わかってる」

 そう言ったライズ。黒いドレスの女性は「それじゃ、またね」と言い残すと、まるで最初からそこにいなかったかのように、焦点が合わなくなり、消えていた。

「はぁ......」

 さっきはトルネ先生が夢を見ているといったが、俺もまだ、夢を見ているのかもな......
 現実に耐えられないから夢を見る。現実が怖いから夢へと逃げる。

 それを正しいだなんて、誰も言わないだろう。
 もう、この思いも、封印だな......

 ライズは重い腰を上げて、応接室を出るのだった。
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