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肥えた豚
しおりを挟む流石に馬車は出してくれるのか。
初めて荷馬車ではない馬車に一人揺られ、フィオラは変な所に感心していた。
『それにしても、急でしたね』
馬車に揺られ暫くした頃、フィオラ一人であった車内にレイが姿を現した。
レイに何も伝えられず出発してしまった事を少し心配していたのだが、それは杞憂に終わった。 きっとどこからか見ていたのだろう。
「魔力無しは、人間扱いされないからね。人形だとでも思ってるんだろ」
『魔法を使える事を伝えたら良かったではないですか。そうすれば、こんな事はなかったのではないですか?』
「ううん。いいの」
『でも、虐待はなくなっていたかもしれないのに』
色々と諦めてしまっていたフィオラに代わり、レイはいつも憤ってくれていた。
それがどれだけフィオラを勇気付けたか。その度に、フィオラは救われていた。
「鞭で打たれたりとか、そういうのはなかったから、寧ろ放置してくれて感謝してるよ」
あの屋敷で一緒に生活していたら、体罰や精神的な苦痛が毎日の様にあったかもしれない。
負け惜しみでも何でもなく、辺境伯が無関心でいてくれた事には感謝しかなかった。
『無関心も虐待なんですけれどねぇ……』
それでも、レイは納得していないようだった。
「魔法が使えるようになった途端に手の平を返されても人間不信になるだけだよ。……それに、あの人たちの気持ちも分からなくはないんだ」
辺境伯であるロンデーと、義母は元婚約者同士だ。
そこに割って入った形になってしまったのが、フィオラの母親であるサラサ。
サラサはノートス辺境伯の有する魔法騎士団に所属していた優秀な魔法騎士だった。
その優秀さから幾つもの功績を上げていた事に目を付けた国王が、ロンデーとサラサの婚姻という王命を出した。
サラサは平民であったが、魔力を優先するこの国のこと。特にそこに問題はなかった。
王宮の魔法騎士団を凌ぐと言われるほどの力を持つノートス魔法騎士団。魔力を優先するとはいえ、やはり貴族の権力というものは存在する。
この王命には、優秀な血を残すという最もな理由は建前で、辺境伯の勢力を削ぎたいという国王の思惑が透けて見えていた。
透けて見えていたとしても、いかに辺境伯といえど、王命ともなれば断る事は出来なかったのだ。
「あの人たちも被害者なんだよ……」
『フィオラは聞き分けが良すぎますね』
いつか侍女が言っていた。
平民を娶る事になり、挙句、生まれて来た子供は魔力無し。
それでも手元に置いてあげている閣下は、なんと慈悲深いのでしょう。
魔力を持たないフィオラを殺す事なく、奴隷商人に売る事なく置いてくれていた事には、感謝しなければならないのだろう。
たとえそれが、無理矢理平民と結婚させられた事への周囲の同情を集める為のものだったとしても。
「でもね……お母さんだって被害者なんだよっ!!」
お母さんだって、辺境伯との結婚を望んでなんかいなかったはずだ!
義母とキオリの艶々とした髪と肌とを思い出す。
自分とは関わる事はないと思っていた。会う事もないだろうと思っていた。
しかし、会ってしまった。
広い屋敷で暮らし、身の回りのことは全て使用人がしてくれる。今日食べる食事の心配などしたことはないのだろう。
きっと、毎日豪華な食事をして、ふかふかのベッドで寝てるんだ!
病の所為で食欲もなく、肋骨が浮き出るほど肉が削げ落ちて今際の際には、年齢よりも老けて見えていた母親。
自分さえ、生まれなければ……。
そうすれば今も母親は、あの広い屋敷で幸せに生活出来ていたのだろうか。
そう考えずにはいられない。
フィオラはその考えを打ち消すように、ぶんぶんと頭を振った。
「あの、クソ豚どもめ!ぶくぶく太りやがって!!」
義母もキオリも、別に太っているわけではない。
しかし実際に会ってしまうと、その理不尽さに何かがふつふつと込み上げて来る。悪態の一つもついてやりたくなるというもの。完全な八つ当たりだった。
『フィオラ……言葉遣い』
こんな時でもレイは安定の口煩さだった。
「……うんち豚たち?まるまると肥えて?」
『………』
じっとりとした視線を向けるレイに、フィオラは発言が正解ではないことを悟る。
「これも違うの?じゃあ……おうん……」
『丁寧にするのは、そこではないんですよ!』
ガタゴトと揺れる馬車の中、フィオラの笑い声が響く。実はこのお約束のようなやり取りもフィオラは嫌いではなかった。
馬車の中には、とてもこれから売られて行くとは思えない雰囲気が流れていた。
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