世界変革のすゝめ ~我が物顔で世界を害すヒト種よ、一回引っ込め~

大山 たろう

文字の大きさ
9 / 42
第一部 ダンジョンマスター 前編

ケース3 哀川 愛理 一人目

しおりを挟む
「ダンジョン、どう?」

「前の種族傾向値アップデートを済ませてから、みんな何かに特化してるみたいだ。ちなみに俺は妖精族のくくりだったりする、そっちはどうだ?」

「悪魔族のくくりだった、エイリアン、悪魔じゃないのに」

「まぁ、くくり上そうせざるを得なかったとこもあるがな......」

「処理が増えるくらいならこっちのほうがいい」

「そうか」

 今現在、この世界の演算をこの少女、とはいっても全能神の脳を借りる形で演算を行っている。つまり、俺が操作をミスったら最悪この子が廃人ってことだ。そんなことするわけがないが。
 そのため、世界のルール一つ追加するのさえ、本当は結構ためらうのだ。今回はこれ以上何もしなかったら人類だけの星が誕生して面白くないから、という理由でダンジョンマスターを追加した。苦肉の策といえば苦肉の策。結構なルール追加があったろうに、それでも平然としている彼女、大丈夫だろうか。きっと顔には出さないのだろうが。そしてきっと、顔に出すときはもうどうしようもないときなのだろう。

「あいつはもう大丈夫そう。三人の大切な仲間を手に入れた。それならあの環境で生き残れないわけがない」

「ん、そうだな。大丈夫だろう。俺も因果律操作のやることは済ませたし、次見るか?」

「そうする」

 二人は、また新しい人の記録を見始めた。


 私は、ただのイケメンアイドル好きの乙女だった。
 そう思っていた。

 毎日毎日早朝から深夜まで会社へと勤め、金を稼ぎ、最低限の金を残して微量を貯金へと回し、そのほかをすべて推しへと貢いだ。後悔はしていない。毎日が生き生きとして、この垂らした汗水の、流した血涙の分だけ、彼らが喜んでくれると思ったから。

 その毎日の崩壊は、思わぬところで起こったが。






「ふぉっふぉっふぉっ、よく来てくれたの。ここは神の世界、とでも言うべき場所じゃ。おぬしたちにはこれから異世界へと行ってもらって、あることをしてもらう」

 その老人、どう見てもイケメンには見えないその容姿に、少しも聞く気が起きなかったが、この不可解な現状を理解するためには、彼......と呼ぶよりおじいさんと呼んだほうが良いのではないかというレベルの人の言葉に耳を傾けた。

 しかし、具体的な説明は何もなく、気が付いたら草原にいた。

「こんなとこ、いつ以来だろ......」

 イケメンアイドルに声を上げ、クソ上司に声を上げられ。車、バイク、コンビニ、スーパー、電車、飛行機、テレビに至るまで、いつも騒がしく、いつも大音量。いつも周囲は、自身は、自分の意見を知ってもらうために、あるいはそんなことに関係なく、ひたすらに音を発し続けていた。

 なのに、この風景。
 草は風に揺れて、激しい主張をすることなく、音をささやくように伝えてきた。
 太陽はまぶしいぐらいにあたりを照らして、だが不思議と嫌な感じはしなかった。
 空には見たこともないような鮮やかな青色の羽をした鳥が、いつも見なかった、澄んだ青空を飛んでいた。

 ......別の世界へ来た? 一度だけ読んだことがある、異世界転移というものに、状況はよく似ている。むしろ、似すぎている。

 そう彼女は考えたが、その考えは風と共にどこかへと流れていった。

「推し、悲しまないかな......」

 それが、彼女、哀川 愛理の、この世界での初めての感情だった。

 ともあれ、ここで突っ立っていても、何も起きない。
 そう考え、周囲を見回した時、見つけたのは一つの小さな村と、ぐにぐにとした物体だった。

「情報受信中――――――完了。」

 その物体は機械的な声でそう言った後、形を変えていき、ついには人の形をとった。

「おはようございます、私はダンジョンマスター支援用ピクシー第90号です」

 白髪の老人は、そう言った。
 とはいっても、白髪の老人では先ほどのおじいさんとは違って、タキシードを見事に着こなした、おじい様、といった容姿だった。まさに、私がお世話されたいと思う容姿。こんな執事がいたらなぁランキングの第一位だ。こんな執事カフェあったら即行く。

「よ、よろしくお願いします。」

「なんとお呼びしましょうか、哀川様、愛理様、お嬢様、マイマスターなど、何でも構いません」

「お、お嬢様で!」

 反射的にそう言った。最高かよ、異世界。

「かしこまりました、お嬢様。お嬢様には、これからダンジョンを作ってもらいます。」

「ダンジョン?」

「そうです。敵が出てきたり、罠が仕掛けてあったり。迷路になっていたり、侵入者を奥に通さない、そんなものを作ってほしいのです」

「わ、わかったわ」

「では、この場所にダンジョンを作ってもらいますので、こちらの端末をお持ちください。」

「わかった」

 渡されたのはタブレット端末。

「それでは、こちらの紹介動画をご覧ください」

 そう言って、執事の彼が何度か操作をした後、出てきたのは一つの動画、これが紹介動画ってものだろうか。
 私は、それを黙ってみるのだった。

「見終えたわ。これを私も作ればいいのね」

「さようでございます。それで、何か作りたいものはございましたか。一応特色が乗っていたと思いますが」

「そうね、アンデッド、というものに非常に興味がわいたわ。どうかしら。」

「そうですね......理由をお聞かせ願えますか?」

「イケメンを撃退して、アンデッドにしたら侍らせられるじゃない!」

 そう、草原に響き渡るぐらいの大音量で叫んだ。

「そうですね。それは良い目標です。それでは、実際に作っていきましょう。作り方は紹介動画の通りです」

「わかったわ」

 私は操作をしていく。

 出来上がったのは一階層、部屋がいくつかあって、コアの前に自室があるといった、オーソドックスな形だった。

「ポイントが安定供給されてない今、一度限りの罠が多用されていないのは良い点です。ポイントも十分量残されているようで。良いですよ」

「ありがと。それで、一つ聞きたいのだけれど」

「何でございましょう」

「このスキルってものなんだけど」

「スキルですね。それはこの世界の住民は一つ、最初に必ず持っているものです。例外はありません。そしてダンジョンマスター、お嬢様のことですが、スキルを購入、習得することで、五つまでスキルを獲得することができます。ちなみに原住民や、モンスターもスキルスクロールを使えば習得できますが、まだ流通はしていないですな」

「本当! それなら、もう一つ聞きたいのだけれど」

「どうされましたか」

「私たちって、食事、必要かしら?」

「生きるという意味では、必要ありません。最も、娯楽という意味では必要ですが」

「それなら大丈夫よ」

 そう言って、残りのポイントのほとんどをあるスキルにつぎ込んだ。

「お嬢様、一体何を?」

「何って、魂魄魔法を習得したのよ、これでアンデッド、作れるのでしょう?」

「そうですが......過酷かもしれませぬぞ」

「何が?」

「まぁ、今は大丈夫でしょう。いざとなれば私も助力します。さて、この後の話はダンジョン内部でしましょう」

 何かを伝えようとしていたようだが、結局口を濁してしまった。

 ダンジョン内部に入る。すると、先ほど画面越しに見ていたものがそのまま置いてあった。
 ほしいものが手に入る。それはつまり、推しのグッズも......世界超えて買えるのかな?

「さすがに世界を超えて推しのグッズは恐らく買えません、何故競争率が高いですからな」

「あ、そこなんだ」

 競争率さえ無視すれば購入できるということに驚きは隠せそうにない。これでまた彼らを応援できるってこと!

「そして、お嬢様にここで悪い知らせが二つほど」

 どうやら、ようやく彼が隠している何かを話す気になったようだ。

「まず、このダンジョンが攻略された時点で、お嬢様と私は、息を引き取ります」

 え、なんて? 息を引き取る? それってつまり、死ぬってこと? 死ぬ? 死ぬ?

 唐突な死の接近に、当然、あの平和の象徴であった世界で暮らしていた彼女は驚く。
 しかし、執事はそれの落ち着きを待つことなく言葉をつづけた。

「そして二つ目、もし誰か侵入者が現れたとき、そして仮に撃退―――いえ、殺した時、と言いましょうか。その死体に魔法をかけるのは、魂魄をこの世に縛り付けるのは、手を下すのはあなたとなってしまいました」

 二度目の衝撃が彼女を襲う。
 安直にスキルをとってしまったが故、こうなってしまった。

「それで、どうしたらいい?」

「せいぜい獲得当初では確立を上げる程度しかできないでしょう。使い方は教えます。それで近隣の村の死体相手で練習をしましょう」

「わかったわ。任せて頂戴」

 二人の、魔法の特訓が始まった。

 とはいっても、魔法の感覚自体はすぐにつかめた。このこっぱずかしい詠唱に目をつぶれば。

「わ、我は願う 汝が魂 現世に残り力を示せ!」

「上出来です、お嬢様。それでは近々、そうですね、祈りのかかっていない死体にでも、試し打ちしに行きましょうか」

 こんなおじい様執事にエスコートされるとか、完璧だろ......

「そうですね、深夜に、墓場が妥当でしょうか」

 ―――デート場所がくそ過ぎて.....

 何だよ墓場って! いや分かるよ! 魔法の練習だから、そりゃあ死体いるだろうよ! けどさ! 深夜墓場とか肝試しかよ! 中学生かよ! 夏休みかよ!

 とはいうものの、正直このおじ様に抱き着けそうでいいかも。
 すらっとした肉体、その下には筋肉がきっと。
 あぁ、抱き着きてぇ、その筋肉をすりすりしてぇ。

 顔には出さないが。声にも出さないが。心の奥には野望が三つぐらいあってもよさそうだ。そのほうが貢ぐものがあって仕事に精が出るってもんだ。

「さて、いつ行きます?」

「そうですね......まぁ、これに関しては聖水のかけられていない、祈りもされていない死体という厳しめの条件ですからそろい次第でしょうな」

 なん......だと......

 早く来い! 具体的に言うと明日の夜とかに来い!

 心の中はいつも騒音でいっぱい、本人も叫び放題、そんな、騒がしい彼女であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...