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五話①
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Raise5話①
***
薄気味の悪い光をたたえた5つの魔法陣。それぞれにこれまた薄気味の悪い年寄りの姿が並んでいる。絶対的権力者:コマンドである。
「以上で丁度400個。ご依頼通り、魔法薬の納品を致します」
5人分の睨め付けるような視線をそよ風程度に受けながらグレイは言った。
イオンとミールの7つ目の依頼である、「魔法薬400個の精製」の納品と報告に来ているのだ。
『素晴らしい。思ったよりもずっと早かったな』
『流石は優秀な君が担当しているだけのことはある』
『全くだ。材料集めから精製まで、下手をしたら1ヶ月以上かかる仕事だと思っていたよ』
老人が皺まみれの顔を歪めて笑い、口々に賞賛する。
「お褒めに与り光栄です」
グレイは慇懃無礼に腰を折った。
(狸爺共が、白々しい)
おくびにも出さないが、内心では舌打ちをして悪態を付いている。
大量の魔法薬の精製・・・今回の依頼は、単なる時間稼ぎだとしか思えなかった。年寄り達の言うとおり、普通ならば数週間以上かかってもおかしくない仕事だ。学術院時代は魔法薬を研究していたのだというミオンの知識と、食事さえ与えていれば何日徹夜をしても平気なイールの屈強な体力があってこそ、短期間でこなすことができたが。正直なところ、依頼内容を知った当初はどうやってコマンドの監視をかいくぐって手助けをしようかと考えていたところだ。
(時間稼ぎをされるくらいには・・信頼されていないということか。敢えてシアと引き合わせたのもそう言うことだろう)
6つ目の依頼によって再会させられたシアの事を思い返す。サクファスの花が開花するまであと僅か・・・そんな彼とグレイを会わせることで、老人達は探りを入れてきたのだろう。
(今更、何をしようが無駄だ)
評定が終わるまで・・・グレイがコマンドになるまで、クリアしなければならない依頼は残り3つ。今更老人達が慌てたところで、それは代わりはしない。こちらには絶対に破られない誓約書であるジファーズの印もあるのだ。
「さて。早速ですが、次の依頼をいただけますか?」
顔を上げ、挑むような視線で問う。勿論笑みは絶やさずに。
『次はこれだ。受け取り賜え』
中央の老体が右手をかざすと、グレイの手元に依頼書が現れた。
『随分と君にご執心の紳士からのご依頼だ』
揶揄するように言われて依頼主の名前を見やると、なるほどよく知った右上がりのくせ字があった。
「ライズ卿・・ですか」
グレイの冒険譚を聞くことを三度の飯より好物にしている老紳士だ。
『御息女の護衛をご所望だそうだ』
『命を狙われている危険があるのだと。お可哀相に』
随分と大仰な言い回しだが、依頼書を見る限りでは確証はなさそうだ。"危険な目に遭いそうになった”という内容が箇条書きにされているが、階段から落ちそうになった、誰かに付けられている気がする等、申し訳ないがどれも自意識のレベルを超えていない。
「護衛の期間は・・・未定、と?」
要はライズ卿の御息女の不安が完全に払拭されるまでの間ずっとということだ。
(これもまた時間稼ぎか)
依頼書を持つ指に力が籠もった。グレイの苛立ちを汲んだのか、老人達は満足そうに微笑んでいる。
『ライズ卿が、ギルドに多額の寄付をしているのは知っているな?』
『君自身も彼には懇意にしてもらっているのだろう』
『当然、断る理由はないと思うが』
皺の隙間から覗く鋭い眼光がグレイに刺さる。
「えぇ、勿論です。謹んでお受けいたします」
グレイはまた笑顔を貼り付け、恭しく一礼した。
***
(あー・・・鼻がバカになってる)
自分の匂いを確かめながらミオンはため息を付いた。ようやく連日徹夜となった今回の依頼を終えて数日ぶりのシャワーを浴びることができたのだが、ずっと触れていた薬品の匂いが鼻に染み着いてしまったようで、匂いが取れたのか全く分からない。
しかしそれも致し方ない事だ。ミオン達がここ数日寝泊まりしているのはグレイがどこからか探して借りてきた古い研究所。400個の魔法薬を作り終えた後その場で寝落ちしてしてしまったため、つい先ほどまで作っていた魔法薬の残骸や使用した器具、材料の残りがあちらこちらに散らばっている。
(これを片付けしないと・・・いけないのか・・・)
分かっていてもうんざりだ。さらに、
(何よりデカくて邪魔なもんが落ちてる・・・)
一歩踏み出したところで柔らかいものを踏んづけた。ミオンと同じく寝落ちした・・・いや、椅子に座った状態で机に突っ伏して眠ったミオンと床に転がって鼾をかいているこの状態を一緒くたにしたくはないが・・・イールだ。
「お前いつまで寝てんだよ!」
脇腹のあたりを思い切り蹴りあげてやる。イールは「んがっ」と変な声を上げて飛び起きた。
「何すんだよ、ミオンの乱暴モン! いててて、なんか体中が痛い! あー、俺床で寝てたんじゃん!? そりゃあちこち痛ぇーよ! うわー!」
低血圧なミオンと違ってイールは起きた瞬間からテンションが高い。不快なほどに。
「うるさいし、汚いし、お前さっさと風呂行けよ! 臭いから!」
本当は鼻が利かないのでイールの臭い等分からないのだが、大げさに鼻を塞ぎながら言ってやる。
「くくくく、臭い!? 酷すぎだろ!!」
イールは泣きそうな顔で自分の体のあちこちを嗅ぎ、やはり鼻が利かないのかしきりに首を傾げた。
「・・・ここの風呂・・・ってかシャワー、狭いし暗いしなんかやなんだよなぁ・・・」
ミオンが投げ付けてやったタオルを受け取ってから、イールはぼやいた。
イールの言うとおり、研究所であるこの施設に宿泊設備など整っているはずもなく、風呂は一人が立って入るのがやっとの狭いシャワー室が一つついているだけなのだ。当然、数日間泊まるための各自の部屋などというものもなかったので、初めの日は寝袋で眠った。それ以降は連日徹夜になったので、なるほど眠る部屋など必要いのだと悟ったものだが。ちなみにグレイはといえば、研究所の隣にどこからともなく出現させたマイホームで悠々自適に寝泊まりしていた。いつもながら腹立たしい。
「贅沢言うなよ、無いよりマシだろ」
ふん、と鼻を鳴らして「早く行け」と顎でしゃくってみせる。けれどイールはなかなか動かない。
「あ~・・学術院の風呂が恋しいよぉ~・・」
前回の依頼で立ち寄った学術院に思いを馳せながら、散らかっている床をごろごろと転がり回る。その動きに合わせるように埃が舞った。
汚さにぞっとしてミオンは顔をしかめたが、イールのぼやきはまだ続く。
「学術院の風呂は広~いしさー、明る~いしさー、きれーだしさー、それに・・・・・・・・・」
急にイールの動きが止まった。そしてなぜか横を向き、徐々に体を丸めていった。
「おい、どうした?」
不審に思ったミオンがのぞき込むと、
「ぬぁんでもぬぁい・・」
イールは茹で蛸のように真っ赤になって、タオルで鼻を押さえていた。鼻血を出したらしい。ミオンはすぐにピンときた。
「お、お、お前!! どうせまた、シアさんのはだ・・裸、思い出してたんだろ!? 男同士だぞ、バカ!! 変態!!」
しどろもどろに怒鳴りなってイールを蹴る。だがミオンもまた、イールほどではないにせよ赤面している自覚はあった。
「ただいま。楽しそうに何を話してるんだい?」
「「うわぁああ!!」」
突然のグレイの帰宅に、二人して絶叫した。
「「な、な、なん、なんでも、ない!!」」
二人でシンクロしたように首を振る。不埒な想像をした、という疚しさも勿論だが、グレイにシアの話は御法度という暗黙の了解のようなものがあるからだ。
「よく分からないけど、二人ともすっかり元気みたいで安心したよ」
グレイはさほど気にとめていない様子でにっこりと微笑んだ。かと思えば、パチンと指を鳴らして一瞬で部屋を片付けた。無造作に置かれていたはずの器具はきちんと仕舞われ、所々零れていた薬品も綺麗さっぱり拭き取られ、塵一つ落ちていない。一体どうやっているのかさっぱりだが、数日前にここへやって来た時よりもずっと綺麗な状態だ。さらに、
「あれ? オレ、なんかさっぱりしてる!?」
「えっ!?」
つい今し方まで埃まみれの汗まみれで小汚かったイールが、ピッカピカになっている。シャワーを浴びて髭を剃り、いつもは放置の髪も乾かしてちょっぴりよそ行き風の洋服に着替えまでばっちり完了しているではないか。
「すっげーな、グレイ!」
「お、お前、ホント何でもありだな!?」
イールは深く感心し、ミオンは愕然とする。
「俺に不可能はないからね」
(ホント嫌いだこいつ!!)
グレイのお決まりの台詞に、ミオンは地団太を踏んだ。
「ミオンもこれに着替えてね」
「なんだよ、この服?」
イールと同じように少しかしこまったデザインの服を渡される。
「ライズ卿が、もうまもなく馬車でお迎えに来て下さるそうだから」
せっかちだと苦笑する事で、グレイはミオンの質問に答えた。
(ライズ卿が来るからおれ達も行儀の良い格好にしとけって事か。っつっても、前に普段着で会ってんのになんでわざわざ・・?)
疑問に感じながらも素直に着替える。先ほどまで髪が濡れていたはずなのだが、またグレイが魔法を使ったのかきちんと乾いている。というか、いつもよりサラサラツヤツヤしている気がするのが地味に腹立たしい。
「ライズ卿が迎えに来るって、もしかして次の依頼か?」
腹の虫を鳴かせてグレイに貰ったパンを頬張りながらイールが尋ねる。グレイは頷き、依頼書を2人の前に示した。8つ目となる依頼内容は『令嬢の護衛』だ。
「れ、れいじょお!? お、お、お、おじょうさまを守るって事か!?」
「お前うるさい!」
「うぐふっ!」
またも女性と関わるのだと知ってパニックになるイールをミオンは拳で黙らせる。
「だから暫くライズ卿のお宅に滞在させていただく事になるんだけど・・・2人とも、元気さに任せて騒ぐのもほどほどにね」
グレイは小さな子供に言い聞かせるように釘を差した。
(バカにすんな!・・・って言いたいとこだけど・・・)
過去を振り返ってみれば、口を噤むしか無いミオンだった。
***
薄気味の悪い光をたたえた5つの魔法陣。それぞれにこれまた薄気味の悪い年寄りの姿が並んでいる。絶対的権力者:コマンドである。
「以上で丁度400個。ご依頼通り、魔法薬の納品を致します」
5人分の睨め付けるような視線をそよ風程度に受けながらグレイは言った。
イオンとミールの7つ目の依頼である、「魔法薬400個の精製」の納品と報告に来ているのだ。
『素晴らしい。思ったよりもずっと早かったな』
『流石は優秀な君が担当しているだけのことはある』
『全くだ。材料集めから精製まで、下手をしたら1ヶ月以上かかる仕事だと思っていたよ』
老人が皺まみれの顔を歪めて笑い、口々に賞賛する。
「お褒めに与り光栄です」
グレイは慇懃無礼に腰を折った。
(狸爺共が、白々しい)
おくびにも出さないが、内心では舌打ちをして悪態を付いている。
大量の魔法薬の精製・・・今回の依頼は、単なる時間稼ぎだとしか思えなかった。年寄り達の言うとおり、普通ならば数週間以上かかってもおかしくない仕事だ。学術院時代は魔法薬を研究していたのだというミオンの知識と、食事さえ与えていれば何日徹夜をしても平気なイールの屈強な体力があってこそ、短期間でこなすことができたが。正直なところ、依頼内容を知った当初はどうやってコマンドの監視をかいくぐって手助けをしようかと考えていたところだ。
(時間稼ぎをされるくらいには・・信頼されていないということか。敢えてシアと引き合わせたのもそう言うことだろう)
6つ目の依頼によって再会させられたシアの事を思い返す。サクファスの花が開花するまであと僅か・・・そんな彼とグレイを会わせることで、老人達は探りを入れてきたのだろう。
(今更、何をしようが無駄だ)
評定が終わるまで・・・グレイがコマンドになるまで、クリアしなければならない依頼は残り3つ。今更老人達が慌てたところで、それは代わりはしない。こちらには絶対に破られない誓約書であるジファーズの印もあるのだ。
「さて。早速ですが、次の依頼をいただけますか?」
顔を上げ、挑むような視線で問う。勿論笑みは絶やさずに。
『次はこれだ。受け取り賜え』
中央の老体が右手をかざすと、グレイの手元に依頼書が現れた。
『随分と君にご執心の紳士からのご依頼だ』
揶揄するように言われて依頼主の名前を見やると、なるほどよく知った右上がりのくせ字があった。
「ライズ卿・・ですか」
グレイの冒険譚を聞くことを三度の飯より好物にしている老紳士だ。
『御息女の護衛をご所望だそうだ』
『命を狙われている危険があるのだと。お可哀相に』
随分と大仰な言い回しだが、依頼書を見る限りでは確証はなさそうだ。"危険な目に遭いそうになった”という内容が箇条書きにされているが、階段から落ちそうになった、誰かに付けられている気がする等、申し訳ないがどれも自意識のレベルを超えていない。
「護衛の期間は・・・未定、と?」
要はライズ卿の御息女の不安が完全に払拭されるまでの間ずっとということだ。
(これもまた時間稼ぎか)
依頼書を持つ指に力が籠もった。グレイの苛立ちを汲んだのか、老人達は満足そうに微笑んでいる。
『ライズ卿が、ギルドに多額の寄付をしているのは知っているな?』
『君自身も彼には懇意にしてもらっているのだろう』
『当然、断る理由はないと思うが』
皺の隙間から覗く鋭い眼光がグレイに刺さる。
「えぇ、勿論です。謹んでお受けいたします」
グレイはまた笑顔を貼り付け、恭しく一礼した。
***
(あー・・・鼻がバカになってる)
自分の匂いを確かめながらミオンはため息を付いた。ようやく連日徹夜となった今回の依頼を終えて数日ぶりのシャワーを浴びることができたのだが、ずっと触れていた薬品の匂いが鼻に染み着いてしまったようで、匂いが取れたのか全く分からない。
しかしそれも致し方ない事だ。ミオン達がここ数日寝泊まりしているのはグレイがどこからか探して借りてきた古い研究所。400個の魔法薬を作り終えた後その場で寝落ちしてしてしまったため、つい先ほどまで作っていた魔法薬の残骸や使用した器具、材料の残りがあちらこちらに散らばっている。
(これを片付けしないと・・・いけないのか・・・)
分かっていてもうんざりだ。さらに、
(何よりデカくて邪魔なもんが落ちてる・・・)
一歩踏み出したところで柔らかいものを踏んづけた。ミオンと同じく寝落ちした・・・いや、椅子に座った状態で机に突っ伏して眠ったミオンと床に転がって鼾をかいているこの状態を一緒くたにしたくはないが・・・イールだ。
「お前いつまで寝てんだよ!」
脇腹のあたりを思い切り蹴りあげてやる。イールは「んがっ」と変な声を上げて飛び起きた。
「何すんだよ、ミオンの乱暴モン! いててて、なんか体中が痛い! あー、俺床で寝てたんじゃん!? そりゃあちこち痛ぇーよ! うわー!」
低血圧なミオンと違ってイールは起きた瞬間からテンションが高い。不快なほどに。
「うるさいし、汚いし、お前さっさと風呂行けよ! 臭いから!」
本当は鼻が利かないのでイールの臭い等分からないのだが、大げさに鼻を塞ぎながら言ってやる。
「くくくく、臭い!? 酷すぎだろ!!」
イールは泣きそうな顔で自分の体のあちこちを嗅ぎ、やはり鼻が利かないのかしきりに首を傾げた。
「・・・ここの風呂・・・ってかシャワー、狭いし暗いしなんかやなんだよなぁ・・・」
ミオンが投げ付けてやったタオルを受け取ってから、イールはぼやいた。
イールの言うとおり、研究所であるこの施設に宿泊設備など整っているはずもなく、風呂は一人が立って入るのがやっとの狭いシャワー室が一つついているだけなのだ。当然、数日間泊まるための各自の部屋などというものもなかったので、初めの日は寝袋で眠った。それ以降は連日徹夜になったので、なるほど眠る部屋など必要いのだと悟ったものだが。ちなみにグレイはといえば、研究所の隣にどこからともなく出現させたマイホームで悠々自適に寝泊まりしていた。いつもながら腹立たしい。
「贅沢言うなよ、無いよりマシだろ」
ふん、と鼻を鳴らして「早く行け」と顎でしゃくってみせる。けれどイールはなかなか動かない。
「あ~・・学術院の風呂が恋しいよぉ~・・」
前回の依頼で立ち寄った学術院に思いを馳せながら、散らかっている床をごろごろと転がり回る。その動きに合わせるように埃が舞った。
汚さにぞっとしてミオンは顔をしかめたが、イールのぼやきはまだ続く。
「学術院の風呂は広~いしさー、明る~いしさー、きれーだしさー、それに・・・・・・・・・」
急にイールの動きが止まった。そしてなぜか横を向き、徐々に体を丸めていった。
「おい、どうした?」
不審に思ったミオンがのぞき込むと、
「ぬぁんでもぬぁい・・」
イールは茹で蛸のように真っ赤になって、タオルで鼻を押さえていた。鼻血を出したらしい。ミオンはすぐにピンときた。
「お、お、お前!! どうせまた、シアさんのはだ・・裸、思い出してたんだろ!? 男同士だぞ、バカ!! 変態!!」
しどろもどろに怒鳴りなってイールを蹴る。だがミオンもまた、イールほどではないにせよ赤面している自覚はあった。
「ただいま。楽しそうに何を話してるんだい?」
「「うわぁああ!!」」
突然のグレイの帰宅に、二人して絶叫した。
「「な、な、なん、なんでも、ない!!」」
二人でシンクロしたように首を振る。不埒な想像をした、という疚しさも勿論だが、グレイにシアの話は御法度という暗黙の了解のようなものがあるからだ。
「よく分からないけど、二人ともすっかり元気みたいで安心したよ」
グレイはさほど気にとめていない様子でにっこりと微笑んだ。かと思えば、パチンと指を鳴らして一瞬で部屋を片付けた。無造作に置かれていたはずの器具はきちんと仕舞われ、所々零れていた薬品も綺麗さっぱり拭き取られ、塵一つ落ちていない。一体どうやっているのかさっぱりだが、数日前にここへやって来た時よりもずっと綺麗な状態だ。さらに、
「あれ? オレ、なんかさっぱりしてる!?」
「えっ!?」
つい今し方まで埃まみれの汗まみれで小汚かったイールが、ピッカピカになっている。シャワーを浴びて髭を剃り、いつもは放置の髪も乾かしてちょっぴりよそ行き風の洋服に着替えまでばっちり完了しているではないか。
「すっげーな、グレイ!」
「お、お前、ホント何でもありだな!?」
イールは深く感心し、ミオンは愕然とする。
「俺に不可能はないからね」
(ホント嫌いだこいつ!!)
グレイのお決まりの台詞に、ミオンは地団太を踏んだ。
「ミオンもこれに着替えてね」
「なんだよ、この服?」
イールと同じように少しかしこまったデザインの服を渡される。
「ライズ卿が、もうまもなく馬車でお迎えに来て下さるそうだから」
せっかちだと苦笑する事で、グレイはミオンの質問に答えた。
(ライズ卿が来るからおれ達も行儀の良い格好にしとけって事か。っつっても、前に普段着で会ってんのになんでわざわざ・・?)
疑問に感じながらも素直に着替える。先ほどまで髪が濡れていたはずなのだが、またグレイが魔法を使ったのかきちんと乾いている。というか、いつもよりサラサラツヤツヤしている気がするのが地味に腹立たしい。
「ライズ卿が迎えに来るって、もしかして次の依頼か?」
腹の虫を鳴かせてグレイに貰ったパンを頬張りながらイールが尋ねる。グレイは頷き、依頼書を2人の前に示した。8つ目となる依頼内容は『令嬢の護衛』だ。
「れ、れいじょお!? お、お、お、おじょうさまを守るって事か!?」
「お前うるさい!」
「うぐふっ!」
またも女性と関わるのだと知ってパニックになるイールをミオンは拳で黙らせる。
「だから暫くライズ卿のお宅に滞在させていただく事になるんだけど・・・2人とも、元気さに任せて騒ぐのもほどほどにね」
グレイは小さな子供に言い聞かせるように釘を差した。
(バカにすんな!・・・って言いたいとこだけど・・・)
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