RAISE

sakaki

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五話②

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Raise第5話②

***

いつの間に自分たちは中世にタイムスリップし、あまつさえ王侯貴族になったろうだろうか・・・周りを見渡す度にそんな疑問が湧いてくる。それがライズ卿の屋敷だった。
「何度伺っても見事なお屋敷ですね、ライズ卿。この絵画がまた一段と素晴らしい。もしや嘗ての宮廷画家:サークラメィディの作では?」
「おぉ、流石グレイ君。ご名答だよ。つい最近手に入れた自慢の品でね」
グレイが慣れた様子で賛美して、ライズ卿は満足そうに頷いている。
ミオンはその宮廷画家とやらの名前も知らなければ、絵画の素晴らしさもピンとこない。感想といえば美術の教科書に載っていそうな絵だな、というくらいだ。
隣を見ればイールも同じようにぽかんとしているし、更にいうなら動きがガサツで物をよく壊してしまうという自負があるからか、ミオンよりも緊張した面持ちでソロリソロリと歩いている。もしかしたら背を縮こめているのはシャンデリアにぶつかりそうで怖い所為なのか。なかなかの上背があるとはいえ、そこまで巨体な訳でもないし、イールよりも更に身長の高いグレイが普通に背筋を伸ばして過ごしているのだから要らぬ心配にもほどがある。まぁ迂闊すぎるイールだから、それくらい用心してくれた方がいいのだろうが。

「早速、皆に娘を紹介しよう」
ロココ調のテーブルセットで、それらと一体化しそうなデザインのティーセットで紅茶を振る舞った後、ライズ卿が思い立ったように言った。
"早速"というほどには一通りのお宅訪問を済ませてしまった後のような気がするが、勿論誰も突っ込まない。
「いよいよお嬢様と対面かー! うわー、どうしよう、ミオン!! すっげー緊張するー!!」
イールが小声で叫ぶ。ミオンはいつも通り肘で小突いた。が、
(こんなお屋敷に住むご令嬢だもんな・・・イールじゃないけどおれもちょっと緊張・・・)
内心ではイールと同意だ。
こんなお城のようなお屋敷で、多くの使用人に囲まれて蝶よ花よとお姫様のように育てられた深窓の令嬢。しかも命を狙われ怯えている。それはもう、触れてしまえば壊れてしまうような儚さで、清らかで、か弱く、透き通るような色白の美しい少女に違いない。
「娘のマリーゴールドだ」
「初めまして」
「「!?」」
今ここに、ミオンとイールの気持ちは一つになった。
((すっっっっっっっっっっっっっげーーーーーーーーーブスだーーーーーーーーー!!!!!!!))
何が令嬢か。いや、令嬢には違いないのだろうが。触れてしまえば壊れてしまうどころか、一触れすればドレスの上からでも分かるはちきれんばかりの豊満な肉襦袢の弾力で跳ね返されてしまいそうだし、脂性なのか髪はじっとりと湿っていて、肌は色白ではあるが吹き出物の酷すぎて手入れが行き届いていないとしか言いようがない。申し訳ないが、か弱さは微塵も感じられず、そこらの暴漢どころか魔獸だって素手で倒せそうな気がする。
「お初にお目にかかります。マリーゴールド様。夕焼け色のドレスが「乙女の美しい姿」の花言葉さながらでとても美しいですね。このドレス、もしや有名女優のマリアカディナが夕刻のソナタの舞台で着ていた物と同じでは?」
「そう、そうなの! 特注で作っていただいたの! アナタよく分かったわね!」
流石のグレイは顔色一つ変えることはなくつらつらと賛美の言葉を口にする。ご令嬢は大喜びだ。絵画もドレスも、よくもまぁ目聡く分かるものだと感心する。
「あれ見て「乙女の美しい姿」ってよく言えるよな。グレイってやっぱすげぇ」
「ばか、聞こえたらどうすんだ」
イールがとんでもない事を耳打ちしてきたので、ミオンはまた肘打ちした。だが、激しく同意だ。
(・・・いや、待てよ・・)
ふと気付いた。
よくよく思い返せば、グレイが誉めたのはドレスだけだし、「乙女の美しい姿」が花言葉なのはポットマリーゴールド・・・つまり食用の。実はグレイもあまり誉めてはいないのかもしれない・・・。



***

「ぶっちゃけ、どう思う?」
寝泊まりするために与えられた客室で2人きりになるなり、イールが言った。
「・・・・なにがだよ?」
イールの意図を本当は分かっているが、敢えてミオンは聞き返す。
「だから、あれが、ほら、本当に、誰かに、さぁ・・・」
ご令嬢様は本当に命を狙われているのか、という疑問だ。
「本人がそう言ってんだからそうなんじゃねーの・・・」
ぶっきらぼうに答えつつ、改めて依頼書を見返した。先ほどマリーゴールド本人から聞いた内容と照らし合わせながら。
「これ、解決するまでが依頼だろ? 解決ってのはさ、やっぱ犯人が捕まるってことで、もしその犯人が本当は最初から居なかったりしたら・・・」
イールがミオンの反応を伺いながらボソボソと尋ねる。そんなことはイールに言われるまでもなく分かっている。
1:道を歩いていると誰かに見られている気がする。・・・あれが町を歩いていたら、誰しもが思わず見てしまうだろう。
2:階段から落ちそうになった。すれ違い様に誰かにぶつかったようだから、きっと突き飛ばされたに違いない。・・・なにせあの横幅だ。階段で誰かとすれ違おうとしたらぶつかるだろう。
3:不審な手紙が何通も届く。内容は行き過ぎたラブレターのようなもの。・・・これは気のせいでは済まされない。ただ、宛先がないので彼女に当てたものかどうかが分からない。というか、一緒に出かけたメイドの籠やコートのフード等々に入っていたというから、おそらくそのメイド宛だろう。
「期間は未定・・・」
「解決するまで無期限って事だよな・・・? オレたち、じーちゃんになっちゃったりして・・・」
ミオンが呟き、イールが力なく笑う。
存在しない犯人からあの令嬢を守り続けて数十年・・・などという恐ろしい未来が過ぎり、2人して首を振った。
10個目中8個目の依頼まで来たというのに、ここでとんでもなく長丁場になってしまうのでは適わない。
「そんなに長くライズ卿のお世話になる訳にはいかないよねぇ」
「「うわっ」」
肩を落とす2人の間にどこからともなくグレイが現れた。
「悩む必要はないよ。犯人を捕まえるか、犯人が居ないのなら居ないとマリーゴールド様にご理解いただければいいだけだからね。要は彼女の安全が証明されればそれでいいんだ」
グレイはいつもながらの余裕顔で言う。ミオンはこの表情を見ると無条件に苛立ってしまう。
「そんな簡単に言うけど、具体的にはどうすんだよ? 犯人が居ないのを証明するなんて、犯人探しよりよっぽど難しいだろーよ」
ついつい喧嘩腰になって、おまけにふんっと鼻を鳴らす。イールは苦笑い、グレイは気にも留めてない。
「さぁいつでも襲って下さいっていう隙だらけの状況を幾つか作って、それで誰にも襲われなかったら大丈夫だって分かるんじゃないかな」
にっこり。輝かんばかりのイケメンスマイル。
「隙だらけの状況って・・・」
困惑するイール。
「あぁ勿論、それでまんまと本当に犯人が襲ってきてくれれば捕まえればいいだけだしね。とてもシンプルだ」
グレイはこれまた笑顔で言ってのける。なぜだろう。笑顔なのに有無を言わさぬ迫力がある。
「そりゃシンプル・・だけど、それってマリーゴールド様が危険なんじゃ・・」
恐る恐るミオンが意見する。
「まさか、ご令嬢を危険な目に遭わせるわけにはいかないよ。ねぇ、ミオン」
「え゛」
肩に手を置かれる。心なしか、待ってましたと言われた気がした。
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