世界変革のすゝめ ~我が物顔で世界を害すヒト種よ、一回引っ込め~

大山 たろう

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第一部 ダンジョンマスター 前編

ケース2 遠藤浩二 其ノ弐

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 数時間後。



「どうだ! 溜まったぞ!」



「三だけ」



「......」



 そう、この方法はあまりにも効率が悪かった。



「訓練はチームワークの強化はされた。けれどまだステータスの成長は見られない。魔物はやはり人間を倒してレベルが上がる」



「そうなのか.....なら、そろそろ考えないとな」



「何を?」



「人間をおびき寄せる方法さ」



 そう、考えていたのは生きる糧、DPを得るための人間をいかにしてこのダンジョンにおびき寄せるか。適度な強さであればすぐに処理、そして強い人間の時はどう防衛するか、それを考えないといけない。



「どうする」



「とりあえずポイントを使わずに何とかぎりぎりまでやりくりして、最終手段で人間を呼び寄せようか」



「わかった。それまではウルフの訓練?」



「そうだな。それとステータスを確認する方法と、あとは......そうだ、お前は戦闘できるのか?」



「できる。むしろ戦闘できるから初期DP少なめ」



「そうなのか......なら防衛は任せてもいいか?」



「言われなくてもそうしてる。コアが壊れるとマスターもピクシーも死滅する」



「ピクシーって、お前も?」





 その問いに彼女は何も言わずに頷くだけだった。けれど、その問いの返答はそれで十分だった。

 そして彼女から死滅という言葉を聞いてその実感がわいてきた。

 これは、あの爺による生存競争だ。



 弱ければ死ぬ、強くなって、弱者を踏み台にして、強く、大きくして、初めて安心できる、勝者となれるのだろう。



 軽々しく序盤苦しくても、などと言っていたが、実際序盤に好スタートを切った人たちからすれば、俺は格好の餌食ではないか。

 そんな当たり前の、けれど実感がわかなかったこの現実に、俺は冷や汗が止まらなかった。



 いつまで、この死の恐怖と隣り合わせでいなければならないのだろうか。いつまで、序盤が続くのだろうか。いつまで、ここで人間にばれずに生活をすることができるのだろうか。



 そんな終わりのない始まりはすでに過ぎていたことを、そしてこの世界でいきるということを。彼女は俺に再確認させてくれた。



「ありがとな」



 その一言だけだが、その中にすべて籠っている。全て集めたありがとう。



 俺は、強者の側に回ってやる!



「なにがありがとうなのかはわからないけど、どういたしまして」



 そう、彼女も微笑みながら返してくれた。

 序盤は、中盤は、なんていらない。



 先を考えた今を生きるんだ。





 その後、俺はウルフを訓練のために森で狩りをさせながら、鳥を召喚して、周囲の地形をマッピングしていた。



 ここは森の中心。近くに小さな村があるものの、地上から攻めようとすると迷いそうな構造をしている。



 そして周囲にほかのダンジョンは少なくともその村までぐらいの半径の中では視認できなかった。



 これは、まず幸運をかみしめるべきなのか、それとも村が少ないことに対して落ち込むべきなのか。



 何はともあれ、その村も結構な距離があるため、こちらから攻めない限りはばれない、つまりこの攻められない平穏な日々はまだ続く、ってことだ。



 このまま貧乏生活を続けてでも一日でもながく生きていたい、そう思ったが、いずれ勢力を伸ばしてくるであろう他ダンジョンマスターの襲撃がないとは限らないし、村から視察に出た村人から見つけられて討伐体が組まれた時には彼女一人で倒せるとは思えない。多数に無勢。そうなることは目に見えている。



 ならば。村に手をかけずに、DPを稼ぐ方法。





 ......そうか。別に、多数を相手どらなくても問題ないのか。



「すまないけど、深夜、この村からちょうどいい男女を二人ほど、誘拐してきてくれ」



 これがどれだけリスクがあるかは承知の上だ。けれど、今が一番兵が疲弊していなくて、リソースが残っている状況。これ以上良くなる見込みがないのなら、今。仕掛けるしかないだろう。



「わかった」



 もしかしたら、あの村にはエルフが住んでるかもしれない。もしかしたら何か特殊な連絡手段があるかもしれない。もしかしたら、夜目が効いて、誘拐が失敗に終わって敵対するだけかもしれない。



 けれど、今しかない。これしか考えられない。



「決行は日付が変わったころ。ちょうどよさそうな人を、男子一人女子一人を目標に誘拐。これでいい?」



「ああ」



 彼女の口から誘拐という言葉が出てきたとき、俺が今言ったことはただの犯罪の命令だったことを感じさせられる。

 けれど、生きると決めた。弱者を踏み台にすると決めた。ならば、この手で救えないものは容赦なく踏み台にしていこう。



 もう、犯罪だろうがなんだろうがもう知ったことか。

 俺は俺の決めた道を行く。



 作戦決行予定時刻は、刻一刻と近づいてくる。



「ほう、この時点でここまで覚悟を決めてるとは」



「しかも、初期スポーン地点は大国と呼ばれる三国に挟まれる位置に存在している―――――」



「―――――世界創造の時に作成された『試練』か」



「そう。これを超えたら更なる発展を促せる物質を手に入れられるっていうものだった。けれど、獣の多さと、その森の性質から、六割は踏み込もうともしない。残る四割も足を踏み入れたまま帰ったことはない。それくらい、厳しい環境」



「そうだよな。スポーンを惑星全土にしたのが間違いだったというべきか、それとも幸運にも獣系で揃えているから成長を喜ぶべきか。」



「まぁ、いいんじゃない? デイリーボーナスみたいなもの、用意しててもいいかもと思ったけど」



「そうだな。けど権能が追い付かなくなりそうだから、少なめに送っていくか。」



「賛成。それじゃ、計画まとめとく」



「おう。今からか?」



「うん。忘れないうちにしておこうと思って」



「それじゃ、今ある世界の管理と新しい世界の創造でもしとくわ」



「わかった、それじゃ、また後で」



 そう言った後、二人は記録の閲覧をやめ、各自の作業を始めた。



 彼は構想を練って、人間が進化の歴史をたどれるように因果律を操作し、水と大気が存在する奇跡の星が出来上がるように世界を書き換えた。

 数秒後、彼の書き換えた後の因果律の通りに物語は進行し、やがて水と大気が存在し、近くに恒星が存在するという、生物が想像されるための第一段階が終了した。



 次に、適当なスパンで別の生物が出来上がるように操作する。

 ファンタジーな世界なら、ここでスライムを投入すれば解決なのだが、今回はそうもいかない。



 スライムは万物の種の役割を持つ。

 進化のペースが従来の生物に比べて極端に速く、不定形な体を何度も何度も変え続ける。

 そして形が定まったところで、新たな種の誕生とともに、その進化の速さも収束する。

 前の世界はこれを投下して、因果律を操作してやるだけで、彼の前いた世界で見た生物を作ることに成功している。



 が、今回は前と同じような世界にしよう。

 そう考えたたろーは、その世界の時間の進みを今いる空間が一秒過ぎるごとに一年過ぎるように設定する。

 もっと一瞬で完成させてしまいたかったのだが、残念なことに彼の権限はあくまで渡されただけで、元から備え付けられていたものではない、つまり人間がパソコンで様々な情報処理をしているようなもので、その力には限界がやはり存在した。



 それでも十分な効力を発揮したので、そのまま少し......そうだな、まずは一億秒、大体三年とちょっと。それくらいなら舞って見せよう。



 そういって、しかし待つのが苦手な彼は、自身よりも能力の限界値が高いぜっちゃんと呼ぶ彼女を呼ぶことに決めたのだった。









 彼女は、メモを取っていた。

 あの世界を、どこまでなら権限で干渉しても良いのか。



 まずはどうしても付きまとうキャパシティの問題。

 これに関してはどこかの誰かが一気に世界を壊す勢いでDPを使わなければ問題ないだろう。



 次に、単純な物質的なもの。



 鉄を生成を繰り返した時、その惑星に大量に存在するその鉄の価値は下がっていく。

 鉄ならまだこれだけで済むが、金だとそうはいかない。

 一時的な戦争は起きるだろう。金を産出するダンジョンを大国がほおっておくわけがない。

 けれど、その後だ。



 簡単に言えば、貨幣価値の暴落だ。

 金貨というのはまだオーソドックスな貨幣だ。

 これが大量生産された日には......まぁ、ご想像の通りだ。

 そしてこちらとしても世界を破滅させるようなバランス崩壊は望んではいない。こちらが求めているのはあくまでも間引き、種を絶滅してほしいわけではないのだ。



「持ち出しても問題ない程度に.......ダンジョンの中でしか加工できないようにして......これの物質名は『魔鉄』いや、『迷宮鉄』」



 ぶつぶつとつぶやきながら、彼女はひたすらに変更を施す。



「これで良しっと。さ、続きみよっと」



 書いていたメモを放り出し、変更を終えた世界をもって、その記録をまた二人で見に行くのだった。

 この後、たろーのおねがいに彼女の眉間にしわが立った。



「さ、見るよ」



「はい......」



 あの後電撃をもらえずにただ無言の圧力を食らって幼女に屈したたろー。

 少しテンションが低いが、全能神は記録を再生する。

 映ったのは深夜の光景だった。



 通信機を買うDPすらない今の財政では、二人をつなぐものはない。

 もう引き金は引かれた。もう作戦は止まらない



 彼女、ピクシーが最初期から持っていた腕時計を見る。

 五、四、三、二、一



 零。



 全ての針が寸分狂わず同じ方向を向いた。

 微量の月明かりが照らすこの日。ピクシーは作戦を決行した。

 待機していた木陰から飛び出し、すぐに家―――とはいっても木をくりぬいて作られた住宅―――へと進入する。そしてそこにいた双子の兄弟を視界にとらえた。今日はこの二人が限界か―――、そう思っていたが、後ろから明かりがともり、人影が伸びる。



「誰だ!」



 そう大きな声を出したのは細身の男性。

 それに対してピクシーは顔を隠し、後ろに下がる。



「ま、待ってくれ! この二人は、『忌み子』なんだ」



「忌み......」



 思わずピクシーもそう返す。



「明日......いや、今日か。その子たちは、村の掟で殺される。だから、その子たちを連れて行ってはくれないか」



「生かすとは限らないぞ?」



「構わない。私たちの手で二人を終わらせたくない、責任の押し付けだ。身勝手な願いだ。だけど、聞いてはくれないだろうか」



「......分かった」



 ピクシーは能力にものを言わせて二人を担ぐと、そのまま音もたてずに家を飛び出した。



「どうか、二人の未来が輝かしいものであることを祈っているよ」



 それが、両親の最後の願いだった。









「連れてきた、けど殺させない。私がお世話する」



 ピクシーが自ら意思を話したのはこれが初めてではないだろうか。

 この意気に負けて、許可を......



「俺、元から殺す気なかったぞ」



「そうなの?」



 二人の間に齟齬が起きていたようだ。







「若めの二人って言ったろ? このダンジョンに住まわせて、継続的なDP回収をする予定だったんだよ」



「そう、でも私が育てる」



「その離婚寸前の夫婦みたいなこと言わないでくれよ......お前が育てるのに反対しているわけじゃないからさ」



「そう。わかった。それじゃ、今日は寝る」



「俺も寝るか。熊ー、その二人起きたら捕まえといてくれ。お休み」



 二人は熊のいる部屋の一つ奥、コアの部屋で眠りについた。
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