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1.扉を開けたら……
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……何処だよ。此処。
オレは目をしばたかせた。
目の前にあるのは大きな湖。
立っているのは平らな石の上、ご丁寧なことに魔法陣のような落書きがしてある。
たった今、部屋のドアを開けた筈なのに?
機嫌よく帰ってきてドアを開ければ、いつもと同じ狭いワンルームにベッドと調理家電の同居の光景。
の、はずだったのに……
見渡してみるがそんなものはない。
部屋の入り口のドアも、背後の通路の手すりもそっくり消えていた。
そして……
奇異なのは目の前に13,4歳くらいの時代錯誤の豪華なドレスを着た縦ロールの髪型の女の子と、漫画にでも出てきそうなフロックコートを着て白い髭を生やしたやせぎすの老人。
……なんなんだ?
もう一度瞬きをしてみる。
目を開けたら、ほら元通り!
ってな訳には行かなかった。
やっぱり目前に広がるのは湖で、目の前にいるのは妙な二人連れ。
ないないないないないない……
ありえない!
オレは何度も首を横に振った。
「×××××××、×××××××! 」
やせぎすの老人が突然声をあげた。
しかし、何を言っているのか全く理解不能。
二人の様子から外国語らしいのはわかるが、英語でも中国語でもない。
オレは目をしばたかせる。
「××、××××××××? 」
「××××××××、×××××××」
意味不明な会話のあと、少女が突然オレの前に進み出る。
額に下がっていた宝石をひとつむしりとったと思ったら、次いでその手がオレの頬に伸び、オレの口の中に無理やりその宝石をねじ込んだ。
「な…… ! 」
明らかに食べ物ではなさそうなものを口に入れられそうになり、オレは抵抗を試みる。
「×××××××、×××××××××! 」
少女がオレの顔を覗き込んで何か言う。
もしかして呑み込めとか言ってる?
冗談じゃない!
言って吐き出そうとした途端、突然背後から首の辺りをものすごい勢いではたかれた。
「ん、ぐ…… ! 」
ごくん。
オレの喉が鳴る。
飲んじゃんったよ……
大丈夫か? オレ。
腹壊したりとか、胃が痛くなったりとかしない?
一抹の不安がよぎる。
「おっめでっとう、ごっざいまぁす! 」
不意に老人の声が耳に入った。
今度はただの音の集合体ではなく、きちんと意味を持って聞こえる。
「なんなんだ? 」
オレは呟く。
もしかして今呑み込んだなんかの効果か?
「これ…… 」
「大丈夫でしてよ、別に怪しいものではなくってよ」
少女の言葉もきちんと理解できた。
「一種の薬のようなものですから。
これで会話に不自由はないと思いますけど」
確かにその通りだ。
「あなたは2137人目の勇者として召喚されましたぁ! 」
……なんか、ここでクラッカーがいっせいにはじけ薬球が割れそうなノリで、老人は続けた。
「はぁ? 」
オレは眉をひそめる。
……なんでオレ、からかわれなくちゃならないんだ??????
第一印象はまさにそれ。
何かの悪い冗談でからかわれているとしか思えない。
「記念すべき2137番目の勇者であるあなた様には、副賞といたしまして、ずばり! ドラゴンを捕らえる権利が与えられましたぁ! 」
「いや、そうじゃなくて…… 」
オレはわけがわからないままに口にする。
「何か質問でもございますか? 」
老人が訊いてきた。
「質問だらけだよ。
いいから全部説明しろよ」
「何をでございますか? 」
老人は目をしばたかせる。
「全部だよ、全部。
何故オレがここにいるのかとか、
なんでオレが勇者なのかとか、副賞とか。
ここは何処とか。
大体あんた誰? 」
オレは一気にまくし立てた。
「これは、これは……
申し遅れました。
こちらがあなたを召還いたしました、わがロンディリュウムサイフォース王国の姫君、ルビィ・コランダム王女様にございます。
私めは姫様の従者、スワロフスキーと申します」
「召還? 」
スワロなんちゃらという老人の言葉の中から引っかかる単語を見いだし、オレは繰り返した。
「で? そのちっこいのはオレを呼び出して何をさせようって言うんだよ? 」
「『ちっこいの』とは失礼な!
姫様はこれでもすでに二十歳過ぎ。下手したらそなたより年上ですぞ」
「は? からかうのもいい加減にしろよ」
オレはうめく。
ルビィといわれた少女はどう見てもいいとこ中学生にしか見えない……
「私めが、あなたを、からかう?
とんでもございません。
この上なく貴重なドラゴンを狩る権利を持った勇者様をからかうなど、恐れ多くて…… 」
スワロ老人はポケットからハンカチを取り出すとそれで額をぬぐいながら言った。
「それともあれか?
ここはオレの居たところと時間の流れが違うから年齢の数え方でも違うとか、もしくはオレ達の概念より人間の成長が遅いとか? 」
目の前に広がる湖が、さっきからころころと七色に光を変え、無数の小鳥が突然水の中から湧き出して空にはばたいてゆく光景を目にオレは言う。
「どちらでもありませんよ。
一応こちらの世界でも時間の概念はあなた方の世界と一緒です。
もちろん齢の数え方も。
ちなみに私は今年63歳になります」
……スワロ老人は年齢詐称しているとは思えない。
「じゃ、なんだってこいつはこんなにちびっこいんだよ?
どう見ても二十歳には見えないな」
オレは呟く。
「悪かったわね見えなくて」
目の前の少女が口を開いた。
見た目だけでなく、声もやっぱり子供じみている。
「見えないものは…… 」
オレが口を開いた途端、何かの影が頭上を掠めた。
同時にすごい大きな羽音と思われる音と、変な方向から吹いてくる風。
「まずいですぞ、姫様!
ロク鳥に気付かれました」
スワロ老が言う。
「そのようですわね。とりあえず撤退しましょう」
振り返って老人に言うと少女はこちらに顔を戻す。
「あなた……
走れますわよね? 」
「え? ああ、そりゃもちろん…… 」
何のことだかわからないままにオレは言葉を返す。
「では、参りますわよ。
ついてらして」
言うと同時に老人とともに走り出した。
「おい? 」
オレはあわてて呼び止める。
「それは肉食ですのよ。
餌になるおつもりがなければ逃げたほうがよろしいわ」
一足先に走りながら少女はそういった。
「ったく……
逃げろって何処へだよ」
突っ立ったまま呟くオレの真上でまた羽音がした。
同時に頭上からの影が濃くなる?
何気なく見上げるとやたらでっかい鳥が嘴を開け、鍵爪を光らせて明らかにオレを襲ってきている。
「××××…… 」
冗談じゃない!
オレは少女を追い走った。
「姫様、お早く! 」
やや走った先に立っていた見上げるほどのやたら大きな樹の下まで来ると、老人は足を止める。
そして数秒遅れてたどり着いた少女に振り返る。
「なん…… 」
その光景を目にオレはうっかり足が止まりそうになった。
人が何人もで取り囲まなければ足りない大きな幹の真ん中に人一人ほどの大きさの白い靄のようなものが掛かっている。
その中心から時々虹色の光の玉が飛び出しては消えてゆく。
「行きますわよ」
わずかにオレに振り返り促して、少女はその靄の中に飛び込んだ。
「お急ぎください。ここはそうはもちませんから」
後に残った老人が言う。
「なんなんだよ? 」
「説明している暇は今はございませんので」
言っている間に、又しても背後に羽音が迫る。
とにかく、ここに入ればいいってことか。
なんか胡散臭い気もしないでもないけれど、少女が先に行っているところを見ると、まぁ大丈夫なんじゃないだろうか。
と、オレは覚悟を決めてそのもやの中に飛び込んだ。
オレは目をしばたかせた。
目の前にあるのは大きな湖。
立っているのは平らな石の上、ご丁寧なことに魔法陣のような落書きがしてある。
たった今、部屋のドアを開けた筈なのに?
機嫌よく帰ってきてドアを開ければ、いつもと同じ狭いワンルームにベッドと調理家電の同居の光景。
の、はずだったのに……
見渡してみるがそんなものはない。
部屋の入り口のドアも、背後の通路の手すりもそっくり消えていた。
そして……
奇異なのは目の前に13,4歳くらいの時代錯誤の豪華なドレスを着た縦ロールの髪型の女の子と、漫画にでも出てきそうなフロックコートを着て白い髭を生やしたやせぎすの老人。
……なんなんだ?
もう一度瞬きをしてみる。
目を開けたら、ほら元通り!
ってな訳には行かなかった。
やっぱり目前に広がるのは湖で、目の前にいるのは妙な二人連れ。
ないないないないないない……
ありえない!
オレは何度も首を横に振った。
「×××××××、×××××××! 」
やせぎすの老人が突然声をあげた。
しかし、何を言っているのか全く理解不能。
二人の様子から外国語らしいのはわかるが、英語でも中国語でもない。
オレは目をしばたかせる。
「××、××××××××? 」
「××××××××、×××××××」
意味不明な会話のあと、少女が突然オレの前に進み出る。
額に下がっていた宝石をひとつむしりとったと思ったら、次いでその手がオレの頬に伸び、オレの口の中に無理やりその宝石をねじ込んだ。
「な…… ! 」
明らかに食べ物ではなさそうなものを口に入れられそうになり、オレは抵抗を試みる。
「×××××××、×××××××××! 」
少女がオレの顔を覗き込んで何か言う。
もしかして呑み込めとか言ってる?
冗談じゃない!
言って吐き出そうとした途端、突然背後から首の辺りをものすごい勢いではたかれた。
「ん、ぐ…… ! 」
ごくん。
オレの喉が鳴る。
飲んじゃんったよ……
大丈夫か? オレ。
腹壊したりとか、胃が痛くなったりとかしない?
一抹の不安がよぎる。
「おっめでっとう、ごっざいまぁす! 」
不意に老人の声が耳に入った。
今度はただの音の集合体ではなく、きちんと意味を持って聞こえる。
「なんなんだ? 」
オレは呟く。
もしかして今呑み込んだなんかの効果か?
「これ…… 」
「大丈夫でしてよ、別に怪しいものではなくってよ」
少女の言葉もきちんと理解できた。
「一種の薬のようなものですから。
これで会話に不自由はないと思いますけど」
確かにその通りだ。
「あなたは2137人目の勇者として召喚されましたぁ! 」
……なんか、ここでクラッカーがいっせいにはじけ薬球が割れそうなノリで、老人は続けた。
「はぁ? 」
オレは眉をひそめる。
……なんでオレ、からかわれなくちゃならないんだ??????
第一印象はまさにそれ。
何かの悪い冗談でからかわれているとしか思えない。
「記念すべき2137番目の勇者であるあなた様には、副賞といたしまして、ずばり! ドラゴンを捕らえる権利が与えられましたぁ! 」
「いや、そうじゃなくて…… 」
オレはわけがわからないままに口にする。
「何か質問でもございますか? 」
老人が訊いてきた。
「質問だらけだよ。
いいから全部説明しろよ」
「何をでございますか? 」
老人は目をしばたかせる。
「全部だよ、全部。
何故オレがここにいるのかとか、
なんでオレが勇者なのかとか、副賞とか。
ここは何処とか。
大体あんた誰? 」
オレは一気にまくし立てた。
「これは、これは……
申し遅れました。
こちらがあなたを召還いたしました、わがロンディリュウムサイフォース王国の姫君、ルビィ・コランダム王女様にございます。
私めは姫様の従者、スワロフスキーと申します」
「召還? 」
スワロなんちゃらという老人の言葉の中から引っかかる単語を見いだし、オレは繰り返した。
「で? そのちっこいのはオレを呼び出して何をさせようって言うんだよ? 」
「『ちっこいの』とは失礼な!
姫様はこれでもすでに二十歳過ぎ。下手したらそなたより年上ですぞ」
「は? からかうのもいい加減にしろよ」
オレはうめく。
ルビィといわれた少女はどう見てもいいとこ中学生にしか見えない……
「私めが、あなたを、からかう?
とんでもございません。
この上なく貴重なドラゴンを狩る権利を持った勇者様をからかうなど、恐れ多くて…… 」
スワロ老人はポケットからハンカチを取り出すとそれで額をぬぐいながら言った。
「それともあれか?
ここはオレの居たところと時間の流れが違うから年齢の数え方でも違うとか、もしくはオレ達の概念より人間の成長が遅いとか? 」
目の前に広がる湖が、さっきからころころと七色に光を変え、無数の小鳥が突然水の中から湧き出して空にはばたいてゆく光景を目にオレは言う。
「どちらでもありませんよ。
一応こちらの世界でも時間の概念はあなた方の世界と一緒です。
もちろん齢の数え方も。
ちなみに私は今年63歳になります」
……スワロ老人は年齢詐称しているとは思えない。
「じゃ、なんだってこいつはこんなにちびっこいんだよ?
どう見ても二十歳には見えないな」
オレは呟く。
「悪かったわね見えなくて」
目の前の少女が口を開いた。
見た目だけでなく、声もやっぱり子供じみている。
「見えないものは…… 」
オレが口を開いた途端、何かの影が頭上を掠めた。
同時にすごい大きな羽音と思われる音と、変な方向から吹いてくる風。
「まずいですぞ、姫様!
ロク鳥に気付かれました」
スワロ老が言う。
「そのようですわね。とりあえず撤退しましょう」
振り返って老人に言うと少女はこちらに顔を戻す。
「あなた……
走れますわよね? 」
「え? ああ、そりゃもちろん…… 」
何のことだかわからないままにオレは言葉を返す。
「では、参りますわよ。
ついてらして」
言うと同時に老人とともに走り出した。
「おい? 」
オレはあわてて呼び止める。
「それは肉食ですのよ。
餌になるおつもりがなければ逃げたほうがよろしいわ」
一足先に走りながら少女はそういった。
「ったく……
逃げろって何処へだよ」
突っ立ったまま呟くオレの真上でまた羽音がした。
同時に頭上からの影が濃くなる?
何気なく見上げるとやたらでっかい鳥が嘴を開け、鍵爪を光らせて明らかにオレを襲ってきている。
「××××…… 」
冗談じゃない!
オレは少女を追い走った。
「姫様、お早く! 」
やや走った先に立っていた見上げるほどのやたら大きな樹の下まで来ると、老人は足を止める。
そして数秒遅れてたどり着いた少女に振り返る。
「なん…… 」
その光景を目にオレはうっかり足が止まりそうになった。
人が何人もで取り囲まなければ足りない大きな幹の真ん中に人一人ほどの大きさの白い靄のようなものが掛かっている。
その中心から時々虹色の光の玉が飛び出しては消えてゆく。
「行きますわよ」
わずかにオレに振り返り促して、少女はその靄の中に飛び込んだ。
「お急ぎください。ここはそうはもちませんから」
後に残った老人が言う。
「なんなんだよ? 」
「説明している暇は今はございませんので」
言っている間に、又しても背後に羽音が迫る。
とにかく、ここに入ればいいってことか。
なんか胡散臭い気もしないでもないけれど、少女が先に行っているところを見ると、まぁ大丈夫なんじゃないだろうか。
と、オレは覚悟を決めてそのもやの中に飛び込んだ。
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