奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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話題の中心

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 結局、荷物の様に小脇に抱えられていたフィオラがニコライから解放されたのは、王城のホールに着いてからだった。 

「あー、苦しかった」 

 抱っこされるのと、抱えられるのとではこうも違うものか。と、フィオラは地に足を着け、ニコライのマントからもそもそと顔を出した。 
 ちょうど扉の前にいた門番と、ぱちっと目が合う。 突然マントの中から人が出て来たことに驚いたのか、門番がぎょっとした様子でフィオラの顔を二度見していた。 

「あ、どーも」 

 フィオラが門番に向かってお愛想にへらっと笑うと、それを見たニコライがむすっとした顔でフィオラの肩を抱き寄せた。 
 門番は二度見した後もちらちらとフィオラを盗み見ていたが、ニコライが威嚇するように睨むと慌てて気を付けの姿勢をとった。 

「中に入りたいのだが?」 

 むすっとした表情のままニコライが名前を告げると、門番は怯えた様子を見せながらも扉を開いた。 

「ボレアス公爵ならびにフィオラ嬢のご入場です!!」 

 二人の名前がホールに響く。
 ホールには既に大勢の参加者が集まり騒然としていた。 二人の名前が呼び上げられると、一斉に視線が向けられたような気がしてくる。しかも、その瞬間ざわめきが静まったようにさえ感じた。

 うげっ、何か見られてる。
  
 しかし、そう感じたのは一瞬のことで、直ぐに騒然とした雰囲気に戻っていった。 

 気の所為か。 

 フィオラとしては、じろじろと見られることは好きではない。
 自分に関心を持たれていない雰囲気に安堵したフィオラは、逆にきょろきょろとホールを見渡した。きらきらとしたシャンデリアや装飾品に気分が高揚する。 

「ふわーっ、すげー。人がいっぱいだぁ」 

「ふはっ」 

 すっかりおのぼりさん状態のフィオラの頭の上で、ニコライが吹き出した。 

「な、何だよ、何がおかしいんだよ?」 

「いやいや。今、このホールの話題の中心にいるっていうのに、呑気だなぁと思っただけだよ」 

「……へ?」 

「まあ、その調子でいてくれ。周りの事は気にするな」 

 そう言ってニコライは苦笑した。 

 誰も私のことなんて気にしてないだろ。 

 しかしニコライに言われて、フィオラは耳をそばだてた。 

「……あれが彼女の娘?」 
「……確かに似ているかしら」 

 フィオラの方を見ている者はいないが、ひそひそと聞こえてくるのは確かにフィオラの事のようだ。
 注目されていると感じた事は気の所為だと思ったが違ったようだ。 

 そりゃ、そうか。

 フィオラは唇を噛み締めた。 高揚していた気持ちが一気に下がって行く。 

「……話じゃ、狂ってるらしいぞ?」 
「……会話もまともに出来ないとか」 
「……みてくれだけ繕ってもねぇ」 

 聴こうとすれば、次々と聴こえて来る言葉。恐らくフィオラに向けられているであろう言葉。 
 好意的ではない言葉は事実とは異なるが、皆フィオラが何者なのか知っているのだろう。 
 勝手なイメージで噂をしているのだろうが、それだけここに集う人たちにとって魔力が無いという事は、人としての価値が無いという事と等しいのだ。 

「周りの事は気にするなと言っただろう」 

「はっ、はふっ?」 

 ニコライが余計な事を言わなければ気にしなかったのに。と、文句の一つも言ってやりたかったが、不意に耳元で囁かれたのが妙に気恥ずかしくて金魚のように口をぱくぱくさせた。 
 言葉を失ったフィオラは、先程とは違う意味で顔を熱くさせて、こくこくと何度も頷く。 

「ほら、これ好きじゃなかったか?酸っぱいから俺はあんまり得意ではないのだが……」 

 気を取り直すようにニコライが給仕から受け取ったグラスには赤い液体が注がれていた。 

「あ、ベリージュース」 

 すんすんと香りを嗅いでからグラスに口を付ける。 思いの外喉が乾いていたらしい。ひとくちだけのつもりが、気が付けばこくこくと喉を鳴らしてグラスの中身を一気に飲み干していた。 

「ぷはっ、この酸っぱい感じが癖になるんだよねぇ……って、何で知ってんの?」 

 嗜好についてなんて何も言ったことはないのに、よく知っていたな。と、ニコライを見上げた。 

「悪いか……ミーシャから聞いた」 

 フィオラにじっと見つめられたニコライが何故か顔を赤くして、ぷいっと顔を逸らした。 
 食事の際、ベリージュースが出された事があった。それから確かにフィオラは、ミーシャにベリージュースをおねだりすることが何度かあったのだが。 

「えっ……気持ち悪っ」 

「はっ?きもっ……て、俺はただ報告を受けただけで……何で、そうなる?!」 

 余程不本意だったのか、ニコライの顔は真っ赤であった。 

「いや、しかし……気持ち、悪い……ものか??」 

 口に手を当てニコライが何やらぶつぶつと呟いていたが、フィオラの耳にそれらが届くことはなかった。






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