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11.魔石を手にいれたら…… (終)
しおりを挟む「それにしても見事な魔石でございますな」
ルビィの手の中に残った石を目にスワロ老人は言う。
それは内から光を発するかのように紅く輝いていた。
大きさからしてルビーだとするとかなりの値がつきそうな逸品だ。
「早速儀式の準備を…… 」
馬車を止めておいた場所に向かいながらスワロ老人は目を細めた。
「……そのことなんだけど」
ポツリとルビィが口にする。
「はい、何か? 」
老人は振り返ってルビィの顔を眺めた。
「儀式は、わたくしとコウで先に行って行うわ。
スワロフスキーは馬車で帰ってきて頂戴」
「はい? 」
「コウを連れて徒歩で帰るとなるとこの先何日も掛かるですもの。
そんなに待っていられなくてよ。
ですからわたくしはここから転移空間を使って一足先に参ります。
馬車はともかく、馬は置いて帰るわけには行かなくてよ。
ですからスワロフスキーは後からゆっくり帰ってらっしゃい」
「確かにその通りですな。
魔石などを持って野宿など、盗賊に狙われても何の不思議もありませんし。
とにかく奴らは鼻が利きますからな。
それに姫様が一刻も早くご自分本来のお姿を取り戻したいというその気持ちもわかります。
……わかりました、仰せの通りに」
老人は頭を下げる。
「じゃ、コウ、行きましょ! 」
言って少女はオレの手を取る。
「んと、このあたりでいいかな?
ここは結界の魔力があるからあんまり場所を選ばなくても大丈夫なんだと思うんだけど…… 」
ルビィは瞼を伏せた顔を上げ、何かを探るように風に顔を撫でさせる。
「…… 」
ちょっとこれ持っていて。
不意に振り返るとオレにさっきの紅い石を手渡した。
「な…… 」
握らされたものの感覚にオレは戸惑う。
見た目はどう見ても石なのに、それはオレの手の中で脈打っていた。
「それ、心臓だもの」
オレの驚いた顔が面白かったのか、ルビィは笑う。
「心臓って、いいのかよ。さっきのドラゴン今頃死んで…… 」
「平気よ。それはスペア。
もともとある心臓に何かがあれば役目を交代するためにつくられているものだから。
抜かれても直ぐに大きな怪我とか病気しなければ死なないし、そのうちにまた新しいのができるんですって。
ドラゴンは動物より魔法生物に近いからそんなシステムがあるみたいよ」
「なんか、便利なものなんだな…… 」
ここまできてしまうと、もう驚く気にもなれない。
言葉なくルビィの横顔を眺めていると、やがて探していた何かを探り当てたように目を開ける。
「こっちよ、行きましょう」
言って、少し先の大きな木の手前まで歩く。
そしてその樹の幹に片手を当て、何か妙な呪文のような言葉を何度となく呟いた。
見る間にルビィの手の辺りから白い靄のようなものが漂ってくる。それがある程度の大きさまで広がると中から虹色の光の玉が湧き出すようにして飛び出しては消えてゆく。
同じだ。
あの時、巨大鳥に襲われて逃げ込んだあの靄と……
オレは息を呑んだ。
「行こう、コウ」
オレがひるむのを予期してか、ルビィはオレの手を引いてその霧の中に飛び込んだ。
……二度目でもやっぱり慣れない、天地左右前後のひっくり返る感触。
やはり吐き気を覚えそうになったのと同時にあの時と同じようにオレは地面に投げ出された。
顔を上げると、来たときと同じ大木の前、はるか向こうには虹色に輝く湖面の妙な湖。
そして少し先にあの落書きの石の敷かれた祭壇みたいなものがある小高い場所。
「なんでここ?
潜った先は違うのに、出た場所は一緒ってどういうことだ? 」
オレは呟く。
「ここは聖域だもの、それなりの魔力を秘めた場所からなら何処からでも来られるのよ」
ルビィが言う。
「じゃぁさ、もしかして。
ここ経由すれば何も徒歩で歩かなくてもドラゴンの森までいけたんじゃないのかよ? 」
この期に及んでもオレは横着を決め込む。
「残念。開けられるのは向こうからだけで、ここへ来る時に通った穴でないと帰れないの」
ルビィは笑うと歩き出した。
「やっぱり楽はできないってことか……
ってか、お前はいいのかよ?
またあっちへ戻るしかないんだろう? 」
「ああ、そのこと?
しばらく待っていればスワロフスキーが向こうから穴を開けて迎えに来てくれるわ」
オレは息を吐くと、よろよろと立ち上がりルビィの後を追った。
ルビィは何にも言わないけど、時間が経つほどまたあの、なんとかって言う肉食の大きな鳥が襲ってこないとも限らない。
丘の上に敷かれた石はの上に掛かれているのはやっぱり魔方陣だった。
いくつもの円形に書かれた文字らしき記号と、それをつなぐ星型の直線。それらを大きな二重線の円が取り囲んでいる。
ルビィはその中央に立つと手にしていた紅い魔石を頭上に掲げた。
瞼を閉じそしてオレのわからない印を踏んだ言葉を紡ぎだす。
「ちょっと待てよ」
オレはそのルビィの手を握ると引き寄せた。
「何? 」
ルビィの目が見開かれる。
「お前それで本当にいいのかよ? 」
「え…… 」
「本当は大人になんかなりたくないんだろう? 」
「あの…… 」
迷っているのか、ルビィの言葉は答えにならない。
「本当に嫌だって思っているんならやめとけよ」
「でも! 」
「跡取りは決まっているって言ったじゃないか。
それに、お前の呪いは解けても、今後お前の子供にその呪いが掛かるんだろう?
お前、自分の子供にまたおんなじ思いさせるつもりかよ?
その上に、おまえ自身だってその姿を見て心が痛い思いをするんじゃないのか? 」
……そう、呪いは根本的に解消されたわけじゃない。
一時的に解除されたに過ぎない。
「ありがとう」
ルビィは微笑む。
「だからね、わたしこの先探してみようと思うの。
呪いの根源を断つ方法…… 」
言ってもう一度魔方陣の中央に立ち呪文を唱える。
そして頭上に掲げた魔石を握りつぶした。
ルビィの手の中ならあふれ出る紅い線光。
それは周囲を特にルビィを包み込む。
あっという間の出来事だった。
まぶしさに目を閉じたオレが再び瞼を上げるとそこにはルビィの姿。
心なしか少し成長した気もするがあんまり変わっていないような……
「お前、呪いが解けたら実年齢に戻るって言ってなかったか? 」
呆然ときいてみる。
「言った覚えないわよ。
でも呪いが解けたのは多分確か。
これからね、大きくなれると思うのよね。
速度はみんなまちまちなんだけどね。早ければ一年くらいで実年齢になるし、一年に一才分しか齢を取らない人もいるみたいだけど……
とにかくこの十年一センチも変わらなかった躯のサイズ、時間とともに大きくなってくるはずなの」
魔石のあった筈の掌を見つめて何かを確信したようにルビィは言う。
「じゃ、今度は、コウの番」
そういってオレに近寄ると背伸びをしてそっと頬にキスをしてくれた。
そんなことをされるとなんだか離れるのが名残惜しくなってしまう。
同時にさっき散った紅い光が浮かび上がり集約してゆく、それに連れ光は色を失い白くなる。
白い光の先に見覚えのある一枚のドアが見えた。
「そのドアを開ければ帰れるわ」
ルビィは微笑む。
「いろいろありがとうね」
一歩下がって手を振る姿を目にオレはドアノブに手を掛けた。
いつもと同じ感覚で開いたドアの先には、見知ったワンルームの一室、ベッドと調理家電が同居する空間。
踏み出そうとした足をオレはふと止め振り返る。
「来るか? 」
そう声をかけて、オレはルビィに手を差し出す。
「そんな呪いの続く家、従兄弟だかハトコだかにくれちまえよ。
風呂にも毎日入れるし、
コンビニの一番うまいパン食わせてやるよ」
オレの言葉にルビィはこれまで見せたことのないような輝く笑顔を見せてその手を重ねてくれた。
ーFINー
◆◇◆ あとがきというか言い訳みたいなこと。 ◆◇◆
まずは、最後まで読んでいただいてありがとうございます。
はじめまして、 弥湖 夕來と申します。
掲載一作目が完結していなくて、言い訳が書けないのでこちらで初ご挨拶です。
えー。
……なんと言いますか。
まさかこんなことになるなんて……
執筆復帰後、なんだかよくわからない恋愛話に、三作で飽きたので、(正直私に恋愛話は無理ってことで)元の鞘に収まろうと、ひっさし振りに書いたファンタジー。
なのに……
何故にこんなことになるんだろう?
恋愛話よりヒドイかも。
そもそも、かつてもほとんど書いたことのない召還物に手を出したのが悪かった? それも今までほとんど書いたことのない一人称で召喚された人物目線でってのがチョイス最悪?
……だったんでしょうね。
ドラゴンがでてきて勇者が出てきて、魔法があって、中世の騎士物語みたいなカッコいいお話にする予定だったのに……
いやぁ、風呂だメシだと注文の多い紅君でした。
普通のファンタジー小説の主人公のようにあっさりとその世界の生活に慣れてくれれば何の問題もなかったのに。
こいつなんだってこんなに神経質なんだよ(怒)
みたいな感じで。
文句は多いくせに話は進まない。
誤解されそうなので一言。
決して王道ファンタジーを否定しているわけではありません。
むしろそっちのほうが十八番だったんです。
少なくとも過去には……
できることなら、ネタが湧いてくれさえすれば今でもそっち方面を書きたいです。
ドラゴンもヴァンパイアも妖精も魔法も、それを扱うかっこいい人々も大好きなので。
いつかまたそんなお話書けるといいなぁ……
と、切に願っております。
そして、良かったら。
呆れずにまたお付き合いしてくださったら嬉しいです。
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