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しおりを挟むその後、ミチマルはタバコと一緒に瓶豆乳を必ず飲んでから帰る出席印を押し始めた。
「じゃーん」
「何だ?」
[完出プレゼント。]
「完出?」
「うん。一ヶ月完全出席」
“?”
ミチマルが何を言っているのか分からない顔で首をかしげると、ナカオがお腹をつかんで笑いながら話した。
「あははは。聞き取れないと思った。 アニキ、今1ヶ月も欠かさずうちの店に来たんですよ。」
ナカオの説明にミチマルは一瞬照れくさかった。
そんなに来ているとは思わなかったが…。
”アニキ、よく来てたけど、こんなにちゃんと来たのは別の理由があるんだよね?”
自分も知らない理由があるという言葉にミチマルがびっくりしてナカオを眺めていると、ナカオは面白い事実を知ったようにさらに雰囲気を盛り上げた。
”やっぱり~~やっぱり~~のために~”
ーやっぱり、やっぱり。だから?
ミチマルは心の中で思わずナカオの言葉を真似していた。
なぜなのか、自分も気になった。
「私のせいで!!”
ミチマルの瞳が大きくなった。
ドキッとしたのがドンドンと心臓が舞い落ちる音が聞こえるようだった。
[~と言いたいのですが、この、この瓶豆乳のせいでしょう? 他のところは売ってないのよ~私が店長に積極的に推薦して注文を入れてほしいと言ったの。 これ知ってる人あまりいないよ~。」
明るい声で再び豆乳の礼賛論者になったナカオを見て、ミチマルは安堵のため息をついた。
この子がゲイである自分の好みなことは否定しないが, ちょうどそこまでなので, この子にでたらめなことをしようとするつもりなんか決してなかった。
世の中には色々な仲があり、ミチマルにはこの子と過ごす午前3時の十分余りの時間が良かっただけだった。
自分がゲイであることを知った瞬間、この時間と、この間がずれるのではないかと思って….
それにもかかわらず、特に隠す方ではなかったので、この機会に笑って話してみようかと思ったが、人はどんなタイトルを持つかによって背を向けることもあるので、あんなに毎日迎えてくれた目つきに警戒心が生じるのではないかと心配して。
傷つく余裕も薄れて無くなったと思ったが、なぜか傷つく自分が怖くなった。
「はぁ…そうだね。これおいしい。」
「それで私が用意したの!」
ナカオが豆乳1箱をさっと持ち上げた.
「それで~ 完出プレゼント!!」
「お前…時給いくらだ」
「えい、またからかうわけ? 時給人生だと?」
「いくらかぃタバコと一緒に計算して」
「アニキ。受け取って~」
「じゃあ、俺がこれをもらったら、あなたもおれが紹介する仕事をする?」
ナカオは夜はコンビニの夜間アルバイトに、午後はパーキングドライバーとして昼夜を問わず働いていた。
あの若干の歳で簡単なことではないんだから、当然事情が深いと思ったミチマルは
勝手に自分の店のカウンターで働かせて給料をたっぷりあげるもりだったのに、こいつは一気に断った。
「あ~アニキに、私は可哀想に見えるんだよなぁ」
ナカオの顔は笑っていたが、目つきだけは傷ついたと言っており、ミチマルはしまった、と感じた。
大人が子供の面倒を見てくれるのが…可哀想に見えてそんなのがまあ…それがどうしたのかぃ
確かにナカオにはそんな言葉は似合わなかった。
辛くて可哀想だというのはミチマルの基準であって、ナカオが苦しんでいるのを一度も見たことがなかった。
口がうるさくて、おせっかいな人だが、その中にナカオ自身に関した話は抜けているということを、ある瞬間気付いた。
昼間にパーキングドライバーとして働くのもミチマルがデパートに用事があって行ったらわかったということだ。
手信号をする姿に見慣れて窓を開けてみたらナカオだった。
それでその日夜明けコンビニへ行って「駐車場でお前を見た」と言うと、ナカオは恥ずかしがらず慌てることもなくただ笑うだけだった。
それでやったことのないおせっかいをしてみたが、一気に断られたのだ。
「あ~アニキに、私は可哀想に見えるんだよなぁ」
という言葉がミチマルにかえって傷となった。
絶対にそういうつもりで言ったんじゃないけど 本当にあなたのために考えて言ったんだと言いたかったけど
実はその言葉通りだったので、
人に済まないという感情を感じたことはあまりないが、その瞬間はとても申し訳なくてネズミの穴があったら入りたいほどだった。
よく耐えている子供の土手にひびが入れたかもしれないと思うと、申し訳なく限りなくすまなかった。
しかし、また時間が経って考えてみると、大変な道ではなく楽な道を教えてあげるというのに、あえて断る必要があるのかと思った。
一生の職場でもないし、ある程度お金を貯めたら飲み屋ではなくナカオに似合う店を一つ作らせてあげればいいんじゃないかな…
そのような考えをしたこともあったが考えは考えで残し、今はいたずらで釣りをしたりもしている。
まさにこういう時。
ナカオがミチマルに食べ物を用意したり、ささやかな分かち合いをする時。
ミチマルは「お前のくせにお金をむやみに使うのか」と受け取った分ほど、計算は徹底的にし、
そのたびに、他にお金をたくさん儲ける働き口を紹介してあげるとも言った。
もちろん最後はいつもナカオがお金を受け取ることで終わる。
ところが、今日は退く気配がなかった。
「アニキ、本当に今日受けとってくれないと、私はめちゃ寂しいんだ。 私たちこれくらいのやりとりはできるじゃない?
「べつに」
ミチマルが大まかに財布から1千円札を数枚取り出そうとしたが、ナカオの寂しい声が聞こえてきた。
「ありがたいから」
「….」
その目つきはあまりにも真剣で、ミチマルの手を止めせた。そしてしばらくナカオを眺めさせた。
「私、高校も辞めたから学校の友達もいないよ。 学校を辞めて一人で働くことばかりしているから、親しい人が一人もいないのに、アニキと親しくなってとても嬉しかったよ」
そして、一息休んで呼吸を整えて話す。
「昨日給料日だったけど、今朝最後の借金を全部返したんだ。」
「すごく幸せな日なのに、話す人がいないわけ、お祝いはしたいけど、私には話す人がアニキしかいないんだ。 今まで本当にありがたくて… いくらなんでも私のお金を払ってこれ一つ買わせないのか」
ナカオの低いゆるしの秘跡のような言葉がミチマルの胸に響いた。
もちろん、表には出さなかった。
「えっと…」
ミチマルの手が豆乳箱に行くかまいか迷う。
「おい、そんなにありがたかったら他のものを奢って。 お酒とか。 日を決めて、お祝いしないと。 これは俺が払う.」
いくらか分からない金を投げておいて、ミチマルは豆乳箱を持ってコンビニを出て行った。
今日はどうもナカオを見ていられないようだった。
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