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五話③
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「なんでまたおれなんだよ!!!たまにはイールがやればいいだろ!!!」
色とりどりのドレスを持ったメイドたちに追い立てられ、ミオンは部屋中を逃げ回っていた。イールは部屋の隅で見守っている。ミオンに怒られると思ってかメイドに協力はしないが、助けもしない。
「オレじゃデカすぎてドレスがミニスカになっちゃうし~」
「ミニスカでもやればいいだろ」
「無茶言うなよ~、ミオンと違って女に見えないんだから意味ないだろ~」
「おれだって女になんか見えない!!!」
イールの発言に憤慨してクッションを投げつける。本当は椅子を投げつけてやりたかったが、壊して弁償するのが怖いからクッションだ。
グレイの案は、ミオンが令嬢の振りをして囮になるというものだった。つまりはまた女装させられるのだ。
「きっとお似合いになりますわ」
「こちらのドレスも素敵ですわ」
「お化粧も映えそうですわ」
「是非に」
「是非に」
メイドたちはなぜか色めき立って追い回してくる。
「イールが無理ならグレイがやれよ! "不可能はない”とか偉そうに言ってんだから身長とか諸々どうにかして変装するくらい楽勝なんじゃねーのかよ!!」
メイドの迫力に泣きそうになりながら今度はグレイを槍玉にする。丁度タイミング良くグレイが部屋に入ってきたところだった。
「確かに変装くらいどうってことないけど、残念ながら"依頼に直接関わることはノータッチ"が評定員のルールだから。ごめんね」
まったくすまなそうな様子無く謝罪を口にする。言葉の合間でライズ卿の姿に変装してまた一瞬で元の姿に戻った。
(本当にできるのが腹立つ!!)
体格をものともしない変装も瞬時に可能。グレイの"何でもあり"っぷりに際限はないのか。ミオンは歯ぎしりした。
「とにかく嫌だ! おれは絶対に絶対にやらないっっ!!」
ロココ調の部屋には似つかわしくない一際大きな怒鳴り声を上げ、ミオンは窓から飛び降りた。下にバルコニーがあるのは確認済みだった。
「困ったねぇ。そんなに嫌なものかな」
グレイが少しも困っていなさそうな、寧ろ楽しんでいるような口調で言う。
「ミオンのコンプレックスだからなぁ・・・」
イールががっくりとうなだれて言う。こちらはほとほと困り果てたような表情だ。
「この下はマリーゴールド様の衣装部屋ですわ」
「まぁ丁度よろしいこと」
「飛んで火にいる・・・ですわ」
「まったくですわ」
「私たちも参りましょう」
メイド達が鼻息荒く部屋を飛び出す。
「ふむ、やっぱり女性は怖いなぁ」
グレイは苦笑混じりに呟いた。
一方ミオンは、
(なんだよ、この部屋は!!)
運良く・・基、不用心にも鍵が開けっ放しになっていた部屋に入るなり、目前に広がる色とりどりのフリルやレースに絶句していた。
どれも美しく一目で贅の尽くされていることが分かるドレスの数々だが、その全てが標準よりもいささか幅広に作られていることから、あのマリーゴールド嬢のものだと理解した。
(っつーか、整理整頓しろよ!)
根っからのA型気質のミオンには何よりもそれが気になる。せっかくのドレスなのに、ハンガーに掛けられることもなく床に放り出されているものやクローゼットからはみ出して扉に挟まれているものもある。あの無理な折り曲げ方をされているのはもしかしたらパニエではないか。そしてあの装飾の美しい靴が踏みつけている、まるでバスタオルのように見えるのはきっとコルセット。
(くそ、衣装道楽ならちゃんとしろよ。なんでメイドも何も言ってやらないんだ)
プリプリと怒りながら一着一着を丁寧に仕舞う。帽子は型くずれをしないようにきちんと専用の箱に、靴もきちんと並べて・・・並べるべきところにドレスがねじ込まれていたのでまずはそれをどかして、ハンガーに掛けて・・を繰り返す。
(こんなデカい鏡もあるのに隠れてたのかよ!? そんなだからあの見た目に気づけないんじゃないのか、あの令嬢は!! あーもう、こっちは油絵じゃないか。なんのために飾ってんだよ!? )
片づくにつれて姿を現す家具や絵画などの装飾品たち。
「あ・・・」
絵画の全容が見えたところで、ミオンは思わず手を留めた。
ご令嬢が夢中になっているという女優:マリアカディナの肖像画だった。全身鏡と並べて置いて、少しでも憧れの彼女に近づけるようにとでも願っていたのかもしれない。はからずも、ミオンも鏡に映った自分と肖像画を見比べることになってしまった。
「・・・っ・・」
思わず目を逸らす。と、逸らした視界にはグレイがいた。
「なんでいるんだよ!? いつからいたんだよ!? っつか、いい加減物音立てずに忍び寄るのやめろよ!! 」
動揺していたことを悟られたくなくて、敢えて大声を出してグレイに詰め寄る。いつもながら、グレイは眉一つ動かさない。しかも・・・
「マリアカディナは嫌いかい? こんなに綺麗なお母様なのに」
ミオンの心を見透かすように微笑んで、そっと頭を撫でた。
「なんで・・・知って・・?」
驚きのあまりグレイの手をふりほどくのも忘れた。
「評定員だからね。君たちのことはそれなりに調べてる」
事も無げに答える。当然といえば当然だった。それでも、ミオンにとっては隠しておきたい事実だった。
「生き写し・・とは言わないが、君はお母様によく似てる。こういった華やかなドレスを来てきちんとメイクをすれば、きっともっとそっくりになるんだろうね」
鏡越しにミオンを見つめながら、ミオンが最も言われたくない言葉を口にする。
「うるさいっ!! 」
ありったけの力を込めて、グレイの手を払いのけた。
「おれだって、好きでこんな見た目に生まれた訳じゃない!! お前みたいなやつには絶対分からないだろうけどな!!」
喉がかれるほどの大声で怒鳴ったら、勝手に涙まで出てきた。
ミオンが生まれる前から、母は有名な女優だった。ミオンが生まれてからもずっと、それは変わらない。彼女曰く、家事や子育ては普通の女がすることで、女優のするべき事ではないんだそうだ。母親にとってミオンは自分によく似た姿の着せかえ人形だ。ミオンがどんな遊びが好きかよりも、可愛らしいワンピースが似合うかどうかが彼女の重要事項で、普段は関わろうとしない学校行事は、入学式などの式典にだけ参加する。自分とミオンを精一杯着飾って、麗しい親子を演じるために。
ミオンがどんな成績を取っても、怒られることも誉められることもない。ただ、背が伸びすぎないこと、筋肉をつけすぎないことをきつく言われた。
『女の子ならこんな心配しなくていいのに。男の子に産んでしまったことだけが失敗だわ』
苦々しい顔をしてそう言う母の顔は、とても美しいとは思えなかった。母の言葉通りになったとは思いたくないが、ミオンは成長期になっても存分に背が伸びることも、どんなに鍛えても筋肉質な男らしい体つきになることもなかった。
「おれは、絶対一人前のハンターになるんだ! 女みたいだなんて言わせない、No1のハンターになってやる!」
乱暴に涙を拭って、グレイを睨みつける。現No1であるグレイへの宣戦布告でもあった。
「・・・ミオンは本当に不器用だね」
ふっとため息を漏らす。
「なんだとっ!?」
またバカにされたのかと、ミオンはグレイに掴みかかった。グレイは珍しく避けもせずにされるがままで、ミオンをまっすぐに見つめている。
「君がコンプレックスに感じているその外見は、俺に言わせれば最大の武器だよ」
「はぁ!? ざけんなよっ!!」
からかわれている事が確定。ミオンは殴りかかろうとするが・・・
「鬘を被ってメイクをして、それだけで女性そのものにしか見えない」
グレイは淡々と言いながら、ミオンの腕を掴んで後ろに捻り上げた。改めて鏡と向き合う格好にさせられる。
「てめぇ!!」
やはりからかわれている、そう思うが、少しでも動くと捕まれている腕が悲鳴を上げた。
「つまりは、女性に変装しての潜入捜査やハニートラップが、ミオンにはいとも簡単にできてしまうって事だ。ハンターとして、違う性別に変装できる事がどれほどプラスになると思う?」
「・・・それ・・は・・」
思いがけずグレイの眼差しが真剣で、ミオンは口ごもる。
「俺やイールには無い武器だ。コンプレックスだなんてつまらないことを言って活用しないのは愚かだと、賢い君なら分かるんじゃないか?」
いつも甘やかすだけのグレイとは違う、厳しい物言い。解放された腕をさすりながら、ミオンは俯くことしかできなかった。
「・・・お前だって、変装くらい朝飯前だったじゃないか・・」
悔し紛れに言う。ライズ卿に変装して見せた腕前があるくせに、自分にはない武器だと言われても腑に落ちない。
「あんなのは・・・一瞬だから誤魔化せる目くらましみたいなものだよ。自分の上背の半分くらいしかない老人に変装するのは流石に無理だ」
ため息とともにグレイが言った。彼がはっきりと『無理だ』というのは初めてで、ミオンは心底驚いていた。
「っんだよ・・いつも『俺に不可能はない』とかいうくせに・・・」
自分の中の迷いが徐々に晴れていくのが悔しくて、ミオンは唇を尖らせる。グレイは目を細めて笑った。
「大女優のお母様なんて、コネとしても申し分ない存在だ。利用できるものは何でも使う。それくらいの気概がないと、No1にはほど遠いかな」
「・・・うるさい」
悪戯めかした口調で滔々と語られて、ミオンはそっぽを向く。大女優の肖像画が視界に入っても、先ほどのような動揺は感じなかった。
「俺を超えるんだろう? せいぜい頑張らないとね、ミオン」
実に分かりやすい挑発だ。けれど・・・
「やればいいんだろ。せいぜいご令嬢になりきってやるよ」
ミオンはそれに乗ることにした。ふんと鼻を鳴らして、目の前にあった豪勢なドレスを力強く掴み上げた。
「なんでまたおれなんだよ!!!たまにはイールがやればいいだろ!!!」
色とりどりのドレスを持ったメイドたちに追い立てられ、ミオンは部屋中を逃げ回っていた。イールは部屋の隅で見守っている。ミオンに怒られると思ってかメイドに協力はしないが、助けもしない。
「オレじゃデカすぎてドレスがミニスカになっちゃうし~」
「ミニスカでもやればいいだろ」
「無茶言うなよ~、ミオンと違って女に見えないんだから意味ないだろ~」
「おれだって女になんか見えない!!!」
イールの発言に憤慨してクッションを投げつける。本当は椅子を投げつけてやりたかったが、壊して弁償するのが怖いからクッションだ。
グレイの案は、ミオンが令嬢の振りをして囮になるというものだった。つまりはまた女装させられるのだ。
「きっとお似合いになりますわ」
「こちらのドレスも素敵ですわ」
「お化粧も映えそうですわ」
「是非に」
「是非に」
メイドたちはなぜか色めき立って追い回してくる。
「イールが無理ならグレイがやれよ! "不可能はない”とか偉そうに言ってんだから身長とか諸々どうにかして変装するくらい楽勝なんじゃねーのかよ!!」
メイドの迫力に泣きそうになりながら今度はグレイを槍玉にする。丁度タイミング良くグレイが部屋に入ってきたところだった。
「確かに変装くらいどうってことないけど、残念ながら"依頼に直接関わることはノータッチ"が評定員のルールだから。ごめんね」
まったくすまなそうな様子無く謝罪を口にする。言葉の合間でライズ卿の姿に変装してまた一瞬で元の姿に戻った。
(本当にできるのが腹立つ!!)
体格をものともしない変装も瞬時に可能。グレイの"何でもあり"っぷりに際限はないのか。ミオンは歯ぎしりした。
「とにかく嫌だ! おれは絶対に絶対にやらないっっ!!」
ロココ調の部屋には似つかわしくない一際大きな怒鳴り声を上げ、ミオンは窓から飛び降りた。下にバルコニーがあるのは確認済みだった。
「困ったねぇ。そんなに嫌なものかな」
グレイが少しも困っていなさそうな、寧ろ楽しんでいるような口調で言う。
「ミオンのコンプレックスだからなぁ・・・」
イールががっくりとうなだれて言う。こちらはほとほと困り果てたような表情だ。
「この下はマリーゴールド様の衣装部屋ですわ」
「まぁ丁度よろしいこと」
「飛んで火にいる・・・ですわ」
「まったくですわ」
「私たちも参りましょう」
メイド達が鼻息荒く部屋を飛び出す。
「ふむ、やっぱり女性は怖いなぁ」
グレイは苦笑混じりに呟いた。
一方ミオンは、
(なんだよ、この部屋は!!)
運良く・・基、不用心にも鍵が開けっ放しになっていた部屋に入るなり、目前に広がる色とりどりのフリルやレースに絶句していた。
どれも美しく一目で贅の尽くされていることが分かるドレスの数々だが、その全てが標準よりもいささか幅広に作られていることから、あのマリーゴールド嬢のものだと理解した。
(っつーか、整理整頓しろよ!)
根っからのA型気質のミオンには何よりもそれが気になる。せっかくのドレスなのに、ハンガーに掛けられることもなく床に放り出されているものやクローゼットからはみ出して扉に挟まれているものもある。あの無理な折り曲げ方をされているのはもしかしたらパニエではないか。そしてあの装飾の美しい靴が踏みつけている、まるでバスタオルのように見えるのはきっとコルセット。
(くそ、衣装道楽ならちゃんとしろよ。なんでメイドも何も言ってやらないんだ)
プリプリと怒りながら一着一着を丁寧に仕舞う。帽子は型くずれをしないようにきちんと専用の箱に、靴もきちんと並べて・・・並べるべきところにドレスがねじ込まれていたのでまずはそれをどかして、ハンガーに掛けて・・を繰り返す。
(こんなデカい鏡もあるのに隠れてたのかよ!? そんなだからあの見た目に気づけないんじゃないのか、あの令嬢は!! あーもう、こっちは油絵じゃないか。なんのために飾ってんだよ!? )
片づくにつれて姿を現す家具や絵画などの装飾品たち。
「あ・・・」
絵画の全容が見えたところで、ミオンは思わず手を留めた。
ご令嬢が夢中になっているという女優:マリアカディナの肖像画だった。全身鏡と並べて置いて、少しでも憧れの彼女に近づけるようにとでも願っていたのかもしれない。はからずも、ミオンも鏡に映った自分と肖像画を見比べることになってしまった。
「・・・っ・・」
思わず目を逸らす。と、逸らした視界にはグレイがいた。
「なんでいるんだよ!? いつからいたんだよ!? っつか、いい加減物音立てずに忍び寄るのやめろよ!! 」
動揺していたことを悟られたくなくて、敢えて大声を出してグレイに詰め寄る。いつもながら、グレイは眉一つ動かさない。しかも・・・
「マリアカディナは嫌いかい? こんなに綺麗なお母様なのに」
ミオンの心を見透かすように微笑んで、そっと頭を撫でた。
「なんで・・・知って・・?」
驚きのあまりグレイの手をふりほどくのも忘れた。
「評定員だからね。君たちのことはそれなりに調べてる」
事も無げに答える。当然といえば当然だった。それでも、ミオンにとっては隠しておきたい事実だった。
「生き写し・・とは言わないが、君はお母様によく似てる。こういった華やかなドレスを来てきちんとメイクをすれば、きっともっとそっくりになるんだろうね」
鏡越しにミオンを見つめながら、ミオンが最も言われたくない言葉を口にする。
「うるさいっ!! 」
ありったけの力を込めて、グレイの手を払いのけた。
「おれだって、好きでこんな見た目に生まれた訳じゃない!! お前みたいなやつには絶対分からないだろうけどな!!」
喉がかれるほどの大声で怒鳴ったら、勝手に涙まで出てきた。
ミオンが生まれる前から、母は有名な女優だった。ミオンが生まれてからもずっと、それは変わらない。彼女曰く、家事や子育ては普通の女がすることで、女優のするべき事ではないんだそうだ。母親にとってミオンは自分によく似た姿の着せかえ人形だ。ミオンがどんな遊びが好きかよりも、可愛らしいワンピースが似合うかどうかが彼女の重要事項で、普段は関わろうとしない学校行事は、入学式などの式典にだけ参加する。自分とミオンを精一杯着飾って、麗しい親子を演じるために。
ミオンがどんな成績を取っても、怒られることも誉められることもない。ただ、背が伸びすぎないこと、筋肉をつけすぎないことをきつく言われた。
『女の子ならこんな心配しなくていいのに。男の子に産んでしまったことだけが失敗だわ』
苦々しい顔をしてそう言う母の顔は、とても美しいとは思えなかった。母の言葉通りになったとは思いたくないが、ミオンは成長期になっても存分に背が伸びることも、どんなに鍛えても筋肉質な男らしい体つきになることもなかった。
「おれは、絶対一人前のハンターになるんだ! 女みたいだなんて言わせない、No1のハンターになってやる!」
乱暴に涙を拭って、グレイを睨みつける。現No1であるグレイへの宣戦布告でもあった。
「・・・ミオンは本当に不器用だね」
ふっとため息を漏らす。
「なんだとっ!?」
またバカにされたのかと、ミオンはグレイに掴みかかった。グレイは珍しく避けもせずにされるがままで、ミオンをまっすぐに見つめている。
「君がコンプレックスに感じているその外見は、俺に言わせれば最大の武器だよ」
「はぁ!? ざけんなよっ!!」
からかわれている事が確定。ミオンは殴りかかろうとするが・・・
「鬘を被ってメイクをして、それだけで女性そのものにしか見えない」
グレイは淡々と言いながら、ミオンの腕を掴んで後ろに捻り上げた。改めて鏡と向き合う格好にさせられる。
「てめぇ!!」
やはりからかわれている、そう思うが、少しでも動くと捕まれている腕が悲鳴を上げた。
「つまりは、女性に変装しての潜入捜査やハニートラップが、ミオンにはいとも簡単にできてしまうって事だ。ハンターとして、違う性別に変装できる事がどれほどプラスになると思う?」
「・・・それ・・は・・」
思いがけずグレイの眼差しが真剣で、ミオンは口ごもる。
「俺やイールには無い武器だ。コンプレックスだなんてつまらないことを言って活用しないのは愚かだと、賢い君なら分かるんじゃないか?」
いつも甘やかすだけのグレイとは違う、厳しい物言い。解放された腕をさすりながら、ミオンは俯くことしかできなかった。
「・・・お前だって、変装くらい朝飯前だったじゃないか・・」
悔し紛れに言う。ライズ卿に変装して見せた腕前があるくせに、自分にはない武器だと言われても腑に落ちない。
「あんなのは・・・一瞬だから誤魔化せる目くらましみたいなものだよ。自分の上背の半分くらいしかない老人に変装するのは流石に無理だ」
ため息とともにグレイが言った。彼がはっきりと『無理だ』というのは初めてで、ミオンは心底驚いていた。
「っんだよ・・いつも『俺に不可能はない』とかいうくせに・・・」
自分の中の迷いが徐々に晴れていくのが悔しくて、ミオンは唇を尖らせる。グレイは目を細めて笑った。
「大女優のお母様なんて、コネとしても申し分ない存在だ。利用できるものは何でも使う。それくらいの気概がないと、No1にはほど遠いかな」
「・・・うるさい」
悪戯めかした口調で滔々と語られて、ミオンはそっぽを向く。大女優の肖像画が視界に入っても、先ほどのような動揺は感じなかった。
「俺を超えるんだろう? せいぜい頑張らないとね、ミオン」
実に分かりやすい挑発だ。けれど・・・
「やればいいんだろ。せいぜいご令嬢になりきってやるよ」
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