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静かなる野次馬
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ただでさえノートス辺境伯の娘でありながら魔力の無いフィオラは悪目立ちしていた。そこへ、後妻の娘であるキオリが突撃し何やら騒いでいる。
これは、何やら醜聞に繋がるかもしれないぞ?
いつの間にやらフィオラたちは、噂好きの貴族たちの格好の的となっていた。
「……私、フィオラだよ?」
周囲を気にしたフィオラはニコライの背中からちょこっと顔を出し、こそっとキオリにだけ聞こえる声で言った。
しかし、その態度が気に入らなかったのか、キオリはフィオラを睨み付け、ばんっと料理が並べられているテーブルを叩く。
「ニコライさまの後ろに隠れて、それで可愛いつもりかしら?!いい加減になさって!嘘はもういいと言っているでしょう!」
貴族の割に空気を読まないキオリの所業により野次馬が数人増えたに違いない。
多分話は通じないだろうとは思っていたが、やはり通じなかった。
取り敢えず、私は外に出た方が良さそうだ。
フィオラは小さく息を吐く。
これ以上ここにいても、騒ぎが大きくなるだけだ。キオリがニコライといたいと言うなら、そうすればいい。
「面倒事はごめんだ」と、フィオラは出口に向かおうとした。が、それをニコライに通せんぼされて止められた。
「どこに行く」
「なに……離してよ。私はいない方がいいだろ?」
「何を言っている?いや、ちょっと待て……少し面白くなりそうだ」
面白くって、何だ。と、見上げると、ニコライはその言葉とは裏腹に野次馬の方に厳しい視線を向けていた。見ると、野次馬の中に鬼の形相をした婦人がひとり。
「あれって、もしかして……」
「あ、お母さま!」
もしかしてと思ったが怖い顔をした婦人は、やはりキオリの母親でフィオラの義母であるカラザだった。キオリが仲間を得たとばかりに、にっこりと微笑む。
「急にいなくなったと思ったら、こんな所で何をしているの!」
一方、カラザの方は周囲が気になるようだ。硬い表情を崩すことなく小声でキオリを窘めると、早くこの場を去りたいのかキオリの腕を引く。
「お母さま!何って……さっき言ったでしょう?わたくしがボレアス公爵家にお嫁に行くわ!」
「ま、まあ……ほ、ほほ……な、何を言ってるのかしら……おかしなことを……」
頬を引き攣らせたカラザが慌ててキオリの口を塞ごうとするも、キオリはそれを振り払った。
「お母さまこそ何を言っているのよ!お母さまだって、さっきニコライさまを見て言ってたじゃない。ニコライさまは、お義姉さまではなくてわたくしに求婚したに違いないって!ニコライさまが間違えたんだって!」
「そうかもしれないけれど、ここで騒ぐものではないわ!……ほほっ……娘は少し疲れていて……」
キオリの耳元で怖い顔をした後、カラザは取り繕うように野次馬たちに向けて曖昧に微笑んだ。そしてニコライに近付くと、耳元で小声で囁く。
「分かっておりますわ。こちらの心配はいりませんのよ、間違いは誰にでもあるものですもの。婚姻相手の変更については後日ゆっくりと行いましょう。そちらも『求婚する相手を間違えた』なんて世間に知られては、体裁が悪いでしょうしね。わたくしもおかしいとは思っておりましたのよ、何故あのフィオラなんかに縁談が来たのかと」
ニコライの虫けらを見るような視線にも動じず、キオリとそっくりの顔でにっこりと微笑む。
親ならばもう少しまともかとも思っていたが、この親にしてこの娘あり。だった。 ニコライに言った後、カラザは今気付いたのかその背後にいたフィオラに、はっと息を呑む。と、直ぐに蔑んだ視線に変わった。
「あら、居たのね。小さ過ぎて見えなかったわ。それにしても……ますます忌々しい雰囲気がそっくりになったこと!」
カラザはキオリとは違い、フィオラがフィオラであることを分かっているようだ。
しかしカラザの吐き捨てた言葉が直感的に母親の悪口だと感じたフィオラは、咄嗟にカラザに飛び掛かろうとした。が、ニコライによって止められ、尚且つその片腕に抱き込まれた。
「ちょ、ちょっと、なにすん……だ、よ」
どうにもフィオラは、ニコライとの距離の近さには弱いようだ。勢い虚しく、大人しくニコライの腕の中に収まった。
ニコライはフィオラに微笑むと、一転厳しい視線をカラザに向けた。
「あなたとそこの娘がそっくりなように、フィオラもその実母にそっくりだということですか。遺伝子というやつは凄いですね。それはぜひ一度、フィオラの母親にもお会いしたかったです。このフィオラに似て、きっと美しい女性だったのでしょうね」
「なんですって……?」
「何故か俺が間違ってフィオラに求婚したと思い込んでいるようですが、俺が伴侶にしたいと思う女性はフィオラ唯一人だ。今までも、そしてこれからもね……美しいフィオラと、婚約までやっと漕ぎ着けられたんだ。そんな私は幸せ者だと言っているのですよ」
わざと聞かせるように野次馬たちに向けて言うと、ニコライはにっこりと満面の笑みを浮かべた。
公衆の面前ということもあってか、カラザはそれ以上は何も言えずに黙り込む。が、キオリは黙ってはいなかった。
これは、何やら醜聞に繋がるかもしれないぞ?
いつの間にやらフィオラたちは、噂好きの貴族たちの格好の的となっていた。
「……私、フィオラだよ?」
周囲を気にしたフィオラはニコライの背中からちょこっと顔を出し、こそっとキオリにだけ聞こえる声で言った。
しかし、その態度が気に入らなかったのか、キオリはフィオラを睨み付け、ばんっと料理が並べられているテーブルを叩く。
「ニコライさまの後ろに隠れて、それで可愛いつもりかしら?!いい加減になさって!嘘はもういいと言っているでしょう!」
貴族の割に空気を読まないキオリの所業により野次馬が数人増えたに違いない。
多分話は通じないだろうとは思っていたが、やはり通じなかった。
取り敢えず、私は外に出た方が良さそうだ。
フィオラは小さく息を吐く。
これ以上ここにいても、騒ぎが大きくなるだけだ。キオリがニコライといたいと言うなら、そうすればいい。
「面倒事はごめんだ」と、フィオラは出口に向かおうとした。が、それをニコライに通せんぼされて止められた。
「どこに行く」
「なに……離してよ。私はいない方がいいだろ?」
「何を言っている?いや、ちょっと待て……少し面白くなりそうだ」
面白くって、何だ。と、見上げると、ニコライはその言葉とは裏腹に野次馬の方に厳しい視線を向けていた。見ると、野次馬の中に鬼の形相をした婦人がひとり。
「あれって、もしかして……」
「あ、お母さま!」
もしかしてと思ったが怖い顔をした婦人は、やはりキオリの母親でフィオラの義母であるカラザだった。キオリが仲間を得たとばかりに、にっこりと微笑む。
「急にいなくなったと思ったら、こんな所で何をしているの!」
一方、カラザの方は周囲が気になるようだ。硬い表情を崩すことなく小声でキオリを窘めると、早くこの場を去りたいのかキオリの腕を引く。
「お母さま!何って……さっき言ったでしょう?わたくしがボレアス公爵家にお嫁に行くわ!」
「ま、まあ……ほ、ほほ……な、何を言ってるのかしら……おかしなことを……」
頬を引き攣らせたカラザが慌ててキオリの口を塞ごうとするも、キオリはそれを振り払った。
「お母さまこそ何を言っているのよ!お母さまだって、さっきニコライさまを見て言ってたじゃない。ニコライさまは、お義姉さまではなくてわたくしに求婚したに違いないって!ニコライさまが間違えたんだって!」
「そうかもしれないけれど、ここで騒ぐものではないわ!……ほほっ……娘は少し疲れていて……」
キオリの耳元で怖い顔をした後、カラザは取り繕うように野次馬たちに向けて曖昧に微笑んだ。そしてニコライに近付くと、耳元で小声で囁く。
「分かっておりますわ。こちらの心配はいりませんのよ、間違いは誰にでもあるものですもの。婚姻相手の変更については後日ゆっくりと行いましょう。そちらも『求婚する相手を間違えた』なんて世間に知られては、体裁が悪いでしょうしね。わたくしもおかしいとは思っておりましたのよ、何故あのフィオラなんかに縁談が来たのかと」
ニコライの虫けらを見るような視線にも動じず、キオリとそっくりの顔でにっこりと微笑む。
親ならばもう少しまともかとも思っていたが、この親にしてこの娘あり。だった。 ニコライに言った後、カラザは今気付いたのかその背後にいたフィオラに、はっと息を呑む。と、直ぐに蔑んだ視線に変わった。
「あら、居たのね。小さ過ぎて見えなかったわ。それにしても……ますます忌々しい雰囲気がそっくりになったこと!」
カラザはキオリとは違い、フィオラがフィオラであることを分かっているようだ。
しかしカラザの吐き捨てた言葉が直感的に母親の悪口だと感じたフィオラは、咄嗟にカラザに飛び掛かろうとした。が、ニコライによって止められ、尚且つその片腕に抱き込まれた。
「ちょ、ちょっと、なにすん……だ、よ」
どうにもフィオラは、ニコライとの距離の近さには弱いようだ。勢い虚しく、大人しくニコライの腕の中に収まった。
ニコライはフィオラに微笑むと、一転厳しい視線をカラザに向けた。
「あなたとそこの娘がそっくりなように、フィオラもその実母にそっくりだということですか。遺伝子というやつは凄いですね。それはぜひ一度、フィオラの母親にもお会いしたかったです。このフィオラに似て、きっと美しい女性だったのでしょうね」
「なんですって……?」
「何故か俺が間違ってフィオラに求婚したと思い込んでいるようですが、俺が伴侶にしたいと思う女性はフィオラ唯一人だ。今までも、そしてこれからもね……美しいフィオラと、婚約までやっと漕ぎ着けられたんだ。そんな私は幸せ者だと言っているのですよ」
わざと聞かせるように野次馬たちに向けて言うと、ニコライはにっこりと満面の笑みを浮かべた。
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