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「……まさか、巫女様のお力がこれほど強いとは、思いもよりませんでしたわ。
気をつけてくださいね。
今回は祈祷室のあのお庭だけで済みましたけど、あそこは国中の土地と水脈を通じて繋がっていますから。
間違うと国中に被害が出ますよ」
しっかりと言い置かれた。
「……うん。
本当にごめんなさい。次から気をつけます」
口に含んだお茶を飲み込むと、エミリアは視線を落として頷いた。
「今、手の空いた人間がお庭の片づけをしていますけど、行きますか? 」
出されたお茶を飲み干して、ようやく人心地ついたエミリアを察して、侍女が訊いてくる。
「ん、いい。
やめとく。
行ったらまた、あそこのもの乱繁殖させそうだから」
「では、少しお休みくださいな。
巫女様には今夜のお勤めもありますし…… 」
侍女の言葉にエミリアはピクリとこめ噛みの辺りをひきつらせた。
それが一番の問題で、こんなことになっているのに……
言いたいけど言えない。
「もし殿下のお相手が苦痛のようでしたら、他の方をご指名くだされば…… 」
エミリアの顔色をすかさず察して女は言ってくる。
「それは遠慮します。
大体、わたしに殿下ほどの身分の方を拒絶する権利はないもん」
とりあえず言っておく。
うっかり頷けない以上、そうとでも言う以外に方法はなかった。
「そうですか? 」
言いながら女は出て行った。
一人残されてエミリアは改めて自室を見渡す。
眠るのと食事以外の時間をこの部屋でゆっくり過ごしたことがなかったから、気がつかなかったけど。
優美な曲線を描く彫刻入りの足を供えた家具。
いかにも高価そうな艶を放つ生地を使ったファブリック。
毎晩横になる糊の利いた洗い立てのシーツは最高級のリネン。
どれをとっても、エミリアには豪華すぎるものばかりだ。
それだけで巫女がどんなに大切にされている存在なのか推し量ることができる。
しがらみが何もなければ今すぐにでも逃げ出したいけど、そんなことしたらどんな騒ぎになるかも、同時に想像ができた。
先代の巫女が使っていたものなのだろうか?
部屋の片隅には一台の竪琴まで置いてあった。
近づいて手に取ると、壁に掛けられていたカーテンが揺れた。
「窓? 」
呟いてそっと壁に手を触れる。
窓から外を覗いていたような一枚の風景画……
きっと、この部屋に押し込められた誰かが、外への思いを断ち切れずに描いたか描かせたものなのだろう。
なんだかエミリアの育った牧場にも似ている。
その光景を見ていると、なんだか無性に家に帰りたくなった。
小さな弟に会いたい。
そんな思いがわきあがり目を放せなくなった。
ガタン!
突然背後で立てられた音にエミリアは身を竦ませる。
振り返ると、神官衣を纏った老人の姿があった。
「大神官様? 」
男がこの部屋に来ることなど初めてだ。
「何か? 」
エミリアは首をかしげる。
「何かではない、力を暴走させたと聞いたが…… 」
「それは…… 、ごめんなさい」
事実である以上言い訳など何の役にも立たない。
エミリアは頭を下げる。
「少しお疲れなのでしょう。
祭りも近いことですし、しばらく殿下にはお休みいただくことにしましょう」
男の視線がなめるようにエミリアの躯を這う。
……やっぱり、嫌だ。
背筋を冷たいものが走り、エミリアは唾を飲み込んだ。
「あ、あのっ。
わたし、お庭の手入れの指示をしなきゃ…… 」
男から距離をとると逃げるように部屋を飛び出した。
できるだけ急いで庭に向かう。
そこに入ってしまえば安全なのはわかっていた。
目的の場所にたどり着き、中に駆け込もうとしてエミリアは足を止めた。
「あぁ、巫女様。
この辺りにはびこっている奴は抜いちまってかまいやせんかね? 」
入り口を塞ぐつたのように伸びた薔薇の枝を手に、手伝いの男が訊いてくる。
その背後には見慣れない少年や若い男女が控えていた。
「このままじゃ中に入ることもできねぇんで、とりあえず何人か手の空いている奴ら集めてきましたんで」
訊く前に説明してくれた。
「ごめんなさい!
ほんっとうに、申し訳ないです」
エミリアは頭を下げる。
「お気にせんでください。
巫女様とて人ですから、悩むことだってありましょう。
むしろ何にもねぇ方が気持ち悪いってものでさぁ」
言いながら男は背後の人間に言いつけて手早く作業を開始した。
……それにしても。
はびこる草を抜きながらエミリアは首をかしげる。
ここの今の状態をすべて自分がしでかしたと言われても、なんとなくぴんと来ない。
別にここの植物達にどうなってもらいたいなどと考えた覚えはなくて、ただなんとなく思考がごちゃ混ぜになっただけだ。
悩むなんてこと今までにだって、一度や二度、いや三度とかもっとあったはずだ。
お祭りのドレスを何色にしようか三日も悩んだり、子牛を何頭か売ることになった時には一週間くらい、何か他の方向はないか考えた。それでその後どうしようもないと結論が出てからも、どの子牛を手放すか眠れない程悩んだ。
だけど、それで一度だって牧場の牧草がはびこったことなどなかったのに……
何故だろう?
ここにきてから魔力がなんだか強くなったような気がする。
気をつけてくださいね。
今回は祈祷室のあのお庭だけで済みましたけど、あそこは国中の土地と水脈を通じて繋がっていますから。
間違うと国中に被害が出ますよ」
しっかりと言い置かれた。
「……うん。
本当にごめんなさい。次から気をつけます」
口に含んだお茶を飲み込むと、エミリアは視線を落として頷いた。
「今、手の空いた人間がお庭の片づけをしていますけど、行きますか? 」
出されたお茶を飲み干して、ようやく人心地ついたエミリアを察して、侍女が訊いてくる。
「ん、いい。
やめとく。
行ったらまた、あそこのもの乱繁殖させそうだから」
「では、少しお休みくださいな。
巫女様には今夜のお勤めもありますし…… 」
侍女の言葉にエミリアはピクリとこめ噛みの辺りをひきつらせた。
それが一番の問題で、こんなことになっているのに……
言いたいけど言えない。
「もし殿下のお相手が苦痛のようでしたら、他の方をご指名くだされば…… 」
エミリアの顔色をすかさず察して女は言ってくる。
「それは遠慮します。
大体、わたしに殿下ほどの身分の方を拒絶する権利はないもん」
とりあえず言っておく。
うっかり頷けない以上、そうとでも言う以外に方法はなかった。
「そうですか? 」
言いながら女は出て行った。
一人残されてエミリアは改めて自室を見渡す。
眠るのと食事以外の時間をこの部屋でゆっくり過ごしたことがなかったから、気がつかなかったけど。
優美な曲線を描く彫刻入りの足を供えた家具。
いかにも高価そうな艶を放つ生地を使ったファブリック。
毎晩横になる糊の利いた洗い立てのシーツは最高級のリネン。
どれをとっても、エミリアには豪華すぎるものばかりだ。
それだけで巫女がどんなに大切にされている存在なのか推し量ることができる。
しがらみが何もなければ今すぐにでも逃げ出したいけど、そんなことしたらどんな騒ぎになるかも、同時に想像ができた。
先代の巫女が使っていたものなのだろうか?
部屋の片隅には一台の竪琴まで置いてあった。
近づいて手に取ると、壁に掛けられていたカーテンが揺れた。
「窓? 」
呟いてそっと壁に手を触れる。
窓から外を覗いていたような一枚の風景画……
きっと、この部屋に押し込められた誰かが、外への思いを断ち切れずに描いたか描かせたものなのだろう。
なんだかエミリアの育った牧場にも似ている。
その光景を見ていると、なんだか無性に家に帰りたくなった。
小さな弟に会いたい。
そんな思いがわきあがり目を放せなくなった。
ガタン!
突然背後で立てられた音にエミリアは身を竦ませる。
振り返ると、神官衣を纏った老人の姿があった。
「大神官様? 」
男がこの部屋に来ることなど初めてだ。
「何か? 」
エミリアは首をかしげる。
「何かではない、力を暴走させたと聞いたが…… 」
「それは…… 、ごめんなさい」
事実である以上言い訳など何の役にも立たない。
エミリアは頭を下げる。
「少しお疲れなのでしょう。
祭りも近いことですし、しばらく殿下にはお休みいただくことにしましょう」
男の視線がなめるようにエミリアの躯を這う。
……やっぱり、嫌だ。
背筋を冷たいものが走り、エミリアは唾を飲み込んだ。
「あ、あのっ。
わたし、お庭の手入れの指示をしなきゃ…… 」
男から距離をとると逃げるように部屋を飛び出した。
できるだけ急いで庭に向かう。
そこに入ってしまえば安全なのはわかっていた。
目的の場所にたどり着き、中に駆け込もうとしてエミリアは足を止めた。
「あぁ、巫女様。
この辺りにはびこっている奴は抜いちまってかまいやせんかね? 」
入り口を塞ぐつたのように伸びた薔薇の枝を手に、手伝いの男が訊いてくる。
その背後には見慣れない少年や若い男女が控えていた。
「このままじゃ中に入ることもできねぇんで、とりあえず何人か手の空いている奴ら集めてきましたんで」
訊く前に説明してくれた。
「ごめんなさい!
ほんっとうに、申し訳ないです」
エミリアは頭を下げる。
「お気にせんでください。
巫女様とて人ですから、悩むことだってありましょう。
むしろ何にもねぇ方が気持ち悪いってものでさぁ」
言いながら男は背後の人間に言いつけて手早く作業を開始した。
……それにしても。
はびこる草を抜きながらエミリアは首をかしげる。
ここの今の状態をすべて自分がしでかしたと言われても、なんとなくぴんと来ない。
別にここの植物達にどうなってもらいたいなどと考えた覚えはなくて、ただなんとなく思考がごちゃ混ぜになっただけだ。
悩むなんてこと今までにだって、一度や二度、いや三度とかもっとあったはずだ。
お祭りのドレスを何色にしようか三日も悩んだり、子牛を何頭か売ることになった時には一週間くらい、何か他の方向はないか考えた。それでその後どうしようもないと結論が出てからも、どの子牛を手放すか眠れない程悩んだ。
だけど、それで一度だって牧場の牧草がはびこったことなどなかったのに……
何故だろう?
ここにきてから魔力がなんだか強くなったような気がする。
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