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光の湖畔編
第84話 鏡で確認うわぁお
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髪の毛を適当に自分で結んで帽子にしまう。
もしもまた誰かに出会った時は、クレールとエタンにサンドされて隠れる、とにかく防護服のまま急いで戻ろう、と打合せする。
なにやかや話しているうちにボートは到着し、桟橋から私たちは上陸した。
湖まで行きは下り坂であっという間だったけど、帰りの登り坂は微妙にしんどい。
日頃の運動不足を痛感する。
労働と運動は違うのだ。
うう、クレールさん、定番のお手を今あなたにしていますが、腕組んで体重かけてもいいっすか?
ラストあと家までもうちょいのとこで、ふと、いたずら心が湧き上がってきた。
気合を入れて2人を振り切って、突然一人走りだして坂を登り……
そんで銀の玄関プレートにタ~チッ!
「はっ! はぁ、はぁ、やったね! 一抜け一番のり~!!」
ぜぃはぁしつつ、満面の笑みで彼らの方に向き直って、手を振った。
うふふ、呆気に取られてる。
ちょっと子供っぽかったかな?
「「コニー!!」」
2人とも猛ダッシュで駆け上がってきた。
慌てふためいた様子でクレールが
「どうやって扉を開けたの?!!」
と私の後ろを指差す。
ほへ?
振り向くと家の扉が開いている。
「……えっと……ただ銀のとこ触っただけ?」
「マジか……」
「と、とにかく中に入ろう」
片付けも2人でやっておくから話はあとで、と。
玄関口にて私だけ防護服を脱ぎ、洗面所に送り出してもらった。
「わあ……なるほど……」
帽子をとって、髪を解いて、鏡で自分を確認中。
本当に鏡に映ったソレは美しかった。
長い髪の毛の色はやっぱりプレシャスオパールみたいで、七色の妖精が乳白色レースに包まって微睡んでいるような……
可愛くって、キラキラしていて、とても神秘的。
ストレートヘアなら、凪いだ水面のようで光の湖にもっと似ていたかもしれない。
そして今はいつもの私のふわふわヘアでなく、三つ編みを解いた後の規則正しいウェーブなので、まさにカラーリングとパーマでそんなふうに美容院でしてもらったみたいだ。
そんなカラーありえないけどね!
予想通り眉毛もまつ毛も乳白色だった。
群青色の瞳も、今度は一瞬じゃないからじっくり観察できる。
本当に夜空のようで、さらには遠くの宇宙と繋がっていて交信しているんじゃないかと思わせる瞳。
でも……真っ先に思い浮かんだのは、生前お母さんが大事につけてくれてた、ベネチアングラスのペンダント、だった。
いつだったか、なんかの美術展のお土産コーナーで見つけて、「あ、お母さん好きそう……思い切って奮発しちゃおう!」と買って帰り、お母さんの誕生日が来た時にプレゼントしたやつ。
お母さんの死後、形見分けの時になんとなく義姉にも親戚にも見られたくなくて、先にこっそり持ち帰って自分の引き出しにしまっといたもの。
あの日以来、開けて見てない。
この瞳は、あんなに単純でくっきりした絵柄ではなく、正直似ていないと思う。
それでも真っ先になぜか思い出した。
私がこの世界で意識を取り戻した最初の朝、まあ昼だけど、鏡に向かって問いかけたように、群青色の瞳に私は問いかける。
なんとなくどっかで見守ってくれてるような気がする例の存在も含めて。
ねえ、虹の方様……
この髪の色は、あなたの住まう湖の色に由来しているのでしょうか?
あの小さき生き物は、あの仔は一体あなたの何なのかしら?
私とあの仔の瞳の色とはお揃いですよね?
宇宙と繋がっているような壮大なスケールのあなたとも、お揃いってことなの?
つるんとした水まんじゅうが、あの仔が、子猫になったのも。
ぬぬむぅって鳴いたのも。
そしてこの瞳が群青色なのも。
もしかして。
私の好きなものだったから?
だって地球人にはそれぞれぴったりの望むような能力を授けて下さっているんでしょう?
ってことは、入り込んだ時に対象者をリサーチしてるわけで……
なんか脳みそスキャンされたみたいで怖いけど。
でも、喜んでもらえるより良いもんあげたいって、あなたの好意のように思えるよ。
独りぼっちで淋しかった私が、新世界で最初っからこんなにも安心して過ごせてる。
クレールとエタン。
温かく私を迎え入れてくれる2人に真っ先に出会えたのは、偶然でない気が……する。
虹の方様が、この時間軸に、この場所に、選んで私を連れてきてくれたの?
この湖とてつもなくデカくて、拠点も他にあるんでしょう?
でも、そのせいで2人に待ち受けていた幸せな未来を……私が割り込んで歪めたり、運命を狂わせたりしていないか、不安にもなる。
私は。
あなたにもらえた能力で、この畔を出て行っても、なんとかちゃんと生きていけそうだから。
だから、クレールとエタンは。
私に振り回させることなく今まで通り自由でいて欲しい。
でも。
でも……やっぱり……私これからも一緒にいたい……
うん。
そうはいってもさ、虹の方様が直接彼らになんかした訳じゃないもんね。
出会っちゃったんだからもう仕方ないよね。
こっから先は、どうするかは、私たち次第だよね。
だから……
巻き込んじゃったからって、クレールとエタンに変な後ろめたさを持つ必要もない……よね?
私のせいで~なんて、逆に自意識過剰で失礼にあたると思うわ。
『おヌル様だからじゃなくてコニーだから』
そう言ってくれて、私を仲間に迎え入れてくれた彼らに対して……
虹の方様がプレゼントしてくれた縁。
そう考えると、運命的でとても甘美に思える。
だけど。
むしろ、そんなものに抗いたい気持ちも湧き起こってくる。
特別な出会いだったから特別な絆なんじゃなくて。
大事に思うから、離れても、自由でも、ずっと繋がっていたい、そう思える関係を。
私はこれから、あの2人と築いていきたい。
うん、考えがまとまってスッキリしてきた。
そっと目を閉じて、鏡通信を終える。
そして再び鏡の中の自分と目が合うと。
「もう、私は。空っぽじゃないのね。
ありがとう
虹の方様」
自然にそんな言葉がぽろり、声となって溢れ落ちた。
……さてと。
この見た目、落ち着かないけど、思ったよりはまあ全く似合わんこともない、かな?
顎をツンとあげておすまし顔で、ちょっと流し目。
とんでもない大者の、この世界の守護神様みたいな存在。
虹の方様からもらった、目に見える勇気の色だもん。
派手でもしゃあない……!
髪をゆるふわお団子にくくり、昼のスープの段取りを考えながら居間へと向かった。
もしもまた誰かに出会った時は、クレールとエタンにサンドされて隠れる、とにかく防護服のまま急いで戻ろう、と打合せする。
なにやかや話しているうちにボートは到着し、桟橋から私たちは上陸した。
湖まで行きは下り坂であっという間だったけど、帰りの登り坂は微妙にしんどい。
日頃の運動不足を痛感する。
労働と運動は違うのだ。
うう、クレールさん、定番のお手を今あなたにしていますが、腕組んで体重かけてもいいっすか?
ラストあと家までもうちょいのとこで、ふと、いたずら心が湧き上がってきた。
気合を入れて2人を振り切って、突然一人走りだして坂を登り……
そんで銀の玄関プレートにタ~チッ!
「はっ! はぁ、はぁ、やったね! 一抜け一番のり~!!」
ぜぃはぁしつつ、満面の笑みで彼らの方に向き直って、手を振った。
うふふ、呆気に取られてる。
ちょっと子供っぽかったかな?
「「コニー!!」」
2人とも猛ダッシュで駆け上がってきた。
慌てふためいた様子でクレールが
「どうやって扉を開けたの?!!」
と私の後ろを指差す。
ほへ?
振り向くと家の扉が開いている。
「……えっと……ただ銀のとこ触っただけ?」
「マジか……」
「と、とにかく中に入ろう」
片付けも2人でやっておくから話はあとで、と。
玄関口にて私だけ防護服を脱ぎ、洗面所に送り出してもらった。
「わあ……なるほど……」
帽子をとって、髪を解いて、鏡で自分を確認中。
本当に鏡に映ったソレは美しかった。
長い髪の毛の色はやっぱりプレシャスオパールみたいで、七色の妖精が乳白色レースに包まって微睡んでいるような……
可愛くって、キラキラしていて、とても神秘的。
ストレートヘアなら、凪いだ水面のようで光の湖にもっと似ていたかもしれない。
そして今はいつもの私のふわふわヘアでなく、三つ編みを解いた後の規則正しいウェーブなので、まさにカラーリングとパーマでそんなふうに美容院でしてもらったみたいだ。
そんなカラーありえないけどね!
予想通り眉毛もまつ毛も乳白色だった。
群青色の瞳も、今度は一瞬じゃないからじっくり観察できる。
本当に夜空のようで、さらには遠くの宇宙と繋がっていて交信しているんじゃないかと思わせる瞳。
でも……真っ先に思い浮かんだのは、生前お母さんが大事につけてくれてた、ベネチアングラスのペンダント、だった。
いつだったか、なんかの美術展のお土産コーナーで見つけて、「あ、お母さん好きそう……思い切って奮発しちゃおう!」と買って帰り、お母さんの誕生日が来た時にプレゼントしたやつ。
お母さんの死後、形見分けの時になんとなく義姉にも親戚にも見られたくなくて、先にこっそり持ち帰って自分の引き出しにしまっといたもの。
あの日以来、開けて見てない。
この瞳は、あんなに単純でくっきりした絵柄ではなく、正直似ていないと思う。
それでも真っ先になぜか思い出した。
私がこの世界で意識を取り戻した最初の朝、まあ昼だけど、鏡に向かって問いかけたように、群青色の瞳に私は問いかける。
なんとなくどっかで見守ってくれてるような気がする例の存在も含めて。
ねえ、虹の方様……
この髪の色は、あなたの住まう湖の色に由来しているのでしょうか?
あの小さき生き物は、あの仔は一体あなたの何なのかしら?
私とあの仔の瞳の色とはお揃いですよね?
宇宙と繋がっているような壮大なスケールのあなたとも、お揃いってことなの?
つるんとした水まんじゅうが、あの仔が、子猫になったのも。
ぬぬむぅって鳴いたのも。
そしてこの瞳が群青色なのも。
もしかして。
私の好きなものだったから?
だって地球人にはそれぞれぴったりの望むような能力を授けて下さっているんでしょう?
ってことは、入り込んだ時に対象者をリサーチしてるわけで……
なんか脳みそスキャンされたみたいで怖いけど。
でも、喜んでもらえるより良いもんあげたいって、あなたの好意のように思えるよ。
独りぼっちで淋しかった私が、新世界で最初っからこんなにも安心して過ごせてる。
クレールとエタン。
温かく私を迎え入れてくれる2人に真っ先に出会えたのは、偶然でない気が……する。
虹の方様が、この時間軸に、この場所に、選んで私を連れてきてくれたの?
この湖とてつもなくデカくて、拠点も他にあるんでしょう?
でも、そのせいで2人に待ち受けていた幸せな未来を……私が割り込んで歪めたり、運命を狂わせたりしていないか、不安にもなる。
私は。
あなたにもらえた能力で、この畔を出て行っても、なんとかちゃんと生きていけそうだから。
だから、クレールとエタンは。
私に振り回させることなく今まで通り自由でいて欲しい。
でも。
でも……やっぱり……私これからも一緒にいたい……
うん。
そうはいってもさ、虹の方様が直接彼らになんかした訳じゃないもんね。
出会っちゃったんだからもう仕方ないよね。
こっから先は、どうするかは、私たち次第だよね。
だから……
巻き込んじゃったからって、クレールとエタンに変な後ろめたさを持つ必要もない……よね?
私のせいで~なんて、逆に自意識過剰で失礼にあたると思うわ。
『おヌル様だからじゃなくてコニーだから』
そう言ってくれて、私を仲間に迎え入れてくれた彼らに対して……
虹の方様がプレゼントしてくれた縁。
そう考えると、運命的でとても甘美に思える。
だけど。
むしろ、そんなものに抗いたい気持ちも湧き起こってくる。
特別な出会いだったから特別な絆なんじゃなくて。
大事に思うから、離れても、自由でも、ずっと繋がっていたい、そう思える関係を。
私はこれから、あの2人と築いていきたい。
うん、考えがまとまってスッキリしてきた。
そっと目を閉じて、鏡通信を終える。
そして再び鏡の中の自分と目が合うと。
「もう、私は。空っぽじゃないのね。
ありがとう
虹の方様」
自然にそんな言葉がぽろり、声となって溢れ落ちた。
……さてと。
この見た目、落ち着かないけど、思ったよりはまあ全く似合わんこともない、かな?
顎をツンとあげておすまし顔で、ちょっと流し目。
とんでもない大者の、この世界の守護神様みたいな存在。
虹の方様からもらった、目に見える勇気の色だもん。
派手でもしゃあない……!
髪をゆるふわお団子にくくり、昼のスープの段取りを考えながら居間へと向かった。
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