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sakaki

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3:初めてのクリスマス

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――― 初めてのクリスマス ~Painless3~ ―――



付き合ってから初めてのクリスマス。
それは恋人たちにとって何よりも大事なメインイベントなのだと、切々と後輩から聞かされた。
正直なところ、一年中脳内がクリスマスパーティーのような後輩の話などさほど相手にしていない。
たいていいつも話半分で聞き流しているのが常だ。

・・・なのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。

(クリスマス・・・ねぇ)
煙草を吹かしながら、立花憲剛(たちばな けんご)はぼんやりと天井を見上げた。
今日は定時に上がれそうなほどになんとも静かな一日で、だからこそ余計に物思いにふける時間が十二分にある。
思案する議題はもちろんクリスマスをどう過ごすか、だ。
普段ならば仕事に忙殺されてそんなことを考える余裕はなく、いつの間にやら終わっていたという状況になるのだが今年はそうもいかない。
なぜなら今年のクリスマスは“付き合ってから初めてのクリスマス”とやらに該当するのだ。
(っつっても、あっちは仕事だしなぁ・・)
“あっち”というのは今頃は家で美味しい料理を作ってくれているであろう雛山芙結(ひなやま ふゆ)のことだ。
今年ひょんなことから出会い、あれよあれよという間に恋人になった。
芙結は今ディナーまで出すカフェに勤めているため、クリスマスはむしろ稼ぎ時で残業をする予定だそうだ。
となればなおさら、クリスマスにどう過ごすかというのは限られてくる。
どこかに出かけてお茶を濁すこともできないのだ。
(どうすっかなぁ・・・)
煙草をもみ消し、時計を見やる。
案の定何事もなく終業時刻を迎え、憲剛は鞄を持ってそそくさと退散した。



車を走らせ、自宅に向かう。
途中、有名レストランが目に入った。
(レストランでメシ食うとか・・・)
想像を巡らせる。

夜景の見える特等席。
最高級のフランス料理に、いつもよりも上質なスーツに身を包んだ憲剛とその向かいで微笑む芙結。
家とは違う距離間に何処となく照れすら感じながら、二人の緩やかな時間が進んでいく。
“美味しかったね”と花のように笑う芙結を見計らったように、シャンパンが運ばれる
シャンパングラスに注がれる薄ピンク色の液体の中、ひときわ輝くのはゴールドの台座に掲げられたピンクダイヤ。
信じられないという風に瞳を輝かせる芙結に、憲剛は落ち着いた笑みを浮かべ、言う。
“つけてみろよ、お前ために特別に作らせたエンゲージリングだ”

(~~~~~~~~って、ありえねぇだろ)
一通り妄想を繰り広げた後で頭を抱えて自分自身に突っ込みをいれた。
べたすぎるという以前に柄じゃないにも程がある。しかも、男同士でなにがエンゲージリングだ。
(そうじゃなくてもっと他だ他)

思い直してさらに車を走らせる。とはいえ道路は混雑しているためろくに進まないまま信号待ちとなった。
定時に上がれるのは良いが、こういう点はデメリットだとつくづく感じる。
(どこもかしこもピカピカギラギラしてんなー・・・)
並木道を飾るイルミネーションを見ながら眉を顰めた。
如何にLEDに変えようとも、省エネに気を配っているだとか言おうとも、結局これだけの電力を使っているのは非エコだ。
それなりにきれいだとも思えるが、関心の薄い憲剛にしてみればさほどの感動もない。
(・・けど、芙結はこういうの好きなんだろうな)
ふとイルミネーションに見とれる芙結の顔を思い浮かべる。
うっとりして、大きな瞳をめいっぱい輝かせて喜ぶに違いない。
(そういや、なんかでっかい電飾ツリーがあるんだっけ・・・)

光り輝く並木道を二人身を寄せて歩く。
人だかりが徐々に増え、目的の場所に近づくにつれて光の強さは増していく。
そこにあるのは目を見張るほど大きなクリスマスツリー。
色とりどりのイルミネーションに飾られ、神々しく輝いている。
“すごい・・・きれい”
思わず、という風に芙結が呟く。呟きとともに白い息が漏れた。
寒さのため無意識のうちに指先を擦り合わせている芙結の手を取り、憲剛は自らの上着のポケットへと誘う。
“あったかい・・・”
ふわりと頬を染め、芙結は幸せそうにはにかむ。
ポケットの中では二人しっかりと手を握り合っていた。

(~~~~~って、だからそれもねぇって)
これまた一人でツッコミを入れる。
クリスマスツリーなんぞ見に行った日にはカップルの多さに圧倒されるだけだ。
イルミネーションを楽しむ余裕すらないほどの人ごみになるに決まっている。
そもそも、男同士である自分たちが人ごみの中で手を繋ぐなどあり得ないだろう。

(外に出るっつー発想を捨ててみるか。家で過ごしたっていいんだし)
再び車を走らせ、憲剛は思い直す。
芙結の手料理があればそれで十分なのだ。あとはせっかくだからいつもよりも上等の酒でも買っておけばいい。

灯りはクリスマスキャンドルだけのいつもとは少し違う雰囲気の部屋。
普段は使わないテーブルクロスに、ほんの少し気取ったメニューの並ぶ食卓。
二人見つめあいながら、お揃いのワイングラスを傾ける。
乾杯の合図とともに口を付けたのはグラスではなく、お互いの唇・・・。

(~~~~~だから、なんでこうなるんだって。寒すぎんだろ)
またも脳内ツッコミ。
ひとしきり思い浮かべては見るものの、何から何まで柄ではないのだ。
(あーもう、やめだやめ。慣れねぇこと考えるから駄目なんだ)
グシャグシャと髪をかき上げる。
もうこれ以上余計なことを考えるのはやめようと、前だけを見て車を走らせた。



「お帰りなさい、憲剛」
帰り着くと、美味そうなシチューの匂いとともに芙結の温かい笑顔が迎えてくれた。
「・・・何買ってきたの?」
くりくりと大きな瞳を見開いて、芙結が首をかしげる。
その原因は憲剛の手に持たれている大きな買い物袋だ。
「・・・あ、ツリー! 買ってきたの? 」
ごそごそと袋を開けて、芙結は感嘆の声を上げた。
「帰り道んとこにあるおもちゃ屋にあったから・・・なんとなく、な」
ばつの悪そうに憲剛は呟く。
高級なシャンパンでも、洒落たクリスマスキャンドルでも揃いのワイングラスでもない。
憲剛が買ってきたのは、芙結の背丈ほどある大きなクリスマスツリーだ。
「すごーい! 飾りもこんなにいっぱい! 」
芙結は感動しきりでツリーの飾りの入った袋を抱きしめた。
子供っぽすぎるかとも思ったが、こんなに心から喜んでくれるなら買ってきて正解だったと本気で思える。
「ありがとう、憲剛。二人で一緒に飾りつけしようね」
満面の笑みを浮かべる芙結に、憲剛も自然と頬を緩ませた。

特別なことはいらない。柄にもない甘さもいらない。
二人楽しくいられるのなら、それだけで飛び切りの幸せなのだ。

――――MerryChristmas。
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