舌先三寸覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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光の湖畔編

第85話 物干しボーイズトーク (第三者視点)

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***(第三者視点)

 コニーを洗面所にうながし、彼女の脱いだ防護服を持って男たちは外に出た。
 建物を右回り方向、プランシュ置き場を通って外用の洗濯干し場に向かう。
 手慣れた仕草で自分らも脱ぎ、3着あっという間に吊るし終える。

「心が動きすぎて疲れた……」

 軒下のきしたの椅子に腰掛け、脱力したクレールがぽつりと呟く。
 そしてそのままエタンへと、語り始めた。

「湖で、コニーの瞳の色が変わった時にな。
もっとよく確認したくて、瞳を覗こうと彼女の頬に手を添えて顔を近づけたらさ。いつもの無防備なコニーの顔に、困惑が浮かんだんだよ。
そんで指でそっと唇を隠された。

心がザワっとしたね。
今覚えば、『怖がらせて悪かったな』っていう気持ちと。
『突然キスをするような男に思われたのか』って気持ちと。
それから。
『ちゃんと男としてみられてるんだなぁ』って誇らしい気持ちと。
そんなのが入り混じってたんだと思う。 

そんでさ。
トマスのせいで、ボートの上でコニーを隠すために抱きしめただろう?

あの時の僕はどうにかなってしまいそうな程、ドキドキしたんだ。
僕の鼓動の速さなんて言わずもがなだけど、彼女の心臓の音もよく聞こえてさ。

ドキドキドキドキって。
僕に伝わる速度もやっぱりとても速くて。
2人の音が重なるあの多幸感。
僕の素肌に回された手のところが……。
僕の全神経が、そこだけ剥き出しになってるみたいに、彼女の手のひらの形のまま、加熱されてくんだ。

エタン。
今までの記憶も経験も。そんなんめじゃない。
全部吹っ飛ぶ初めてさ加減っていったら、もうホント。

裸の胸に抱き込んだ身体は、驚くほど柔らかで小ちゃくて。可愛過ぎて好き過ぎて。
僕はそのまま閉じ込めてしまいたくなったよ。

でも……彼女、背中の手をキュッとしたんだ。
僕は単純に生理的にもビクッとたけど、その時、ハッと気がついてね。

彼女は上半身裸の僕に、突然抱きつかれたんだよなって。
そんで困惑してる間に、知らない人間の声が上から降ってきてさ。
なにがなんだか分かんない上に、隠れなきゃいけないことも、見つかったらそれのなにがダメなのかも分からないままにね。
さぞ不安で怖かったろうと思うよ。

それなのに僕ときたら。
緊急事態とはいえ、彼女のそんな恐怖心に気づくことも思いやろうともせず、ただ浮かれていたんだ。触れ合えたことやその温かさに、僕の手で護るんだって使命感にね。

ああ。そんな自分を知って、我ながら自分の身勝手さに心底驚いたよ。
きっと僕は。
僕自身の欲望だけに忠実な、醜い怪物なんだ。

『優しいフリしてちっとも優しくない自己中人間』て僕に言い捨てた元カノたちの言葉がさ。
今ごろ、ようやく腑に落ちたって言ったら、遅すぎるかい?

だからボートでコニーから離れたてすぐ後……。
僕は彼女の瞳を直視できなかったんだ。

僕らのこと信頼しきった、いつものあの無垢な瞳で見つめられたら。
色の変化が起きた、あの神秘の宇宙の瞳にこんな俗悪な僕を映したら。
何もかも白日の元に晒されて、元カノたちみたいに、1年と経たずしてさ。
コニーも愛想尽かして、僕の前からいなくなっちゃうかもしれないって。
なんだかもう世界が終わっちまう気分になってきて……」

「クレール、おま」

「エタン。最後まで聞いてくれ。
でもこうも思ったんだ。友達だったらって。
僕にはエタンがいるだろう。29年経っても、喧嘩しても、ずっと一緒のさ。
だからいい男じゃ無いかもしれないけど、そんなに僕は悪い人間じゃないはずだってね。

だから僕さえこんな気持ちを抱かなければ、コニーはチームからはいなくなったりしない、大丈夫だって。
僕なんかが欲して触れちゃいけない、大事な宝物なんだって。

船の上で気持ちが切り替えられたんだ。 
唯一無二の親友。オマエの存在のお陰だよ。
なんかしてもらった訳じゃないのに、ありがとうっていうのはおかしいけどな」

「はあ。マジでお前はアホだな」

 向かいに座って、前のめりで静かにクレールの話を聞いてたエタンセルは、そう言い放った。

「クレールのドアホゥ」

 脚を組んで、背もたれにドフっと踏ん反り返るように寄りかかり、さらに追い討ちをかける。

「友達だけどソレだけじゃねえから、お前そんなにドキドキしたんだろ?
『僕はマジだ』なんつって、あの時計まで渡して。
そんならしゃあねえよ。
男なんだからよ。
そんなにも好きな子を胸に抱きしめて、暴走しねえほうがおかしいっつうの。
あ! クレール、てめぇまさか」
 
 チラっとクレールの下半身を、エタンセルが見やる。

「違っ!! 離れてたって! コニーとくっついてのは上半身だけだって」
ガッっと、勢いよくクレールが椅子から立ち上がった。

「行こうぜ、相棒。コニーが待ってる。
ああ、俺も……なんかそんなん分かっから……」

 クレールと一緒に立ち上がり、『ああ俺も……』あたりでくるりとエタンは背を向け、数歩先に歩いたところで立ち止まった。
 クレールに背を向けたまま、ポケットに手を入れ、ぼっつらぼっつら持論を話し出す。

「恋人が過去にいたといえども。そん時はまあ好きだと思って大事にしてたかもしんねぇけど。

そういうんじゃねぇんだろ? コニーに対する気持ちは。

今まではいつも、『なんか違う』と、どっかで思って。
ど真ん中が冷めたまんまで、流されるままに過ごしていた『好き』とはさ。

世界がひっくり返っちまう本物の『好き』にお前は出逢ったんだろ?

恋に落ちる理由なんていらねえぐらいによ。
お前がコニーを初めて森で見た瞬間から、問答無用に『好き』に鷲掴みされてることぐらい、俺にはお見通しだぜ。
生まれる前からの付き合い舐めんな。

なぁに、今までの恋人たちはよ。
酷なことだが、何が何でも欲しいと思うもんじゃなかったから、本当に大事なもんじゃなかったから、大事にできなかっただけのことだ。

じゃあ問題ねえよ。
心の底から初めて欲した『本物ほんもんの宝物』が自分の腕の中にいたんだ。理屈とか理性とかブッ飛ばして全身が沸騰しちまうのは当然だろうよ。

クレール、お前は彼女を好きなまんまでいいんだ。大丈夫だ。友達としても男としてもお前は申し分ねえ。

ただし、今は押しまくるな。
その時じゃねえし、そういう女の子じゃない。
根拠は、まあ、単なる俺の勘だけどな」

 エタンはそう言い終え、
「おら、行くぞ」
にやりと振り返り、クレールを促した。

 彼がどんな顔をして、それらの言葉を語ったのか。
クレールも、エタン自身も、知る由はなかった。

******

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