喜楽

紋目

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喜楽 0 双子の再会

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 フェルが戻ってくる様子もないまま、静かに侵入してくる男の影。蒼牙に近づくと柱に縛 つてあるロープだけを切り、蒼牙を抱え上げると 建物の裏にある崖の近くまで運ぶ。
 外にはもう一つ人の影が立っていた。
「あんたが失敗するとはねえ。残念ながら、助けに来たんじゃないのよ」
 もう一人が、抱えられた蒼牙に小さな声で話し掛ける。どうやら女のようだ。 
「ボスがあんたの事必要無いんだって、私達もあんたと仕事しなくてすむと思うと、せいせいするよ。あの部屋で殺しても良かったんだけどね。あ んたの血で汚れるの嫌だし、ここから落ちてよ」
 女が合図すると蒼牙を抱えていた男は崖の方へ近付く。
 蒼牙が男の手から放れ、谷底に投げ込まれた時、白い影が縛られている縄を掴んだ。少なくとも、二人の内のどちらかでは無さそうだ。
 どこからか 、呪文を詠唱する声が聞こえ回りが明るくなる。二人の、姿がはっきりと映し出され る。中肉中背の男と、スタイルのいい女。二人とも、人間らしい。
 蒼牙は、自分を掴んでいる人物を見上げる。蒼牙の標的だった白い毛並みの虎顔の青年が怪我をしている右手で縄を掴んでいた。その右肩から血がにじんでいる。
「矢っ張り怪我している方で、掴む物じゃないですね。傷口が開いてしまいました」
 蒼牙は、そのまま引き上げられる。
 建物の方を見ると、フェルと龍鬼が立っていた。
「あんた達さあ、あれで気付かれずに今まで仕事してたの? 見え見えだよ。まぁ、あんた達には聞きたい事があったからね」
 フェルはおどけた仕草で肩を竦めると鼻で笑う。物音と光で、昴が慌てて 出て来た。特に驚く様子もなく、平然とした顔で二人の侵入者を見る。
「やっと来たのかよ。噂流すの手間だったぜ」
 この三日間昂は風牙が殺され掛けて、捕まえた殺し屋から色々聞けそうだ。と噂を流したのだ。
 フェルは人をバカにしたような甲高い声で笑う。
「こんなわかり易い罠に嵌まってくれてありがとね。さて、ボスの事とか教えて貰わないと……」 
 人間の男は、建物を挟むように茂る木々の中へ、逃げ込むつもりらしく走り出した。いつの間に動 いたのかフェルは、逃げる男の前に立っていた。
「ここから逃げれるなんて、思わないでよ」
 男がその言葉を、最後まで聞けたのかは判らない。男の首は無理な体勢で、自分の背中を見ていた。フェルが一瞬のうちに、男の首の骨を砕いたらしい。支えの無くなった首は、背中にだらりと 伸びる。仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
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