英雄教科書

大山 たろう

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1-9 トルネ先生の行方

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「どなたでしたか?」

「あぁ、まぁ、知り合いですよ」

ライズはそう答える。実際その通りではあるが、真実をすべて話さないのはご法度だ。

「そうですか、それで、その方はどこへ?」

「あぁ、消えました」

「消えた!? まさか、ライズ先生が消した......?」

「何を物騒なことを」

つい声が出てしまった。にしても想像力豊かな理事長だこと。俺が消しただなんて、そんな兆候も、詠唱もなかっただろうに。

「そ、そうですよね......どんな魔法だろうか、それともスキルだろうか? あぁ、分からないって、いいですねぇ......」

はぁ、はぁと息が荒くなる。頬は赤く染まり、体を抱きかかえくねくねしている。
男がこんな動きをしたところでだれも得しないだろうが、ライズはあいにくそれを止めるすべを持っていない。


彼がこれほど魔法で解決したくなったのに解決できないのは人生で三度目だ。


「はぁ......」

ライズは、深くため息をついた。


二日後。研究の器具を少しずつ買い集め、準備と理論を組み立てているが、流石に今日は出勤だ。

きちんと時計を見て、職員会議に間に合わせる。

「さて、今日は残念なお知らせから始まる。魔法理論を教えていたトルネ先生が、先日退職なさった。事件の後から体調がすぐれないとのことだが、引継ぎはライズ先生にしっかり行っていると聞いている。任せたぞ!」

そういってライズは理事長に背中をバシバシと叩かれる。

「なにももらってないし何も教えてもらってないですけど」

「......今、なんと?」

「だから、何ももらってないし、何一つとして教えてもらったこと、ないです」

「なんですとおおおお!」

理事長が頭を抱えて叫んだ。
これがトルネ先生最後の嫌がらせだと考えると、少しかわいく見えてきた。とはいえ、迷惑をかけられているのは変わらないので、何とも言えないのだが。

「とりあえず頑張りますね」

「すまぬの......」

一気に落ち込む理事長。この人感情の起伏が結構激しい。今は一気に落ち込んで少し禿げた頭を俺に突き出してきている。
一応立場が上の存在なので、しっかりとフォローを入れておく。

魔法理論は今日は一時間目か。
時間割を確認したライズは、必要な教科書などをもって、教室へと歩いていく。

教室についたころには、ほとんどの生徒がそろっていた。

「あれ、ガイア、来てないのか?」

「今日は来てないみたいです」

そう答えたのはエアリ。人類誰しも体調を崩すこともあるだろうから特に気にしてはならないのだろうが、少し気になる。

なんというか、嫌な予感がする。
こういう時の勘は結構当たるから、一応手を打っておくか。

ライズは「ガイア休み」とだけメモを取り、授業を始めた。

「今日は詠唱以外の発動形式について話すぞ」


その言葉で、ライズの授業が始まった。

「魔法は大きく分けて詠唱式、魔法陣式、そして舞踏式がある。今までやっていたのはこれの一つ目、詠唱だ。」

そしてライズは黒板へと文字を書き連ねる。

「これが今日触れる魔法陣式。これの特徴は、高価な材料を使えば、魔力を込めるだけで書き込んだ魔法が使えるというところにある」

「メリットとデメリットってあるんですか?」

エアリが質問を飛ばす。

「そうだな。メリットは声に出さない分、隠密性が高い。そして二つ以上の魔法を同時に使用できる点だ。デメリットは魔法の規模と比例して魔法陣も大きくなること、文字を物体に書き込む際のコストが馬鹿にならないってとこかな」

「それでは、今日は簡単な魔法陣を作っていこうか」

「簡単に作れるんですか!?」

「あぁ。とはいっても一度限り。自身の魔力で描く方法だ。魔力を放出、そして魔法文字を書き、魔法陣とする。そして射出をしてやると...っと。これが魔法陣を使った『魔弾』だな、実際に作ってみよう」

「はーい!」

生徒は魔法陣を教科書に沿って試作する。
も、誰一人として成功しない。

「まぁ、一時間でできるならこの世は魔法師だらけだ、安心していいぞ。それに、魔法文字が刻印された武器なり道具を買うのも手だからな」

授業終了の鐘の音を聞いたライズは、そう言葉を投げかけてその部屋を後にするのだった。

「あ、ライズ先生! どうでしたか?」

そう言って駆け寄ってきたソフィア先生。とててて、という音がぴったりの走り方が、なんとも愛らしく見える。

しっかし、とライズはあの夜を思い出す。

月明かりに照らされて微笑むソフィア先生。そう、あれはまるで......

そう、月の魔力に照らされて、というものだろう。魔法のない、魔力もない世界でこの魔力という言葉を使っているということに驚きを隠せなかったが、魔力、という表現も間違いではなさそうだ。

「どうかしましたか?」

ソフィア先生がのぞき込んでくる。その大きな瞳が、ライズをいっぱいに移している。

「い、いえ、何でもないですよ」

そのうさ耳が生えてると錯覚するほどのその小動物的なしぐさを見て、俺が惚れているのではないかと思ったライズ。

「そうですか! それは良かったです!」

「えぇ、そうですね。何事もなく終われてよかったですよ」

もしかしたら、俺は。
この先生に、惚れてしまったのかもしれない。

そんな思いを胸に抱いたライズであった。

「?」

そして、そんなことを一切意識していない様子のソフィア先生だった。
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