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赤くなるキオリ
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「ニコライさまも、お母さまも何の話をしているのよ!あの骨と皮だけの醜い化け物みたいなフィオラお義姉さまが美しいわけないじゃない!」
「ほう。化け物?」
「そうよ!ニコライさまもお義姉さまに会ったなら分かるでしょ?!」
「……キオリ?あなた、何を言っているの?」
フィオラは目の前にいる。 さも、ここにいない人間の話をしているようなキオリの発言に、流石に違和感を感じたのかカラザが眉を顰めて自分の娘を見た。
「確かに我が家に来た当初は酷い状態ではあったが……しかし、何故あの様な健康状態だったのだ?」
「キオリ、もういいわ。もう行きましょう。ね?」
カラザが宥めるが、キオリはニコライしか見ていなかった。 ニコライに見つめられて、その興味が自分に向いたと思い込んだキオリの口は、舞い上がって滑らかに語り出す。
「でしょ?!それはそうよ!だって、お義姉さまは奴隷同然なのよ?食事なんて一度だって与えた事はなかったわ!当然屋敷には住まわせてもいないし、お風呂も入ってないから汚くて臭いったらないの!!……早く死ねばいいのに、何で死なないのかしらと思っていたけど、聞いた話では庭に生やした雑草を食べてたみたいなの!信じられる?!気持ち悪いわよねー!!」
心底気持ち悪そうに顔を顰めてキオリが言う。 魔力無しは奴隷。奴隷は人間ではない。この国ではそれが普通。キオリにとっても、それが当然のことだった。
そうは言っても、だがしかし。雑草と言われたのは解せない。あれはれっきとした野菜なのに。と、フィオラは悔しさのあまり、思わずニコライのジャケットをむぎゅっと握った。
「ん?どうした?」
フィオラのその行動をどう受け取ったのかは知らないが、ニコライはフィオラを見下ろし優しく微笑んだ。そして、フィオラを片腕で抱き上げると、その頬に片手を添えた。
「やだっ!ちょ、ちょっと……そんな女を触らないで……」
「……また人を荷物みたいに!」
何故かフィオラより先に反応したキオリが赤面して軽く悲鳴を上げると、ニコライが更に挑発するような不敵な笑みを浮かべた。
「フィオラは我が家に来てから三食昼寝付きにしただけで、今ではこの通りだ。雑草を食べていた?結構なことじゃないか。遠征が長引けば俺だって雑草を食べて凌ぐこともある。俺にとっては些末な事だな」
ニコライは楽しそうに言うと、片手でフィオラの両頬を軽く摘みふにふにと弄んだ。人を馬鹿にしたような扱いに、フィオラの顔も赤くなる。
「だから、雑草じゃないんだって……」
そう言うも、両頬をむぎゅっと摘まれたフィオラの口からはもごもごと言葉にならない音しか出て来ない。
「でも、奴隷で……て、ぇ……えっ?フィオラって……そいつは偽者でしょ?う、うそ……だって……え?」
ここにきてやっとフィオラがフィオラ本人である可能性に思い至ったのか、キオリが眉を顰めたり目を丸くさせたりと百面相をしながらフィオラを見つめた。
「だから、そうだって言ったろ?」
そう言うも、未だ頬を押さえ込まれているフィオラの口からは、やはりもごもごと言葉にならない音しか出なかった。
「この程度で赤くなるのも、可愛らしい。いつも堪えるのが大変なんだ。いっそのこと、今食べてしまおうか……」
「な、何、言ってんだ?堪えるって、何を……おい!おまえ……」
何を血迷ったのか調子に乗ったニコライが、フィオラの顔に唇を近付けて来たではないか。今日のニコライは何かおかしい。まるで別人のようだ。
青くなってニコライから顔を遠ざけようとするフィオラとは対照的に、何故かキオリが真っ赤になって悲鳴を上げた。
狼狽えているフィオラを見て満足そうに微笑むと、「フィオラに逃げられ残念」とでもいうようにニコライは肩を竦めた。
「私は今すぐにでも結婚したいのだが、この通り。どうにもフィオラはシャイなようでね……そうだ、義妹である君からもフィオラを説得してくれないか」
「……なっ、なっ?!説得ですって?!その女は奴隷なのよ?!」
「フィオラが奴隷だった過去は、なかったはずだが?」
「……奴隷でなくとも、魔力が無いのよ?!わたくしよりも、奴隷同然の様な女が良いって言うの?」
そもそも最初からフィオラに求婚したというのに、キオリにしてもその母親にしても何故今になってこんな思い違いを爆発させているのか。
「魔力が全てのこの国だから仕方のないことなのだろうが……例えフィオラに断られたとしても、魔力だけしか魅力がない君を選ぶことはないな。だいたい、君とは今日が初対面じゃないか」
たった今、改めて自分が選んだのはフィオラなのだと説明したところだというのに。 ニコライは内心で溜め息を吐いた。
「なっ、なによ、なによっ!!……その女とだって会った事はなかったでしょ……!!」
どういう感情なのか、キオリは顔を真っ赤にさせたまま鼻の穴を膨らませ過呼吸のようになっている。 が、やはり悔しかったのか、叫んだ。
「やっぱり嘘よ!こんな短期間で、あんなのが……こんなのになるわけないじゃない!!」
びしっとフィオラの鼻先に人差し指を突き付けたキオリのその指を、ばしっとカラザが横から押さえ込んだ。
「ほう。化け物?」
「そうよ!ニコライさまもお義姉さまに会ったなら分かるでしょ?!」
「……キオリ?あなた、何を言っているの?」
フィオラは目の前にいる。 さも、ここにいない人間の話をしているようなキオリの発言に、流石に違和感を感じたのかカラザが眉を顰めて自分の娘を見た。
「確かに我が家に来た当初は酷い状態ではあったが……しかし、何故あの様な健康状態だったのだ?」
「キオリ、もういいわ。もう行きましょう。ね?」
カラザが宥めるが、キオリはニコライしか見ていなかった。 ニコライに見つめられて、その興味が自分に向いたと思い込んだキオリの口は、舞い上がって滑らかに語り出す。
「でしょ?!それはそうよ!だって、お義姉さまは奴隷同然なのよ?食事なんて一度だって与えた事はなかったわ!当然屋敷には住まわせてもいないし、お風呂も入ってないから汚くて臭いったらないの!!……早く死ねばいいのに、何で死なないのかしらと思っていたけど、聞いた話では庭に生やした雑草を食べてたみたいなの!信じられる?!気持ち悪いわよねー!!」
心底気持ち悪そうに顔を顰めてキオリが言う。 魔力無しは奴隷。奴隷は人間ではない。この国ではそれが普通。キオリにとっても、それが当然のことだった。
そうは言っても、だがしかし。雑草と言われたのは解せない。あれはれっきとした野菜なのに。と、フィオラは悔しさのあまり、思わずニコライのジャケットをむぎゅっと握った。
「ん?どうした?」
フィオラのその行動をどう受け取ったのかは知らないが、ニコライはフィオラを見下ろし優しく微笑んだ。そして、フィオラを片腕で抱き上げると、その頬に片手を添えた。
「やだっ!ちょ、ちょっと……そんな女を触らないで……」
「……また人を荷物みたいに!」
何故かフィオラより先に反応したキオリが赤面して軽く悲鳴を上げると、ニコライが更に挑発するような不敵な笑みを浮かべた。
「フィオラは我が家に来てから三食昼寝付きにしただけで、今ではこの通りだ。雑草を食べていた?結構なことじゃないか。遠征が長引けば俺だって雑草を食べて凌ぐこともある。俺にとっては些末な事だな」
ニコライは楽しそうに言うと、片手でフィオラの両頬を軽く摘みふにふにと弄んだ。人を馬鹿にしたような扱いに、フィオラの顔も赤くなる。
「だから、雑草じゃないんだって……」
そう言うも、両頬をむぎゅっと摘まれたフィオラの口からはもごもごと言葉にならない音しか出て来ない。
「でも、奴隷で……て、ぇ……えっ?フィオラって……そいつは偽者でしょ?う、うそ……だって……え?」
ここにきてやっとフィオラがフィオラ本人である可能性に思い至ったのか、キオリが眉を顰めたり目を丸くさせたりと百面相をしながらフィオラを見つめた。
「だから、そうだって言ったろ?」
そう言うも、未だ頬を押さえ込まれているフィオラの口からは、やはりもごもごと言葉にならない音しか出なかった。
「この程度で赤くなるのも、可愛らしい。いつも堪えるのが大変なんだ。いっそのこと、今食べてしまおうか……」
「な、何、言ってんだ?堪えるって、何を……おい!おまえ……」
何を血迷ったのか調子に乗ったニコライが、フィオラの顔に唇を近付けて来たではないか。今日のニコライは何かおかしい。まるで別人のようだ。
青くなってニコライから顔を遠ざけようとするフィオラとは対照的に、何故かキオリが真っ赤になって悲鳴を上げた。
狼狽えているフィオラを見て満足そうに微笑むと、「フィオラに逃げられ残念」とでもいうようにニコライは肩を竦めた。
「私は今すぐにでも結婚したいのだが、この通り。どうにもフィオラはシャイなようでね……そうだ、義妹である君からもフィオラを説得してくれないか」
「……なっ、なっ?!説得ですって?!その女は奴隷なのよ?!」
「フィオラが奴隷だった過去は、なかったはずだが?」
「……奴隷でなくとも、魔力が無いのよ?!わたくしよりも、奴隷同然の様な女が良いって言うの?」
そもそも最初からフィオラに求婚したというのに、キオリにしてもその母親にしても何故今になってこんな思い違いを爆発させているのか。
「魔力が全てのこの国だから仕方のないことなのだろうが……例えフィオラに断られたとしても、魔力だけしか魅力がない君を選ぶことはないな。だいたい、君とは今日が初対面じゃないか」
たった今、改めて自分が選んだのはフィオラなのだと説明したところだというのに。 ニコライは内心で溜め息を吐いた。
「なっ、なによ、なによっ!!……その女とだって会った事はなかったでしょ……!!」
どういう感情なのか、キオリは顔を真っ赤にさせたまま鼻の穴を膨らませ過呼吸のようになっている。 が、やはり悔しかったのか、叫んだ。
「やっぱり嘘よ!こんな短期間で、あんなのが……こんなのになるわけないじゃない!!」
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