まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

文字の大きさ
77 / 188
Ⅵ 決断は遅きに失し

75. 音の正体は

しおりを挟む
 

  ガシャン


 まただ。また、同じ夢を見ている。


 視界は真っ暗で、聞こえるのは音だけ。けれどこれがもう何度も見ている夢だとわかる。
 ただ、どうしてか、いつもこの聞き覚えのある金属音がなんであったか思い出せない。

 ――怖い、怖い、怖い、寂しい。

 この音は、ただひたすらに不安を呼び起こす。


  ガシャン

  コツコツコツ


 ああ、そうだ。この前もこの音……足音みたいな音がしていたっけ。
 段々と、音が聞こえる時間が増えている気がする。長くなればなるほど情報量は増えて音の正体に近づくが、それを知りたいかと聞かれると頷けはしない。
 気になりはするけれど、できることなら知りたくないという思いが強かった。


 待って。足音?


 はっとして、私は飛び起きた。
 冷たい汗にまみれているのはいつものこと。激しく脈打つ心臓はいつもよりずっと速い。


 私の脳裏には、とある単語が浮かんでいた。
 金属音と硬い響きのある足音。この二つから導き出される音の正体は――。










「おはようございます、ミュリエル様。起床のお時間にございます」

 声がして、軽い足音が近づいてくる。

「あら、ミュリエル様。もうお目覚めになられていたので――ミュリエル様? ミュリエル様!!」

 寝室の入り口からベッドまでの距離を一気に詰めて、シンディーが焦った顔でミュリエルを覗き込む。視線がばっちりと合って、私は目を瞬かせた。

「シンディー? あれ? どうしたの?」
「それはこちらのセリフです! ミュリエル様、いかがされました? お顔が真っ青ですよ。ああ、体もこんなに震わせて……本当に、一体どうなさったというのです?」
「え……?」

 そしてようやく今が朝で、自分が体を起こした状態で固まっていたことに気づく。シンディーが指摘したように、体は小刻みに震え、冷え切っていた。

「あ、れ……?」
「すぐに侍医をお呼びします。本日は学院はお休みいたしましょう」
「ま、待って。……大丈夫よ、シンディー。すぐに落ち着くわ。そ、それより――いつものモーニングティーをいただけるかしら」

 私がそう言うと、シンディーは微妙な顔をした。本意ではないが言ったところで聞かないだろうと悟った顔、とでも言おうか。
 への字に曲げられた口元から、小さく息が吐かれる。

「かしこまりました。ミュリエル様がそうおっしゃるなら。ですが、無理はなさらないでくださいね。絶対ですよ」
「わかってるわ。シンディーは心配し過ぎよ」
「心配し過ぎなものですか。最近のミュリエル様は知らぬ間に無理をなさってるから、信用できないんです」

 シンディーは手早く紅茶の支度を始める。私はそのよく働く手をぼんやりと眺め――。

「我慢も、無理も、ミュリエル様らしくありませんよ」
「っ」

 続けられた言葉に思わず息をのむ。けれどシンディー自身はは特に深い意味を込めたつもりはないらしく、変わらぬ様子で手を動かしていた。

「お待たせいたしました。どうぞ」
「……ありがとう。いただくわ」

 私は震える手を必死に抑えながらカップを手に取る。
 口をつけるが味はわからない。ただやや熱めの紅茶が喉を流れ落ちる。その熱が冷え切った体によく染み渡った。体の震えは収まり、だんだんと血が巡り出す。

 その間に、シンディーやメイドたちが着替えの準備を始めた。私は私で、この間に取り繕えるだけの気力は回復しなければと、再びカップに口をつける。

 脳裏では今日気づいてしまった新事実が変わらず暴れ回っている。わけのわからない恐れや未来への不安が、私の心を重くする。
 それでも、シンディーが入れてくれた紅茶のおかげか、多少の冷静さは取り戻すことができた。




 何度も夢うつつに耳にしてきた金属音。
 ずっと、それがなんの音か思い出せずにいたけれど、今日、私はようやく思い出した。


 これは私が生で聞いたことのある音ではない。テレビを通して、海外ドラマや刑事ドラマを通して、よく耳にしていた音。

 これは――牢屋の鉄格子が閉まる音だ。

 
 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...