子守歌は眠れない

sakaki

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子守歌は夜明けまで続く2

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たかが三日をされど三日だと感じ始めたのは、あっという間に溢れかえった灰皿を見た時だった。
普段ならば八雲がこまめに取り替えているので、幾ら吸ってもいっぱいになることなどない。
ならば八雲が通って来る前はどうだったのかと思い返せば、何のことはない、こんなに吸い殻が溜まるほど家で過ごしていなかった。
会社に籠もっているか、一夜限りの相手の家か、朝方まで飲み明かしているか、基本的に家には寝に帰ってくるだけということが多かった。
夕食を家で食べるという習慣がついたのは八雲が来てからだ。八雲が待っているから仕事も早く切り上げるようになった。元々働き過ぎだ、ワーカーホリックだと言われていたから丁度良いが。
(面倒くせぇな・・・)
冷蔵庫から作り置きの料理を取り出し、溜息を漏らす。
面倒でも温めて食べるように、と言い聞かせていた八雲の顔が浮かんで、仕方なしにレンジに向かう。一人の時は滅多に使うことはない・・・というより使ったことがなかったが、数秒ほど各種ボタンと睨み合いをして何とか稼働させることが出来た。
わざわざ皿に移し替えるという発想はないので、耐熱容器のままテーブルに運ぶ。
騒がしいばかりのテレビ番組を見ながら食べる料理は、なぜかひどく味気なかった。いつも食べている八雲の手料理に他ならないのに、あまり美味いとは思えない。
作りおきだからとか、耐熱容器のままだからとか、そんな理由でないことは明らかだった。
隣に八雲がいない。
たったそれだけのことが、味覚にすら空虚感をもたらす。
(クソ・・・ガキか、俺は)
自分に苛立ち、ロールキャベツに箸を突き立てる。ご丁寧に結ばれた干瓢がくにゃりと曲がった。




「な~んだ、八雲ちゃんが里帰りだったのね~」
黒スパンコールのハンチングをギラギラさせながら、一臣の同僚であり八雲とも共通の友人である真壁倫都(まかべ ろんど)が安堵したように息をつく。そして自作したのだと散々自慢したサンドイッチをピンと小指を立てて摘まんだ。
真壁は昨日今日と連続で弁当持参ではない一臣を不審がり、心配半分好奇心半分でわざわざ事情を聞きにやって来たのだ。いや、事情を聞きにというよりは、今度は何をして八雲を怒らせたのかなどという難癖を付けにきたというべきか。どちらにしても余計なお世話だ。
「だからそんなにご機嫌斜めなのねぇ、三倉ちゃんたら寂しんぼさん」
しなを作ってオホホと笑う。ちなみに、こんな口調な上に服装も夜の町を彷彿させる派手さだが、彼はゲイバー勤めでもなんでもない、ごく一般的な妻帯者である。
「誰も寂しいなんざ言ってねぇだろうが。口うるさいのがいないのもたまにはいいもんだと思ってたところだ」
煙草を取り出し、吐き捨てるように言う。
真壁は大きく肩を竦めて呆れ返ったポーズを取った。
「なぁ~~に言っちゃってんのよ。眉間の皺は2割増し、声の凄みは3割増し、ピリピリムード増し増しで部下もビビり上がっちゃってるじゃないの」
「気のせいだな」
ピクルスで指を指されたが、ふんと鼻を鳴らして聞き流す。自覚が無いわけではないが、おいそれと認めるのは一臣のプライドが許さない。
「けど、なんでいきなり里帰りなの~?  三倉ちゃん何か聞いてる?」
盆でも正月でもない中途半端な時季なのに、と真壁は首をかしげる。
一臣はかぶりを振った。
唐突に里帰りするので3日ほど家を空けます、と言われて、そうか分かったと答えただけだ。
たった3日のことで理由を問い詰める必要性は感じないし、八雲が自分から言わないことをわざわざ知ろうとは思わない。
単に面倒なのもあるが、上手くはぐらかされようものなら腹立たしいことこの上ないからである。
(あいつはマジでいつまで経っても何考えてんのか分かりゃしねぇ)
苛立ちが募る。無意識のうちに煙草をへし折っていた。
「ちょっ、その鬼の形相止めなさいってば」
真壁がぎょっとして一臣の肩を叩く。
一臣は眉をひそめて折れた煙草を灰皿に捨てた。
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