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子守歌は眠れない1
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***
校了明け、午前様の帰宅でほんの数時間寝た後にはまたすぐ出社・・・そんな予定でいた三倉一臣(みくら かずおみ)は、自分の眠りを妨げたインターフォンの音にひどく眉を顰めた。
無視を決め込もうと頭の上まで布団を被るが、連打しているとしか思えないようなけたたましい音が鳴りやむことはない。
「・・・クソ」
喉奥で呟き、重たい身体を引き摺る様に起こす。思わず睨んだ机の上のデジタル時計は、5時37分を示していた。
「ったく、さっさと開けなさいよね」
不本意ながらに迎え入れた早朝の来客はあり得ないほどの尊大な態度で言い放つ。相変わらずだ、と一臣は頭を抱えた。
この大荷物を抱えた長身の美女は羽柴珠子(はしば たまこ)という。そう長い期間ではないが、一臣は珠子と苗字を同じくしていた時期がある。・・・つまりは元妻だ。
「・・・何の用だ?」
頭を抱えながら用件を問う。早朝からアポなしで人を訪ねてくるその非常識さに苦言を呈したところで聞き入れられないことは知っているのだ。話を進めた方が早く解放されるに違いない。
「いきなりで悪いんだけど、頼みがあるのよ」
シャネルのサングラスをついと下げ、人工的に長い睫毛をはためかせて珠子は微笑んだ。悠然と曲線を描いたビビットピンクの口紅はディオールだろうか。
「頼み・・・」
一臣は嫌な予感がして無意識ながらに後ずさる。それによって開けられた空間に、珠子は抱えていた荷物の中でも一際大きなかごバッグを置いた。ガサツな彼女にしては珍しく、ゆっくりと丁寧な手つきで。
「な、何だコレは?」
一臣は真っ青になる。やけに大きなカゴバッグだと思っていたら、それもそのはず。クーハンという、赤ん坊を入れて運ぶための籠だ。勿論中身も入っている。
「赤ちゃんよ」
「ンなもんは見りゃ分かる! 」
しれっと答えた珠子に一臣は怒鳴る。珠子は怯むことなく、逆に一臣の胸倉を掴んで睨みあげた。
「大声出すんじゃないわよ。せっかく寝付いてくれたのに起きちゃうでしょうが」
目が血走っている。
一臣としては、“そんなこと知るか”と言い放ちたくもなったが、確かにここで赤ん坊が目を覚まして金切り声を上げたのでは堪ったものではない。
溜め息を漏らしてから努めて冷静に、と自分に言い聞かせながら珠子の手を払い除けた。
「この子、あんたの子よ。別れた後に一人で産んだの」
「あ?」
冷静に、という誓いを忽ち揺るがす珠子の驚きの発言。
一臣の思考回路が情報を整理し切る前に、珠子は更に続けた。今日ここにやって来た、信じられない目的を。
「急に出張入っちゃってー、この子の預け先に困ってるの。悪いんだけど、一週間ばかり頼むわ。他に頼れる人いないのよー。名前はゆうあよ。友達の友に愛で友愛ね。時間なくってあんまり用意してないのよね。オムツとかーミルクとかー、必要なものは適当に買っといて。んじゃ、飛行機の時間ヤバイからもう行くわ」
ペラペラと滑舌良く言ってのけ、呆然としている和臣を後目に足早に出て行こうとする。
「ち、ちょっと待て! ざけんな! そんなもんで“はいそーですか”で預かるわけねぇだろうが! 」
珠子の手を力任せに掴み、再び怒鳴りつける。その途端、2人の間に置かれていたクーハンの中身が蠢いた。ふにゃふにゃという声がしたと思ったら、次の瞬間大音量で泣き叫ぶ。
耳慣れない騒音に一臣は堪らず耳を塞いだ。珠子の手を離してしまったことに“しまった”と気付いてももう遅い。
「ほーら言わんこっちゃない。あとは頼んだわよー、おとーさん」
わざとらしく肩を竦めたかと思うと、ヒールの音をかき鳴らして素早く走り去ってゆく。我が子の泣き声に後ろ髪引かれるような様子は残念ながら微塵も感じられない。
「おい! 待ちやがれ!!」
一臣の怒鳴り声と赤ん坊の泣き声が虚しく響いた。
***
珠子に赤ん坊を押し付けられて間も無く、一臣は友人に助けを求めた。
普段ならば“友人”などという親しげな名称を授けるのも本意ではないが、何せ窮地だ。背に腹は変えられない。頼れるものは頼らなければ。
そうして2時間ほどが経った。赤ん坊は泣き疲れたのか今はまた大人しく眠りについている。
「遅ぇな・・・」
一臣は舌打ちと共に呟く。苛立ちに任せて灰皿に積んで行った吸殻を更に追加した。
あと10分もすれば出社時間だ。新調したばかりの腕時計を見やり、何度目になるか分からない溜息を漏らす。
その時だった。
インターフォンが鳴り、一臣は勢いよく玄関へ向かう。
「あ、おはようございます」
扉を開けると、やけに爽やかな笑顔の男が立っていた。
「三倉さんですか? 僕、真壁さんに頼まれて来たシッターの・・・」
「挨拶はいい。早く入れ」
几帳面にも内ポケットに入れられていた名刺ケースから差し出された紙切れをほとんど奪い取るように受け取り、部屋の中を示す。
彼の言う、真壁というのは一臣が助けを求めた件の友人だ。首尾よくベビーシッターを手配してくれたらしい。
「あぁ、この子ですね。よく眠ってる」
リビングに寝かせておいた・・・というより玄関から運んだだけの赤ん坊を覗き込み、思わずという風に目尻を下げる。仕事柄当然だろうが、子供好きなのだろう。
「今は、な」
同じく赤ん坊を一瞥した一臣は、彼とは逆に眉間に皺を寄せた。
先程受け取った名刺を鞄の中に無造作に放り込み、それと入れ替わりに財布を取り出す。そして適当に選んだ黒いカードを音を立ててデーブルの上に置いた。
「何か必要な物があったらこれで用立ててくれ。お前の食事なんかもこれで払ってくれていい」
「え? あの・・・」
困惑顔のシッターを後目に、一臣は玄関に向かう。
「悪いがもう時間がない。契約云々は帰ってからにしてくれ。 なるべく定時に退社出来るようにはする」
靴を履きながら事務的な口調で告げる。
時間がないのも事実だが、赤ん坊がいるなどという自分の家ではおよそあり得ないこの状況から早く逃げたかったというのも正直なところだ。
「ちょっと待ってください。一つだけ」
扉に手を掛けたところで駆け寄って来たシッターに引き止められる。
「この子の名前は?」
人の良さそうな笑みで尋ねられ、一臣はまた眉を顰めた。
「・・・知らん」
「はい?」
正確には、聞いたような気もするが忘れてしまった。ただでさえ寝起きで、しかも珠子があまりにも嵐のように去って行った所為でまったく頭に入らなかった。
流石に唖然としているシッターを振り切り、一臣は会社へと向かった。
***
八雲苑(やくも そのぐ) それがあのシッターの名前らしい。
一臣が名刺に目を通し、それを知ることが出来たのは昼過ぎになってからのことだった。
社員食堂の喫煙スペースにて、持ち込んだパソコンの検索欄にその名を打てば、あの爽やかな笑顔が幾らでも出てきた。
「どう? 結構有名でしょ、彼。売れっ子なの」
パソコン画面を覗き込み、胸を張って見せるのは真壁倫都(まかべ ろんど)。シッターを手配した張本人だ。
ちなみに話し方こそ女性的で、常日頃から自らを“マロンちゃん”などとふざけた呼び方をするような輩だが、外見は一般的な・・・いや一般よりもかなり派手な服装をした男である。今日のシャツはピンクのヒョウ柄だ。
「キッコさんとも、もしもボクたちにベビーが生まれたら彼にお願いしたいね~っていつも話してるのよぅ」
クネクネしながら大凡どうでもいいことを話す。
“キッコさん”というのは真壁橘子(まかべ きつこ)という、一臣とは元同僚で現在は専業主婦の真壁の妻である。
「お前にしては珍しい人脈だと思えば、キッコのツテか」
納得がいったと頷きながら新しい煙草に火を付ける。
ファッション誌の編集者である真壁の顔の広さは知っているが、それにしては随分と毛色が違うと疑問に感じていた所なのだ。一方橘子は、以前は主にエッセイやノンフィクション担当の編集者だった。作家を連れて方々に取材に出かけていた実績があるため、ジャンルを問わず様々な方面に顔が利く。
「そうよぅ。今度ちゃんとお礼言うのよん、三倉ちゃん」
子供に言い聞かせるような口調で言われるので、肩に置かれた手を払いのけることで不快だという意思を伝える。
「売れっ子にしては、今日の今日でよくつかまったな」
ディスプレイの中で指人形を手に微笑んでいる男を顎で示しすと、真壁は何処か浮かない顔になった。
「そこはまぁ・・・訳ありっていうかぁ・・・」
煮え切らない口調で肩を竦めて見せる。
一臣は溜息をついてパソコンを閉じた。
「どんな訳があろうが興味ねぇ。とりあえず役に立つならそれでいい」
吐き捨てるように言い、煙草を備え付けの灰皿に押し付ける。
「まぁまぁ、訳ありの美人なんてそそるでしょ。それとも三倉ちゃんのお好みじゃないかしらん?」
真壁はわざとらしいほどの殊更明るい口調に戻り、揶揄するように言った。
「嘘くさい作り笑い浮かべた奴なんざ御免だな」
今朝会った時にも感じたが、検索して出てきた写真もどれもこれも張り付いたような笑顔だ。赤ん坊に向き合った時の緩んだような表情はともかく、自分に対しての顔はまさに単なる営業スマイル。それがひどく板についているあたり、あのシッターに可愛げはないに違いない。
「手厳しいわね。せっかく良さそうな子紹介してあげたのに」
つまらなそうに真壁が頬杖をつく。
「てめぇが手配したのはシッターだろうが。俺好みの男を斡旋しろとは一言も頼んでねぇ」
まるで見合い相手にでも引き合わせたかのような真壁の言い分に、一臣はげんなりして言葉を返す。真壁はますますふて腐れたような顔をした。
「三倉ちゃんは相手には事欠かないものね~。けどねぇ、遊んでばっかじゃなくてねぇ、いい加減本命ちゃんを探してぇ、ボクとキッコさんみたいにラブラブハッピーな毎日を送れるように・・」
「おい、俺はもう行くぞ」
惚気の混じった説教が始まったので、一臣は逃げるように席を立つ。
「あら、また外回り? 」
真壁は自身の説教を中断されたことは気に留めず、コラーゲン入りと書かれたドリンクをストローで飲みながら尋ねた。
「あぁ。そろそろ顔を出さねぇと、〆切を忘れるか逃亡を図るか栄養失調で倒れるか、そんな奴らばかりだからな」
一臣は大量の合鍵がついている有名ブランドのキーケースを見せてやる。これは一臣が担当している作家たち全員分の合鍵だ。
「そりゃまたごくろーさんなことね」
「まぁな」
真壁に見送られながら、一臣は担当作家たちの元へ向かった。
***
有言実行・・・したくはなかったが、やむを得ず定時に上がり、いつもに比べれば格段に早い帰宅となった。
家に帰れば赤ん坊とシッターがいるのだと分かってはいても、扉を開けた先に明かりが灯っている光景には違和感という以外何も言い様がない心地だ。
「おかえりなさい」
一臣を出迎えたのは、満面の笑みを浮かべた男と、赤ん坊と哺乳瓶。
頭痛がする。
「ゆうくん、よかったね~。パパが帰って来たよ~」
「やめろ」
赤ん坊の背中を擦りながら恐ろしいことを口にするシッターに思わず頭を抱えた。
シッターは不思議そうに首を傾げ、赤ん坊がげっぷをしたのを確認してから抱き直す。そしてまた人好きのする笑顔で赤ん坊に話しかけ始めた。
“パパ”・・・誰が?
一臣は眉を顰める。“アンタの子よ”と言い放った珠子を思い返し、またひどく痛みはじめたこめかみを抑えた。
「三倉さん、お食事は?」
「・・・あ?」
突然尋ねられ、一臣は眉間に深い皺を寄せたままでシッターを睨む。
いつもならば仕事帰りに外食をするか、会社に巣籠りの時は弁当で済ませるのだが、そういえば今日は何も考えていなかった。食事を気にする余裕もなかったのかもしれない。
「差し出がましいかとも思ったんですが、自分の分だけ作るのも材料が無駄になってしまうので用意しておきました。もしお食事がまだでしたら温め直して食べてください」
赤ん坊をあやしながらも立ち上がり、キッチンの方を示す。
一通り揃えたはいいが一度も使っていなかった鍋がコンロに掛かっている。カウンターにもラップのかかった幾つかの皿がある。
「ミルクとおむつが足りないようだったので買い足しておきました。あ、あと、すみません。買い物に出るために合鍵を探したのでいささか物色させていただきました」
「あ、あぁ・・」
テキパキとした口調に少し圧される。テーブルの上には今朝一臣が置いたままのカードと、書類らしきA4の用紙が数枚置かれている。
所在なく立ち尽くしたままの一臣を後目に、シッターは赤ん坊を抱いたままテーブルの傍らにしゃがみ込んだ。よく見るとそこに赤ん坊用の布団を敷いてある。眠りついたらしい赤ん坊をゆっくりと布団に下ろし、再びこちらに笑顔を向けた。
「ゆうくん・・・羽柴友愛(はしば ゆうあ)くん。クーハンの中に母子手帳と保険証が入っていたので、名前は分かりました」
「そうか」
そういえばそんな名前を言っていたような気がする。朧げな記憶を頼りに今朝の珠子とのやり取りを思い返す。
ミルクもおむつも十分に用意していなかった割に、よくもそんなものをきちんと入れておいたものだと妙なところに感心した。
「母子手帳、父親の欄にはちゃんと三倉さんの名前が書かれてありました。なのに、貴方は今朝この子の名前も知らないと言った。どういう事です?」
笑みを浮かべているはずの瞳が冷たく一臣を見据える。その視線には、“それでも父親なのか”という侮蔑が込められているのだろう。全く持って気分の悪い事だ。
「どういう事か、だと? 俺が知るか! 今朝方叩き起こされたと思ったらいきなり押し付けられたんだぞ!? 」
シッターへの苛立ちに、珠子に対する八つ当たりも上乗せした上で強く反論する。けれども今朝の反省は踏まえて怒鳴り声はかなりセーブした。
勢いに任せて事の顛末を話して聞かせる。珠子とはとっくに離婚をしていた事、子供がいることなどつゆほどにも知らなかった事、こちらの都合も構わずに1週間預かることになってしまって正直途方に暮れている事などを懇々と説明した。
全部聞き終える頃には、シッターの作り笑顔は聊か引きつっていた。無理もないが。
「・・・ともかく。僕は今日から一週間、珠子さんゆうくんを迎えに来るまでの間のお世話をすればいいんですね?」
もはや呆れたように溜息をつき、テーブルの上の書類を拾って一臣に手渡す。
「あぁ、そういうことだ」
一臣はざっと目を通した後で、空欄になっていた契約日時、期間などを埋めるべく胸ポケットの万年筆を取り出した。
「それじゃあ、また明日同じ時間に伺いますね」
「・・・は?」
最後の署名捺印を済ませようとしたところでシッターが頭を下げたので、一臣は唖然とした。
見れば、上着を着て鞄を持って、今まさに帰ろうとしているところではないか。
「ちょ、ちょっと待て。まさかコイツと俺を二人にするつもりじゃねぇだろうな?」
慌てて立ち上がり、シッターの腕を乱暴に掴む。思ってもみなかったのか、シッターも作り笑いを忘れて面食らった顔をした。
「まさかもなにも、当たり前じゃないですか。シッターは親御さんが仕事で面倒を見られない間にお子さんのお世話をするものですよ? パパが帰って来たらお役御免で帰宅するのが普通でしょう? 」
そう言って、掴まれた手をゆっくりとけれど有無言わさぬ強さで退けようとする。一臣は負けじともう片方の手も掴んだ。
「冗談じゃねぇぞ、赤ん坊の面倒なんか見れる訳ねぇだろうが。泊まり込みしろ。金は倍額払う」
逃がしてなるものかと力一杯引き寄せて、真正面から見据えることでその必死さを伝える。
シッターははっきりとその困惑を表情に現した。
「何言ってるんです、僕だって今日の今日で来たばかりで着のみ着のままなんですよ? 着替えだって泊りの用意だって何もしてきてないし、大体・・・」
「だから必要なモンは好きなように買えって言ってんだろうが。今日の分は取りあえず俺ので我慢しろ。着替えでも洗面道具でも幾らでも新品がある」
「いえ、そう言う問題ではなくて・・・」
「金が2倍で足りねぇなら3倍だ。その代わり24時間きっちり面倒見ろ」
「いや、だから・・」
「これ以上何が不服だ、てめぇは? 」
「不服とかいう事ではなくて・・」
「だったら決まりだ」
「え?」
力比べ、根比べの勝者は一臣だった。抵抗に疲れたのか、シッターは掴まれた腕をだらんと下げてただただ困惑顔で一臣を見つめている。
「赤ん坊の迎えが来るまでの間、泊まり込みで面倒をみること。それがお前の雇用条件だ。いいな?」
とどめとばかりに、言い聞かせるようにシッターの顔を覗き込む。
シッターは一瞬恨みがましいような視線を投げかけたかと思えば、また得意の営業スマイルを浮かべて言った。
「分かりました。よろしくお願いします。ゆ・う・く・ん・の・パ・パ・さん」
「・・・やめろ」
噛み締めるように放たれた言葉に頭痛を感じ、一臣はまたこめかみを抑えた。
校了明け、午前様の帰宅でほんの数時間寝た後にはまたすぐ出社・・・そんな予定でいた三倉一臣(みくら かずおみ)は、自分の眠りを妨げたインターフォンの音にひどく眉を顰めた。
無視を決め込もうと頭の上まで布団を被るが、連打しているとしか思えないようなけたたましい音が鳴りやむことはない。
「・・・クソ」
喉奥で呟き、重たい身体を引き摺る様に起こす。思わず睨んだ机の上のデジタル時計は、5時37分を示していた。
「ったく、さっさと開けなさいよね」
不本意ながらに迎え入れた早朝の来客はあり得ないほどの尊大な態度で言い放つ。相変わらずだ、と一臣は頭を抱えた。
この大荷物を抱えた長身の美女は羽柴珠子(はしば たまこ)という。そう長い期間ではないが、一臣は珠子と苗字を同じくしていた時期がある。・・・つまりは元妻だ。
「・・・何の用だ?」
頭を抱えながら用件を問う。早朝からアポなしで人を訪ねてくるその非常識さに苦言を呈したところで聞き入れられないことは知っているのだ。話を進めた方が早く解放されるに違いない。
「いきなりで悪いんだけど、頼みがあるのよ」
シャネルのサングラスをついと下げ、人工的に長い睫毛をはためかせて珠子は微笑んだ。悠然と曲線を描いたビビットピンクの口紅はディオールだろうか。
「頼み・・・」
一臣は嫌な予感がして無意識ながらに後ずさる。それによって開けられた空間に、珠子は抱えていた荷物の中でも一際大きなかごバッグを置いた。ガサツな彼女にしては珍しく、ゆっくりと丁寧な手つきで。
「な、何だコレは?」
一臣は真っ青になる。やけに大きなカゴバッグだと思っていたら、それもそのはず。クーハンという、赤ん坊を入れて運ぶための籠だ。勿論中身も入っている。
「赤ちゃんよ」
「ンなもんは見りゃ分かる! 」
しれっと答えた珠子に一臣は怒鳴る。珠子は怯むことなく、逆に一臣の胸倉を掴んで睨みあげた。
「大声出すんじゃないわよ。せっかく寝付いてくれたのに起きちゃうでしょうが」
目が血走っている。
一臣としては、“そんなこと知るか”と言い放ちたくもなったが、確かにここで赤ん坊が目を覚まして金切り声を上げたのでは堪ったものではない。
溜め息を漏らしてから努めて冷静に、と自分に言い聞かせながら珠子の手を払い除けた。
「この子、あんたの子よ。別れた後に一人で産んだの」
「あ?」
冷静に、という誓いを忽ち揺るがす珠子の驚きの発言。
一臣の思考回路が情報を整理し切る前に、珠子は更に続けた。今日ここにやって来た、信じられない目的を。
「急に出張入っちゃってー、この子の預け先に困ってるの。悪いんだけど、一週間ばかり頼むわ。他に頼れる人いないのよー。名前はゆうあよ。友達の友に愛で友愛ね。時間なくってあんまり用意してないのよね。オムツとかーミルクとかー、必要なものは適当に買っといて。んじゃ、飛行機の時間ヤバイからもう行くわ」
ペラペラと滑舌良く言ってのけ、呆然としている和臣を後目に足早に出て行こうとする。
「ち、ちょっと待て! ざけんな! そんなもんで“はいそーですか”で預かるわけねぇだろうが! 」
珠子の手を力任せに掴み、再び怒鳴りつける。その途端、2人の間に置かれていたクーハンの中身が蠢いた。ふにゃふにゃという声がしたと思ったら、次の瞬間大音量で泣き叫ぶ。
耳慣れない騒音に一臣は堪らず耳を塞いだ。珠子の手を離してしまったことに“しまった”と気付いてももう遅い。
「ほーら言わんこっちゃない。あとは頼んだわよー、おとーさん」
わざとらしく肩を竦めたかと思うと、ヒールの音をかき鳴らして素早く走り去ってゆく。我が子の泣き声に後ろ髪引かれるような様子は残念ながら微塵も感じられない。
「おい! 待ちやがれ!!」
一臣の怒鳴り声と赤ん坊の泣き声が虚しく響いた。
***
珠子に赤ん坊を押し付けられて間も無く、一臣は友人に助けを求めた。
普段ならば“友人”などという親しげな名称を授けるのも本意ではないが、何せ窮地だ。背に腹は変えられない。頼れるものは頼らなければ。
そうして2時間ほどが経った。赤ん坊は泣き疲れたのか今はまた大人しく眠りについている。
「遅ぇな・・・」
一臣は舌打ちと共に呟く。苛立ちに任せて灰皿に積んで行った吸殻を更に追加した。
あと10分もすれば出社時間だ。新調したばかりの腕時計を見やり、何度目になるか分からない溜息を漏らす。
その時だった。
インターフォンが鳴り、一臣は勢いよく玄関へ向かう。
「あ、おはようございます」
扉を開けると、やけに爽やかな笑顔の男が立っていた。
「三倉さんですか? 僕、真壁さんに頼まれて来たシッターの・・・」
「挨拶はいい。早く入れ」
几帳面にも内ポケットに入れられていた名刺ケースから差し出された紙切れをほとんど奪い取るように受け取り、部屋の中を示す。
彼の言う、真壁というのは一臣が助けを求めた件の友人だ。首尾よくベビーシッターを手配してくれたらしい。
「あぁ、この子ですね。よく眠ってる」
リビングに寝かせておいた・・・というより玄関から運んだだけの赤ん坊を覗き込み、思わずという風に目尻を下げる。仕事柄当然だろうが、子供好きなのだろう。
「今は、な」
同じく赤ん坊を一瞥した一臣は、彼とは逆に眉間に皺を寄せた。
先程受け取った名刺を鞄の中に無造作に放り込み、それと入れ替わりに財布を取り出す。そして適当に選んだ黒いカードを音を立ててデーブルの上に置いた。
「何か必要な物があったらこれで用立ててくれ。お前の食事なんかもこれで払ってくれていい」
「え? あの・・・」
困惑顔のシッターを後目に、一臣は玄関に向かう。
「悪いがもう時間がない。契約云々は帰ってからにしてくれ。 なるべく定時に退社出来るようにはする」
靴を履きながら事務的な口調で告げる。
時間がないのも事実だが、赤ん坊がいるなどという自分の家ではおよそあり得ないこの状況から早く逃げたかったというのも正直なところだ。
「ちょっと待ってください。一つだけ」
扉に手を掛けたところで駆け寄って来たシッターに引き止められる。
「この子の名前は?」
人の良さそうな笑みで尋ねられ、一臣はまた眉を顰めた。
「・・・知らん」
「はい?」
正確には、聞いたような気もするが忘れてしまった。ただでさえ寝起きで、しかも珠子があまりにも嵐のように去って行った所為でまったく頭に入らなかった。
流石に唖然としているシッターを振り切り、一臣は会社へと向かった。
***
八雲苑(やくも そのぐ) それがあのシッターの名前らしい。
一臣が名刺に目を通し、それを知ることが出来たのは昼過ぎになってからのことだった。
社員食堂の喫煙スペースにて、持ち込んだパソコンの検索欄にその名を打てば、あの爽やかな笑顔が幾らでも出てきた。
「どう? 結構有名でしょ、彼。売れっ子なの」
パソコン画面を覗き込み、胸を張って見せるのは真壁倫都(まかべ ろんど)。シッターを手配した張本人だ。
ちなみに話し方こそ女性的で、常日頃から自らを“マロンちゃん”などとふざけた呼び方をするような輩だが、外見は一般的な・・・いや一般よりもかなり派手な服装をした男である。今日のシャツはピンクのヒョウ柄だ。
「キッコさんとも、もしもボクたちにベビーが生まれたら彼にお願いしたいね~っていつも話してるのよぅ」
クネクネしながら大凡どうでもいいことを話す。
“キッコさん”というのは真壁橘子(まかべ きつこ)という、一臣とは元同僚で現在は専業主婦の真壁の妻である。
「お前にしては珍しい人脈だと思えば、キッコのツテか」
納得がいったと頷きながら新しい煙草に火を付ける。
ファッション誌の編集者である真壁の顔の広さは知っているが、それにしては随分と毛色が違うと疑問に感じていた所なのだ。一方橘子は、以前は主にエッセイやノンフィクション担当の編集者だった。作家を連れて方々に取材に出かけていた実績があるため、ジャンルを問わず様々な方面に顔が利く。
「そうよぅ。今度ちゃんとお礼言うのよん、三倉ちゃん」
子供に言い聞かせるような口調で言われるので、肩に置かれた手を払いのけることで不快だという意思を伝える。
「売れっ子にしては、今日の今日でよくつかまったな」
ディスプレイの中で指人形を手に微笑んでいる男を顎で示しすと、真壁は何処か浮かない顔になった。
「そこはまぁ・・・訳ありっていうかぁ・・・」
煮え切らない口調で肩を竦めて見せる。
一臣は溜息をついてパソコンを閉じた。
「どんな訳があろうが興味ねぇ。とりあえず役に立つならそれでいい」
吐き捨てるように言い、煙草を備え付けの灰皿に押し付ける。
「まぁまぁ、訳ありの美人なんてそそるでしょ。それとも三倉ちゃんのお好みじゃないかしらん?」
真壁はわざとらしいほどの殊更明るい口調に戻り、揶揄するように言った。
「嘘くさい作り笑い浮かべた奴なんざ御免だな」
今朝会った時にも感じたが、検索して出てきた写真もどれもこれも張り付いたような笑顔だ。赤ん坊に向き合った時の緩んだような表情はともかく、自分に対しての顔はまさに単なる営業スマイル。それがひどく板についているあたり、あのシッターに可愛げはないに違いない。
「手厳しいわね。せっかく良さそうな子紹介してあげたのに」
つまらなそうに真壁が頬杖をつく。
「てめぇが手配したのはシッターだろうが。俺好みの男を斡旋しろとは一言も頼んでねぇ」
まるで見合い相手にでも引き合わせたかのような真壁の言い分に、一臣はげんなりして言葉を返す。真壁はますますふて腐れたような顔をした。
「三倉ちゃんは相手には事欠かないものね~。けどねぇ、遊んでばっかじゃなくてねぇ、いい加減本命ちゃんを探してぇ、ボクとキッコさんみたいにラブラブハッピーな毎日を送れるように・・」
「おい、俺はもう行くぞ」
惚気の混じった説教が始まったので、一臣は逃げるように席を立つ。
「あら、また外回り? 」
真壁は自身の説教を中断されたことは気に留めず、コラーゲン入りと書かれたドリンクをストローで飲みながら尋ねた。
「あぁ。そろそろ顔を出さねぇと、〆切を忘れるか逃亡を図るか栄養失調で倒れるか、そんな奴らばかりだからな」
一臣は大量の合鍵がついている有名ブランドのキーケースを見せてやる。これは一臣が担当している作家たち全員分の合鍵だ。
「そりゃまたごくろーさんなことね」
「まぁな」
真壁に見送られながら、一臣は担当作家たちの元へ向かった。
***
有言実行・・・したくはなかったが、やむを得ず定時に上がり、いつもに比べれば格段に早い帰宅となった。
家に帰れば赤ん坊とシッターがいるのだと分かってはいても、扉を開けた先に明かりが灯っている光景には違和感という以外何も言い様がない心地だ。
「おかえりなさい」
一臣を出迎えたのは、満面の笑みを浮かべた男と、赤ん坊と哺乳瓶。
頭痛がする。
「ゆうくん、よかったね~。パパが帰って来たよ~」
「やめろ」
赤ん坊の背中を擦りながら恐ろしいことを口にするシッターに思わず頭を抱えた。
シッターは不思議そうに首を傾げ、赤ん坊がげっぷをしたのを確認してから抱き直す。そしてまた人好きのする笑顔で赤ん坊に話しかけ始めた。
“パパ”・・・誰が?
一臣は眉を顰める。“アンタの子よ”と言い放った珠子を思い返し、またひどく痛みはじめたこめかみを抑えた。
「三倉さん、お食事は?」
「・・・あ?」
突然尋ねられ、一臣は眉間に深い皺を寄せたままでシッターを睨む。
いつもならば仕事帰りに外食をするか、会社に巣籠りの時は弁当で済ませるのだが、そういえば今日は何も考えていなかった。食事を気にする余裕もなかったのかもしれない。
「差し出がましいかとも思ったんですが、自分の分だけ作るのも材料が無駄になってしまうので用意しておきました。もしお食事がまだでしたら温め直して食べてください」
赤ん坊をあやしながらも立ち上がり、キッチンの方を示す。
一通り揃えたはいいが一度も使っていなかった鍋がコンロに掛かっている。カウンターにもラップのかかった幾つかの皿がある。
「ミルクとおむつが足りないようだったので買い足しておきました。あ、あと、すみません。買い物に出るために合鍵を探したのでいささか物色させていただきました」
「あ、あぁ・・」
テキパキとした口調に少し圧される。テーブルの上には今朝一臣が置いたままのカードと、書類らしきA4の用紙が数枚置かれている。
所在なく立ち尽くしたままの一臣を後目に、シッターは赤ん坊を抱いたままテーブルの傍らにしゃがみ込んだ。よく見るとそこに赤ん坊用の布団を敷いてある。眠りついたらしい赤ん坊をゆっくりと布団に下ろし、再びこちらに笑顔を向けた。
「ゆうくん・・・羽柴友愛(はしば ゆうあ)くん。クーハンの中に母子手帳と保険証が入っていたので、名前は分かりました」
「そうか」
そういえばそんな名前を言っていたような気がする。朧げな記憶を頼りに今朝の珠子とのやり取りを思い返す。
ミルクもおむつも十分に用意していなかった割に、よくもそんなものをきちんと入れておいたものだと妙なところに感心した。
「母子手帳、父親の欄にはちゃんと三倉さんの名前が書かれてありました。なのに、貴方は今朝この子の名前も知らないと言った。どういう事です?」
笑みを浮かべているはずの瞳が冷たく一臣を見据える。その視線には、“それでも父親なのか”という侮蔑が込められているのだろう。全く持って気分の悪い事だ。
「どういう事か、だと? 俺が知るか! 今朝方叩き起こされたと思ったらいきなり押し付けられたんだぞ!? 」
シッターへの苛立ちに、珠子に対する八つ当たりも上乗せした上で強く反論する。けれども今朝の反省は踏まえて怒鳴り声はかなりセーブした。
勢いに任せて事の顛末を話して聞かせる。珠子とはとっくに離婚をしていた事、子供がいることなどつゆほどにも知らなかった事、こちらの都合も構わずに1週間預かることになってしまって正直途方に暮れている事などを懇々と説明した。
全部聞き終える頃には、シッターの作り笑顔は聊か引きつっていた。無理もないが。
「・・・ともかく。僕は今日から一週間、珠子さんゆうくんを迎えに来るまでの間のお世話をすればいいんですね?」
もはや呆れたように溜息をつき、テーブルの上の書類を拾って一臣に手渡す。
「あぁ、そういうことだ」
一臣はざっと目を通した後で、空欄になっていた契約日時、期間などを埋めるべく胸ポケットの万年筆を取り出した。
「それじゃあ、また明日同じ時間に伺いますね」
「・・・は?」
最後の署名捺印を済ませようとしたところでシッターが頭を下げたので、一臣は唖然とした。
見れば、上着を着て鞄を持って、今まさに帰ろうとしているところではないか。
「ちょ、ちょっと待て。まさかコイツと俺を二人にするつもりじゃねぇだろうな?」
慌てて立ち上がり、シッターの腕を乱暴に掴む。思ってもみなかったのか、シッターも作り笑いを忘れて面食らった顔をした。
「まさかもなにも、当たり前じゃないですか。シッターは親御さんが仕事で面倒を見られない間にお子さんのお世話をするものですよ? パパが帰って来たらお役御免で帰宅するのが普通でしょう? 」
そう言って、掴まれた手をゆっくりとけれど有無言わさぬ強さで退けようとする。一臣は負けじともう片方の手も掴んだ。
「冗談じゃねぇぞ、赤ん坊の面倒なんか見れる訳ねぇだろうが。泊まり込みしろ。金は倍額払う」
逃がしてなるものかと力一杯引き寄せて、真正面から見据えることでその必死さを伝える。
シッターははっきりとその困惑を表情に現した。
「何言ってるんです、僕だって今日の今日で来たばかりで着のみ着のままなんですよ? 着替えだって泊りの用意だって何もしてきてないし、大体・・・」
「だから必要なモンは好きなように買えって言ってんだろうが。今日の分は取りあえず俺ので我慢しろ。着替えでも洗面道具でも幾らでも新品がある」
「いえ、そう言う問題ではなくて・・・」
「金が2倍で足りねぇなら3倍だ。その代わり24時間きっちり面倒見ろ」
「いや、だから・・」
「これ以上何が不服だ、てめぇは? 」
「不服とかいう事ではなくて・・」
「だったら決まりだ」
「え?」
力比べ、根比べの勝者は一臣だった。抵抗に疲れたのか、シッターは掴まれた腕をだらんと下げてただただ困惑顔で一臣を見つめている。
「赤ん坊の迎えが来るまでの間、泊まり込みで面倒をみること。それがお前の雇用条件だ。いいな?」
とどめとばかりに、言い聞かせるようにシッターの顔を覗き込む。
シッターは一瞬恨みがましいような視線を投げかけたかと思えば、また得意の営業スマイルを浮かべて言った。
「分かりました。よろしくお願いします。ゆ・う・く・ん・の・パ・パ・さん」
「・・・やめろ」
噛み締めるように放たれた言葉に頭痛を感じ、一臣はまたこめかみを抑えた。
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