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奇妙な青年
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夜が明け朝は早々、視界も朧げになる靄の立ち込めた街道を一台の馬車が通る。この世界において馬による移動は地方から王都へ向かう唯一の交通手段であった。
2頭の馬が引く荷台には、雨風を防ぐために幌を被せ、厚い底板の上に乗客が座せるようにと藁で編んだ敷物を並べてある。小石に躓くだけでガタガタと左右に揺れ動く車内において、それらは快適さを求めた努力のように思えた。
乗客はユウハのほかにも家族と思しき成人の男女と幼児の合計3人が同乗していた。震動する荷台の上で頑なに目を閉じる彼らは、きっと夢の中へ意識を飛び込ませようと努めているのだろうが、その表情は安楽からほど遠い険相の極みとも言えた。
それもそのはず、この揺れ様はおとぎ話で語られる"大魚のイビキ"に肩を並べるのだから無理もない。水中を伝わる音の振動が大魚以外の生き物たちの眠りを妨げてしまうという内容だったか、体を揺らされて皆気分が悪くなる。それは今の彼らと全く同じ状態であった。
ただし、揺れに苦しむ両親の腕に守られて静かに眠る幼児だけは揺れを気にせず極楽の園へ誘われ、安らぎの表情を浮かべていた。
ユウハは対面に座る家族を瞳に映しながらも、心は物思いにふけており、ドコかうわの空という様子であった。
かつてはユウハにも、両親からの寵愛をわがものにしていた時期があり、寒く凍える冬の朝とは思えないほど温かく微笑ましい家族の様子はユウハの心に温もりを感じさせるのだった。
――18年前。ユウハが生まれた日の空は彼の父と母いわく、人生史上最も美しい青に彩られていたとのことで、雲ひとつない晴天とまではいかないが、偉大な太陽の光が土地の全てを満たしていたらしい。そんな祝福とも捉えられる大空の下で生を受けたとユウハは聞かされていていた。
「ユウハ」という名は母が決めたらしい。名前は畏れ多くも《大空の神》であるアルマ・テラ・ユーハ(偉大なる天の光という意)から頂戴しており、子が神の御加護を授かるようにと願いを込めたそうだ。生まれて数年、両親の願いどおりに、ユウハは怪我ひとつなく育つのだった。
父は厳しく、母は優しく、それがユウハへ向けた家族の愛情だった。そして、それはユウハの二度と戻らない幸福であることを、今一度痛切に彼に実感させた。
「どうかされましたか?先程からこちらを見ておられますが、」
その言葉でユウハの意識は記憶の箱から戻った。
相も変らず馬車の中、記憶とどこか重なる家族が恐る恐るユウハに声をかけてきた。母親は怪訝な表情を浮かべ、父親は妻子が体で隠れるようにひとつ前に出ている。
同乗する家族の様子から、ユウハは自分の様相を確認するように己の身体へと目を移した。
およそ成人した男性とは見受けられない若い容姿。反対に、首から下はシワやほつれの目立つボロ布で覆い隠している。左の前腕から指先にかけて厚手の皮布を巻き、髪色は暗い青藍、その両方ともが周辺の土地の文化にはない珍しい特徴だった。
そんなユウハを見る2人の反応は生物として当然、子を守る立場が故の警戒である。ここでユウハが下手な返しをすると彼らの警戒心を余計に煽ることとなるだろう。
「ああ、これは申し訳ない。決して大したことではなく、幸福な家族の模範を目の当たりにして、懐かしさと感傷に浸っていたのです・・・・」
視線を家族に戻したユウハは間髪入れずに無害を主張するようなとぼけ顔を見せた。
「・・・・はあ、それはどうも、」
ユウハが子供の頃から鍛え続けた愛想笑いを見せれば、少しは警戒を解いてくれたのだろうか父親の方は気が抜けたように腰を下ろした。
しかし、このまま黙り込んでしまうと、再びあの張り詰めた空気が戻って来るだろう。重く淀んだ空気は災難を呼び寄せる魔力がある。それは平穏を望むユウハにとって耐え難く嫌悪することのひとつであった。
「・・・・あの、どちらへ向かわれるのか、よければ教えてもらっても?」
ユウハはさらに警戒される危険性を無視して、会話を続けようと2人に質問した。2人は顔を見合わせる。今度はユウハを怪しんでいる様子は見受けられなかった。
「都です。王城の下にある街、そこに一軒家を建てて、私たち3人で暮らすつもりです。都会に住むことは、田舎育ちである私のかねてよりの夢でして。」
質問に答えるためにユウハの方を向いて口を開いたのは若い母親の方だった。
「ほぉ、それは思い切りましたね。あそこは土地や住居の価格も私たちの住む田舎とは比べ物にならないほど高いと聞きますよ。」
「子供も生まれ、心機一転の時だと思い立ち上がった矢先に、今期に夫の昇進が決まったのです。夫の職は役人ですので、昇進して街の方で仕事となれば王都への移住もやむなし、」
「それで、妻が今日にも新居へ向かいたいというから、こうして夜通し馬車に揺られているわけだ。」
話が盛り上がるにつれて期待感で気持ちの高揚してきた彼女を抑えるように、夫が話へ介入してきた。
「私も子供を育てるのなら、安全な王の膝下がいいと考えていたんだ。移住は異論ナシさ。‥‥ところで、お兄さんはかなり若く見えるんだが、親元を離れて都に出稼ぎってところかな?」
「いや~、親元を離れてというか、両親とも亡くなり、遺産も少なくなって‥‥、王都に住む友人に頼らざるを得なくなったというか。‥‥ほら、最近の地方産業は不景気ですし」
ユウハは半分事実をもう半分は嘘の答えを返した。嘘を吐いた理由は特にない。強いてゆうならば、最初に話しかけた時点で確認した男の警戒心の高さを考慮したからである。残り半分の事実は赤の他人に話すことではなかった。
ユウハは俗に言う「穀潰し」であった。事情によって働く場所がなく、両親の愛とその財産に生かされていた。彼が街へ向かう大きな理由はそんな情けない今の自分を変えたいと決意したからだった。
幼児の父親は家族思いを装うユウハのために投じた話題のつもりだろうが、結果はまったく逆効果となった。青年の悲しい事情を聞いた幼児の母は彼の過去すらも勝手に悲観したようで、憐みの表情で言葉を失った。父親は他人の家庭事情に安易に首を突っ込んでしまったことを後悔しているようだ。
「‥‥しまった、」
ユウハが饒舌をもって羽のように軽やかな冗談のひとつでも言おうとする。しかし、間に合わない。向かい合う父親の申し訳ない思いで下ろした顔の方が速かった。
「・・・・、」
「‥‥、」
あっという間に車内の空気が重たくなり、口も開けづらくなる。こうなってしまえば会話は終しまいだ。
この暗く重たい空間で、連なるように訪れる災難を待つだけであるとユウハは観念したように目を瞑つぶった。
* * *
馬車がその乱暴な車輪をピタリと止めたのは、車内に地獄を彷彿とさせる辛気臭い空気が漂い始めてまもなくのことだった。同乗する一家はどうしたかと前方を窺い、ユウハはやはり来たかと深いため息を吐いた。
出発から今まで、首を鉄で固定しているかのように、前方だけを見続けていた御者の頭がここに来て初めて後ろを振り返った。彼の顔は何も言わないまま、凍りついて血液が循環しなくなったように青ざめており、非常事態の発生を乗客へ伝えるには十分な表情であった。
ユウハも同乗者の一家も、振り向いたままで口を開こうとしない御者に気味の悪さと不安を覚えたようで、お互いに向き合って硬直したままでいた。
「あの・・・・どうかされました、何か非常事態でもあったのですか?」
ここで、不気味な様子の御者へ勇敢に声をかけたのは同乗した一家の母親だった。腕内に幼児を強く抱えて、表情はこの場の誰よりもたくましく見えた。
「困りごとなら、相談していただいてもよろしいですよ。助力できることがあるかもしれませんし、」
彼女の後を追うようにユウハが狭い車内で立ち上がり、御者へ助力の有無を尋ねた。
「ほぅ、それなら大人しく座ったままでいてもらおうか」
ユウハの好意を無視したぞんざいな返事は御者のいる馬車の前方からではなかった。
彼らの後方、朝の冷気とともに風除けの幌を潜って男が現れた。体格は大きく、左の頬にある切り傷が特徴的な強面で、切り傷は顔に留まらず衣服と衣服の間からも見えた。
右の手に刃物を握った男の表情からは躊躇を感じない。また、左手で外部になんらかの指示を送っていることから、彼が徒党を組んだ悪賊の1人だということを、ユウハは推測した。
馬車の乗客たちは状況を少しずつ理解し、賊を刺激しないよう指示通りにその場に座る。
「・・・・と、盗賊がこんなおんぼろ馬車に一体なんのようで!?略奪する金品など積んではいませんよ!」
御者は震えた声で精一杯に盗賊へ略奪の無益を訴える。しかし、逆に寿命を縮めかねない行為となった。
「静かにしてろ。全員抵抗しなければ、苦しまないで死ねるように善処してやる。」
「そ、そんな・・・・。」
唖然とする御者を尻目に、悪賊の男は血痕の付着した大型ナイフをユウハたちに向けて突き立てた。おそらく、抵抗するなと脅しているのであろう。目前の危機にユウハの心臓は、生まれてこの方聞いたことのない爆音で鳴っていた。
「こ、殺さないでください!幼い子供がいるのです。欲しいものがあるならなんでも差し上げますので、私たちの命だけはどうか見逃してください!!」
絶体絶命ともいえる状況で、構えられたナイフに怯えながらも、幼児の母親は男に命乞いをする。
一体どうすればこの場を切り抜けられると言うのだろうか、もし彼女の頼みが通じるのなら、彼女が口にした「私たち」の中にユウハが含まれていてほしいものである。
「だめだ。まぁ、家族どうしで別れを告げる時間ぐらいは設けてやろう。‥‥じゃあまず先にそこの変な格好をしてるお前からだ。独り身はつらいな‥‥、さっさと馬車を出ろ!」
男に恫喝とナイフを突きつけてられて、失意のユウハは足早に馬車を降りた。馬車を出たユウハの目は今にも涙が噴出しそうだった。
思うにきっと、薄れた靄の隙間から差し込んだ朝日が、暗い馬車から連れ出されたばかりの彼の目を刺したからであろう。
2頭の馬が引く荷台には、雨風を防ぐために幌を被せ、厚い底板の上に乗客が座せるようにと藁で編んだ敷物を並べてある。小石に躓くだけでガタガタと左右に揺れ動く車内において、それらは快適さを求めた努力のように思えた。
乗客はユウハのほかにも家族と思しき成人の男女と幼児の合計3人が同乗していた。震動する荷台の上で頑なに目を閉じる彼らは、きっと夢の中へ意識を飛び込ませようと努めているのだろうが、その表情は安楽からほど遠い険相の極みとも言えた。
それもそのはず、この揺れ様はおとぎ話で語られる"大魚のイビキ"に肩を並べるのだから無理もない。水中を伝わる音の振動が大魚以外の生き物たちの眠りを妨げてしまうという内容だったか、体を揺らされて皆気分が悪くなる。それは今の彼らと全く同じ状態であった。
ただし、揺れに苦しむ両親の腕に守られて静かに眠る幼児だけは揺れを気にせず極楽の園へ誘われ、安らぎの表情を浮かべていた。
ユウハは対面に座る家族を瞳に映しながらも、心は物思いにふけており、ドコかうわの空という様子であった。
かつてはユウハにも、両親からの寵愛をわがものにしていた時期があり、寒く凍える冬の朝とは思えないほど温かく微笑ましい家族の様子はユウハの心に温もりを感じさせるのだった。
――18年前。ユウハが生まれた日の空は彼の父と母いわく、人生史上最も美しい青に彩られていたとのことで、雲ひとつない晴天とまではいかないが、偉大な太陽の光が土地の全てを満たしていたらしい。そんな祝福とも捉えられる大空の下で生を受けたとユウハは聞かされていていた。
「ユウハ」という名は母が決めたらしい。名前は畏れ多くも《大空の神》であるアルマ・テラ・ユーハ(偉大なる天の光という意)から頂戴しており、子が神の御加護を授かるようにと願いを込めたそうだ。生まれて数年、両親の願いどおりに、ユウハは怪我ひとつなく育つのだった。
父は厳しく、母は優しく、それがユウハへ向けた家族の愛情だった。そして、それはユウハの二度と戻らない幸福であることを、今一度痛切に彼に実感させた。
「どうかされましたか?先程からこちらを見ておられますが、」
その言葉でユウハの意識は記憶の箱から戻った。
相も変らず馬車の中、記憶とどこか重なる家族が恐る恐るユウハに声をかけてきた。母親は怪訝な表情を浮かべ、父親は妻子が体で隠れるようにひとつ前に出ている。
同乗する家族の様子から、ユウハは自分の様相を確認するように己の身体へと目を移した。
およそ成人した男性とは見受けられない若い容姿。反対に、首から下はシワやほつれの目立つボロ布で覆い隠している。左の前腕から指先にかけて厚手の皮布を巻き、髪色は暗い青藍、その両方ともが周辺の土地の文化にはない珍しい特徴だった。
そんなユウハを見る2人の反応は生物として当然、子を守る立場が故の警戒である。ここでユウハが下手な返しをすると彼らの警戒心を余計に煽ることとなるだろう。
「ああ、これは申し訳ない。決して大したことではなく、幸福な家族の模範を目の当たりにして、懐かしさと感傷に浸っていたのです・・・・」
視線を家族に戻したユウハは間髪入れずに無害を主張するようなとぼけ顔を見せた。
「・・・・はあ、それはどうも、」
ユウハが子供の頃から鍛え続けた愛想笑いを見せれば、少しは警戒を解いてくれたのだろうか父親の方は気が抜けたように腰を下ろした。
しかし、このまま黙り込んでしまうと、再びあの張り詰めた空気が戻って来るだろう。重く淀んだ空気は災難を呼び寄せる魔力がある。それは平穏を望むユウハにとって耐え難く嫌悪することのひとつであった。
「・・・・あの、どちらへ向かわれるのか、よければ教えてもらっても?」
ユウハはさらに警戒される危険性を無視して、会話を続けようと2人に質問した。2人は顔を見合わせる。今度はユウハを怪しんでいる様子は見受けられなかった。
「都です。王城の下にある街、そこに一軒家を建てて、私たち3人で暮らすつもりです。都会に住むことは、田舎育ちである私のかねてよりの夢でして。」
質問に答えるためにユウハの方を向いて口を開いたのは若い母親の方だった。
「ほぉ、それは思い切りましたね。あそこは土地や住居の価格も私たちの住む田舎とは比べ物にならないほど高いと聞きますよ。」
「子供も生まれ、心機一転の時だと思い立ち上がった矢先に、今期に夫の昇進が決まったのです。夫の職は役人ですので、昇進して街の方で仕事となれば王都への移住もやむなし、」
「それで、妻が今日にも新居へ向かいたいというから、こうして夜通し馬車に揺られているわけだ。」
話が盛り上がるにつれて期待感で気持ちの高揚してきた彼女を抑えるように、夫が話へ介入してきた。
「私も子供を育てるのなら、安全な王の膝下がいいと考えていたんだ。移住は異論ナシさ。‥‥ところで、お兄さんはかなり若く見えるんだが、親元を離れて都に出稼ぎってところかな?」
「いや~、親元を離れてというか、両親とも亡くなり、遺産も少なくなって‥‥、王都に住む友人に頼らざるを得なくなったというか。‥‥ほら、最近の地方産業は不景気ですし」
ユウハは半分事実をもう半分は嘘の答えを返した。嘘を吐いた理由は特にない。強いてゆうならば、最初に話しかけた時点で確認した男の警戒心の高さを考慮したからである。残り半分の事実は赤の他人に話すことではなかった。
ユウハは俗に言う「穀潰し」であった。事情によって働く場所がなく、両親の愛とその財産に生かされていた。彼が街へ向かう大きな理由はそんな情けない今の自分を変えたいと決意したからだった。
幼児の父親は家族思いを装うユウハのために投じた話題のつもりだろうが、結果はまったく逆効果となった。青年の悲しい事情を聞いた幼児の母は彼の過去すらも勝手に悲観したようで、憐みの表情で言葉を失った。父親は他人の家庭事情に安易に首を突っ込んでしまったことを後悔しているようだ。
「‥‥しまった、」
ユウハが饒舌をもって羽のように軽やかな冗談のひとつでも言おうとする。しかし、間に合わない。向かい合う父親の申し訳ない思いで下ろした顔の方が速かった。
「・・・・、」
「‥‥、」
あっという間に車内の空気が重たくなり、口も開けづらくなる。こうなってしまえば会話は終しまいだ。
この暗く重たい空間で、連なるように訪れる災難を待つだけであるとユウハは観念したように目を瞑つぶった。
* * *
馬車がその乱暴な車輪をピタリと止めたのは、車内に地獄を彷彿とさせる辛気臭い空気が漂い始めてまもなくのことだった。同乗する一家はどうしたかと前方を窺い、ユウハはやはり来たかと深いため息を吐いた。
出発から今まで、首を鉄で固定しているかのように、前方だけを見続けていた御者の頭がここに来て初めて後ろを振り返った。彼の顔は何も言わないまま、凍りついて血液が循環しなくなったように青ざめており、非常事態の発生を乗客へ伝えるには十分な表情であった。
ユウハも同乗者の一家も、振り向いたままで口を開こうとしない御者に気味の悪さと不安を覚えたようで、お互いに向き合って硬直したままでいた。
「あの・・・・どうかされました、何か非常事態でもあったのですか?」
ここで、不気味な様子の御者へ勇敢に声をかけたのは同乗した一家の母親だった。腕内に幼児を強く抱えて、表情はこの場の誰よりもたくましく見えた。
「困りごとなら、相談していただいてもよろしいですよ。助力できることがあるかもしれませんし、」
彼女の後を追うようにユウハが狭い車内で立ち上がり、御者へ助力の有無を尋ねた。
「ほぅ、それなら大人しく座ったままでいてもらおうか」
ユウハの好意を無視したぞんざいな返事は御者のいる馬車の前方からではなかった。
彼らの後方、朝の冷気とともに風除けの幌を潜って男が現れた。体格は大きく、左の頬にある切り傷が特徴的な強面で、切り傷は顔に留まらず衣服と衣服の間からも見えた。
右の手に刃物を握った男の表情からは躊躇を感じない。また、左手で外部になんらかの指示を送っていることから、彼が徒党を組んだ悪賊の1人だということを、ユウハは推測した。
馬車の乗客たちは状況を少しずつ理解し、賊を刺激しないよう指示通りにその場に座る。
「・・・・と、盗賊がこんなおんぼろ馬車に一体なんのようで!?略奪する金品など積んではいませんよ!」
御者は震えた声で精一杯に盗賊へ略奪の無益を訴える。しかし、逆に寿命を縮めかねない行為となった。
「静かにしてろ。全員抵抗しなければ、苦しまないで死ねるように善処してやる。」
「そ、そんな・・・・。」
唖然とする御者を尻目に、悪賊の男は血痕の付着した大型ナイフをユウハたちに向けて突き立てた。おそらく、抵抗するなと脅しているのであろう。目前の危機にユウハの心臓は、生まれてこの方聞いたことのない爆音で鳴っていた。
「こ、殺さないでください!幼い子供がいるのです。欲しいものがあるならなんでも差し上げますので、私たちの命だけはどうか見逃してください!!」
絶体絶命ともいえる状況で、構えられたナイフに怯えながらも、幼児の母親は男に命乞いをする。
一体どうすればこの場を切り抜けられると言うのだろうか、もし彼女の頼みが通じるのなら、彼女が口にした「私たち」の中にユウハが含まれていてほしいものである。
「だめだ。まぁ、家族どうしで別れを告げる時間ぐらいは設けてやろう。‥‥じゃあまず先にそこの変な格好をしてるお前からだ。独り身はつらいな‥‥、さっさと馬車を出ろ!」
男に恫喝とナイフを突きつけてられて、失意のユウハは足早に馬車を降りた。馬車を出たユウハの目は今にも涙が噴出しそうだった。
思うにきっと、薄れた靄の隙間から差し込んだ朝日が、暗い馬車から連れ出されたばかりの彼の目を刺したからであろう。
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