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(・・・ん? なんだありゃ・・・)
次の授業に向かおうと保健室の前を通っていると、何やらこそこそしている3人組を見つけた。
3人をそれぞれ一言で表すならならば“チビ”、“デブ”、“メガネ”。確か進学科の生徒だったはずだ。
「お前ら何やってんだ?」
「「「うわぁっ!?」」」
背後にそっと忍び寄って声をかけると、3人組は揃って間抜けな声を上げた。
勢い余って尻もちをついた真ん中の“メガネ”が首から下げているのは御大層な一眼レフカメラだ。
残りの“チビ”と“デブ”もそれぞれにデジタルカメラを手にしている。
「お前ら写真部か・・・こんなとこで何やってんだ?」
保健室とカメラを交互に見てからじろりと睨む。瞬間、3人がサッと青ざめたのは当然見逃さなかった。
「一体何の写真を撮ってるのかなぁ?」
太った生徒のデジカメを奪い取り、保存されているデータを確認する。
案の定と言うべきか、カメラには保健室の中にいる美琴が何枚もの写真に収められていた。
「ふーん・・・隠し撮り、か」
ニンマリと笑いながら、手際よくSDカードを取り出す。
そして、
「あぁぁぁああああ!!」
3人組が悲壮な声を上げるのも無視し、何のためらいもなくへし折った。
残りの二人の分も同じく、SDカードは真っ二つ。
「な、な、な、なんてことをするんですか!?」
背の低い生徒が咲夜に掴みかからんばかりの勢いで怒鳴る。
残りの二人もそれに続けと喚き散らした。
「写真部が写真を撮って何が悪いんですか!?」
「そ、そうですよ!! 部活動に口出ししないでください!!」
所々声を裏返らせながら青筋を立てて怒る姿はもはやお笑い草だ。
咲夜としてはカメラを叩き壊さなかっただけでも相当の譲歩のつもりだったのだが・・・。
「いくら教師だからって、僕らがどんな写真を取ろうと口出しする資格なんかないはずだ!」
“メガネ”がビシッと指を差して言い切れば、“チビ”と“デブ”も口々にそうだそうだと同意する。
もはや面倒にすらなりつつ、咲夜は改めて3人を睨みつけた。
「俺が綾華先生の彼氏だから、っつーのは資格になんねーのか?」
ふんぞり返って言い捨てる。
「う、嘘だ・・・・」
3人組は青白い顔を益々青くした。うっすら涙を滲ませ、ショックに打ちひしがれている。
「ウソだぁぁぁぁ!!」
各々が大事なカメラを咲夜から奪い取り、叫びながら逃げて行った。
先日のことと言い、美琴は余程男子生徒に人気があるようだ。
“人気”などと好意的な言い方をするのももはや馬鹿らしい。
力尽くで手込めにしようとする者、こそこそと写真を隠し撮りする者・・・本当に美琴には昔からろくな男が寄ってこない。
(ったく・・・保健室の窓マジックガラスにでもしたほうがいいんじゃねーか)
しゃがみ込んでSDカードの残骸を拾いながらふとそんなことを考える。
保健室の窓は上部3分の2は色つきのガラスだが、残りの3分の1は透明。
盗撮するには持って来い・・・とまでは言わないが、保健室の中が容易に覗けてしまうのだ。
姉である理事長に相談してみようかと本気で考え始めていると、ふと頭上から声を掛けられた。
「誰がいつ彼氏になったんですか?」
「・・綾華」
顔を上げると、保健室の窓を開けた美琴が不機嫌そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「そういうことにしといた方が良いだろ? これでアイツらも付きまとわなくなるだろうし」
咲夜は言い訳のように言い、“よっこらしょ”と立ち上がる。
美琴の手を取り、拾い集めたSDカードだったものを手渡した。
「隠し撮りなんかされたら、どういう用途に使われんのか分かるだろ」
わざとらしく含みのある言い回しをする。
美琴は思い切り顔を顰め、握られていた手を振りほどいた。
「そんなの、貴方には関係ないじゃないですか」
視線を逸らして呟く。
何とも可愛げのない言い分に、咲夜もまた眉を顰めた。
「関係あるよ。これから口説こうってのに、他の男に群がられて面白いわけねーだろ」
引っ込められてしまった美琴の手をもう一度掴んで言う。
美琴は目を見開き、一瞬頬を染めたかと思うと、眉間に深い皺を寄せた。
「からかわないでくださいっ!!」
怒鳴りつけ、窓を勢いよくピシャリと締める。
「可愛くねーな・・・」
危うく挟まれそうになった手を所在なさげに見つめながら咲夜は一人呟いた。
「痴話喧嘩ならする場所を選ぶべきだな」
背後から低い声が響く。
振り返ると、相変わらず仏頂面をした宇佐美が立っていた。
咲夜と同じく次の授業に向かう途中らしい。
「通りかかったのが俺で良かったと思えよ。学年主任や教頭なら大騒ぎだ」
溜息交じりに言われ、咲夜はバツの悪そうに髪をかき上げた。
「なんでアイツあんな可愛げねーのかなぁ・・・」
並んで歩きながらボツリと言う。
「俺に惚れてるなら素直になればいいと思わねぇ?」
率直に愚痴をこぼせるのは、教室棟まで聊か距離があるための油断だ。
それは宇佐美も同じようで、今ばかりは“学校で慣れ慣れしくするな”と咎めることはせずにただ溜息を洩らした。
「綾華先生のことはよく分からないがな・・・」
少し考えるような素振りをした後で、じっと咲夜を見据える。
そして一語一語を大事に紡ぎだすように言った。
「惚れてるからこそ、色々考えすぎることもあるんじゃないか?」
咲夜を見ているはずなのに、何処か遠い目をしているような気もする。
その言葉が美琴の気持ちを代弁するだけでなく、宇佐美自身のことも示しているからなのだろう。
咲夜はおもむろにズボンのポケットを探り、入れっぱなしになっていた飴を掴んだ。
「惚れてんなら、馬鹿になりゃいいんだよ。余計な事は考えないで、な」
言いながら、宇佐美の胸ポケットに飴を押し込む。
可愛らしい苺柄の紙に包まれたそれは“冷血教師:宇佐美響一朗”には不似合いで、なんだか笑えた。
「相変わらずの直情型だな。羨ましいよ」
宇佐美自身も何とも言えない笑みを浮かべ、軽口とも本音とも取れることを言う。
そして咲夜の肩を叩いた。
「ま、精々頑張れよ」
「当然」
鼓舞され、咲夜も胸を張って頷く。
教室棟が近付くにつれ冷血教師の顔を作る宇佐美に習い、徐々に歩幅をずらした。
(あ・・・藤乃の土産何がいいか聞くの忘れた・・・)
ハッと気づいた時にはもう遅い。
宇佐美は工業科の廊下をモーセのごとく生徒に道を開けさせながらツカツカと歩いている。
今ここで『なぁ、響一朗。藤乃からのパリ土産何が良い?』などと尋ねたのでは胸ぐらを掴まれる勢いだろう。
咲夜と同じく宇佐美とも幼馴染である藤乃から『響ちゃんにもお土産のリクエストを聞いておいてね』と頼まれていたのだが・・・
(紅茶・・・とか適当に言っとくか。とりあえず)
咲夜は所在なさげに頭を掻いた。
(・・・ん? なんだありゃ・・・)
次の授業に向かおうと保健室の前を通っていると、何やらこそこそしている3人組を見つけた。
3人をそれぞれ一言で表すならならば“チビ”、“デブ”、“メガネ”。確か進学科の生徒だったはずだ。
「お前ら何やってんだ?」
「「「うわぁっ!?」」」
背後にそっと忍び寄って声をかけると、3人組は揃って間抜けな声を上げた。
勢い余って尻もちをついた真ん中の“メガネ”が首から下げているのは御大層な一眼レフカメラだ。
残りの“チビ”と“デブ”もそれぞれにデジタルカメラを手にしている。
「お前ら写真部か・・・こんなとこで何やってんだ?」
保健室とカメラを交互に見てからじろりと睨む。瞬間、3人がサッと青ざめたのは当然見逃さなかった。
「一体何の写真を撮ってるのかなぁ?」
太った生徒のデジカメを奪い取り、保存されているデータを確認する。
案の定と言うべきか、カメラには保健室の中にいる美琴が何枚もの写真に収められていた。
「ふーん・・・隠し撮り、か」
ニンマリと笑いながら、手際よくSDカードを取り出す。
そして、
「あぁぁぁああああ!!」
3人組が悲壮な声を上げるのも無視し、何のためらいもなくへし折った。
残りの二人の分も同じく、SDカードは真っ二つ。
「な、な、な、なんてことをするんですか!?」
背の低い生徒が咲夜に掴みかからんばかりの勢いで怒鳴る。
残りの二人もそれに続けと喚き散らした。
「写真部が写真を撮って何が悪いんですか!?」
「そ、そうですよ!! 部活動に口出ししないでください!!」
所々声を裏返らせながら青筋を立てて怒る姿はもはやお笑い草だ。
咲夜としてはカメラを叩き壊さなかっただけでも相当の譲歩のつもりだったのだが・・・。
「いくら教師だからって、僕らがどんな写真を取ろうと口出しする資格なんかないはずだ!」
“メガネ”がビシッと指を差して言い切れば、“チビ”と“デブ”も口々にそうだそうだと同意する。
もはや面倒にすらなりつつ、咲夜は改めて3人を睨みつけた。
「俺が綾華先生の彼氏だから、っつーのは資格になんねーのか?」
ふんぞり返って言い捨てる。
「う、嘘だ・・・・」
3人組は青白い顔を益々青くした。うっすら涙を滲ませ、ショックに打ちひしがれている。
「ウソだぁぁぁぁ!!」
各々が大事なカメラを咲夜から奪い取り、叫びながら逃げて行った。
先日のことと言い、美琴は余程男子生徒に人気があるようだ。
“人気”などと好意的な言い方をするのももはや馬鹿らしい。
力尽くで手込めにしようとする者、こそこそと写真を隠し撮りする者・・・本当に美琴には昔からろくな男が寄ってこない。
(ったく・・・保健室の窓マジックガラスにでもしたほうがいいんじゃねーか)
しゃがみ込んでSDカードの残骸を拾いながらふとそんなことを考える。
保健室の窓は上部3分の2は色つきのガラスだが、残りの3分の1は透明。
盗撮するには持って来い・・・とまでは言わないが、保健室の中が容易に覗けてしまうのだ。
姉である理事長に相談してみようかと本気で考え始めていると、ふと頭上から声を掛けられた。
「誰がいつ彼氏になったんですか?」
「・・綾華」
顔を上げると、保健室の窓を開けた美琴が不機嫌そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「そういうことにしといた方が良いだろ? これでアイツらも付きまとわなくなるだろうし」
咲夜は言い訳のように言い、“よっこらしょ”と立ち上がる。
美琴の手を取り、拾い集めたSDカードだったものを手渡した。
「隠し撮りなんかされたら、どういう用途に使われんのか分かるだろ」
わざとらしく含みのある言い回しをする。
美琴は思い切り顔を顰め、握られていた手を振りほどいた。
「そんなの、貴方には関係ないじゃないですか」
視線を逸らして呟く。
何とも可愛げのない言い分に、咲夜もまた眉を顰めた。
「関係あるよ。これから口説こうってのに、他の男に群がられて面白いわけねーだろ」
引っ込められてしまった美琴の手をもう一度掴んで言う。
美琴は目を見開き、一瞬頬を染めたかと思うと、眉間に深い皺を寄せた。
「からかわないでくださいっ!!」
怒鳴りつけ、窓を勢いよくピシャリと締める。
「可愛くねーな・・・」
危うく挟まれそうになった手を所在なさげに見つめながら咲夜は一人呟いた。
「痴話喧嘩ならする場所を選ぶべきだな」
背後から低い声が響く。
振り返ると、相変わらず仏頂面をした宇佐美が立っていた。
咲夜と同じく次の授業に向かう途中らしい。
「通りかかったのが俺で良かったと思えよ。学年主任や教頭なら大騒ぎだ」
溜息交じりに言われ、咲夜はバツの悪そうに髪をかき上げた。
「なんでアイツあんな可愛げねーのかなぁ・・・」
並んで歩きながらボツリと言う。
「俺に惚れてるなら素直になればいいと思わねぇ?」
率直に愚痴をこぼせるのは、教室棟まで聊か距離があるための油断だ。
それは宇佐美も同じようで、今ばかりは“学校で慣れ慣れしくするな”と咎めることはせずにただ溜息を洩らした。
「綾華先生のことはよく分からないがな・・・」
少し考えるような素振りをした後で、じっと咲夜を見据える。
そして一語一語を大事に紡ぎだすように言った。
「惚れてるからこそ、色々考えすぎることもあるんじゃないか?」
咲夜を見ているはずなのに、何処か遠い目をしているような気もする。
その言葉が美琴の気持ちを代弁するだけでなく、宇佐美自身のことも示しているからなのだろう。
咲夜はおもむろにズボンのポケットを探り、入れっぱなしになっていた飴を掴んだ。
「惚れてんなら、馬鹿になりゃいいんだよ。余計な事は考えないで、な」
言いながら、宇佐美の胸ポケットに飴を押し込む。
可愛らしい苺柄の紙に包まれたそれは“冷血教師:宇佐美響一朗”には不似合いで、なんだか笑えた。
「相変わらずの直情型だな。羨ましいよ」
宇佐美自身も何とも言えない笑みを浮かべ、軽口とも本音とも取れることを言う。
そして咲夜の肩を叩いた。
「ま、精々頑張れよ」
「当然」
鼓舞され、咲夜も胸を張って頷く。
教室棟が近付くにつれ冷血教師の顔を作る宇佐美に習い、徐々に歩幅をずらした。
(あ・・・藤乃の土産何がいいか聞くの忘れた・・・)
ハッと気づいた時にはもう遅い。
宇佐美は工業科の廊下をモーセのごとく生徒に道を開けさせながらツカツカと歩いている。
今ここで『なぁ、響一朗。藤乃からのパリ土産何が良い?』などと尋ねたのでは胸ぐらを掴まれる勢いだろう。
咲夜と同じく宇佐美とも幼馴染である藤乃から『響ちゃんにもお土産のリクエストを聞いておいてね』と頼まれていたのだが・・・
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