姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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集会という名の公開処刑1

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 場所は大通りの交差点。時刻は午前十時という絶妙な時間なだけあって交差点は車で溢れていた。

 信号は青。それが表す意味は『進んでもよい』であり、それは外国人は知らないが、日本人なら誰でも知っていることだ。しかし、信号の前に立ったままその場から動こうとしない一つの影があった。信号待ちをしている車の中からそいつに不審な目が向けられる。

 やがて色は青から黄へ、そして赤に変わった。その意は『とまれ』。そんなことは日本人である影の持ち主にも分かっていた。だが、そいつは道路を横断しようと歩き出す。当然、信号が変わったため進みだそうとしていた車はあるのにも関わらずだ。

 進行しようとしていた車がそいつの存在に気付き、急ブレーキをかける。いくつも重なったクラクションを轟く。
 たちまち交差点にクラクションの轟音が響き渡る。通行者達は何事かと足を止め、どこからか野次馬が湧いた。もはやちょっとした事件だ。それを傍目に、張本人であるそいつは嬉しそうな笑みを浮かべ、颯爽とその場から立ち去った。


『━━━と、言う報告が我が校に来たわけですが、心当たりある人は壇上に上がりなさい』
 マイク越しに生徒指導部の先生の声が体育館中に響いた。

(そんな遠回しに言わなくても犯人が誰だか分かってるくせに)
 楽斗は溜め息を吐きながら、犯人である宗吾の方向に視線を向けた。
 我関せずと言った感じで、ふぁ~あ、と大きな欠伸をしている姿が目に入る。
 ━━━と、そこで気づく。今回が初めての集会である一年には犯人が誰なのか分からないみたいだが、二年、三年は去年十回以上同じ罪名で呼び出しを食らっていた宗吾を覚えていたそうで、その大半が宗吾に視線を向けていることに。

「ホント、大した奴だな」

 大勢の視線に晒されているのにも関わらず平常心を保っている宗吾に呆れを通り越し関心する楽斗だった。

「あぁ。その通りだな」
「うおっ!?」
 独り言のつもりだったのに、拾われ返ってきた言葉に楽斗は驚きの声をあげた。

「ん?どうしたんだ?そんなに驚くことないだろ?」
「フツーに驚くって......。にしても大分来るの遅かったな大毅。もう始まってるぞ?」
「それが、少し仮眠を取るつもりだったんだが、すっかり眠ってしまってな。気づいたら三十分経ってたんだ。やはり、指導室は色々と日常生活に影響が出るらしい」
「仮眠って日常生活なの?したこと無いんだけど」
「日常生活に決まってるだろ。いつ敵に狙われるか分からんのだからな」
「敵って何だよ......。つーか、列に戻らなくていいのか?怒られるぞ?」
「無間地獄を体験したオレが今更その程度の脅しで引くとでも?」
「思わないな。とてもそう思えない」
「だろ?じゃあさっきの話に戻るが、オレの敵って言ったらあいつしかいないだろ?」

 大毅の視線の先に目を向けると、そこには先生達に壇上へ強制連行されている宗吾の姿があった。

「何やってんだあいつ」
「全くだ。規則をきちんと守らないからああなるんだ」
「おっ、今回は壇上に呼ばれない自信があるのか?」
「勿論だ。あの馬鹿と同類とかあり得ないからな」
 大毅は自信満々に笑みを浮かべながら頷いた。

『次。先日、町の並木が五本根本からから折られると言った事件が起きました。多数寄せられた目撃情報によると、この学校の制服を着用した男が修行と称じて町の並木を五本蹴り倒したとか。心当たりのある人は今すぐ壇上に上がりなさい』

「ねぇ、大毅。これって?」
 勢いよく隣を見ると、大毅はガタガタと身体を震わせていた。

「な、なにを焦っている。お、オレの訳がな、無いだろ?」
「そんな汗ダラダラ流しながら言われても説得力無いって」
「くっ......オレは逃げるぞ!」
「「「逃がすか」」」

 立ち去ろうとした大毅の周りに三人の教員が立ちはだかる。

「うわぁぁあ!!やめろやめてくれ!!あの馬鹿とオレを同類にしないでくれえぇ!!」

 別に壇上に呼ばれたからと言って指導室送りになることはないと言うのに、そこまで宗吾と同類になりたくなかったのか、クールな宗吾からは想像出来ないぐらいの悲鳴が上がった。
 が、抵抗するも虚しく取り押さえられた大毅は抵抗できないようにガムテープでぐるぐると簀巻きにされた後壇上にズルズルと引きずられていった。

 その光景に、一年生の間からヒソヒソと声が漏れる。体罰だとか殴ってないから体罰ではないだとか、今は一体何の時間なのだとか。
 流石に二年三年は見慣れたもので、初めは今の一年と同じ反応をしていたのだが、回数を重ねるにつれて徐々に薄くなり、今となっては、またやってるよとか、今日の大毅くんちょっと変じゃないとか、さて今回は後何人上がるかなと言った冷静な感想を漏らしている人が多くなっていた。

 そのため一年生の反応は極めて新鮮でどこか懐かしさを感じさせてくれるものだった。
『では、次。これもまた先日、この学校の制服を着用した女生徒が電線の上を歩いているとの報告があった。心当たりのある生徒は━━━えぇい。めんどくさい。彗星!さっさと上がってこい!』

 どうやら回りくどいのは止めたそうで、直接名前を指名する先生。
 報告には女生徒としか書かれていないだろうに、名指しで呼ぶなんて間違っていたら大問題なのだが、結論を言うと間違ってはいなかった。━━━電線を歩くなんて芸当が出来るのはその学校には圭子以外存在しなかったのだから当然と言ってしまえば当然なのだが。

「ハッハッハ。私の所業と一瞬で見抜くとは流石だな」

 皆の注目を浴びながら、人混みの中から現れた圭子は高らかに笑った。

『当たり前だ!貴様ら問題児の行動パターンを把握しておくことが我々の仕事なのだからな!あまり我々を舐めるなよ!』
「ほう。......まぁいい。楽しみは次に取っておくとするか」

 そう圭子は、意味深に笑って周りを囲っていた三人の教員の壁を楽々と飛び越えると、そのまま壇上へと上がった。
 あまりにも呆気なく素直に上がった圭子に度肝を抜かれたのか、それとも人一人を軽々と飛び越えた脚力に驚いたのか、先生は少しの間ポカンと口を開けていたが、頬をぱちんと叩いて渇を入れた後、呼び出しを続けた。

『次だ次。今日、校長の銅像に落書きした━━━これは樹林だな。樹林出てこい』
「あっちゃぁ~。バレてたか」

 菫はコツンと頭を叩いて舌を出した後、二人の教員に両腕を捕まれ連れていかれた。
 その構図は言っては悪いけど昔メキシコで発見された捕まった宇宙人の写真に少し似ていた。
 
(やっと出揃ったか......)
 いつもの壇上へ呼ばれているメンバーが揃ったことを確認した楽斗は、もうすぐ帰れると息を吐いた。

 去年壇上へ呼ばれたのは一年を通してこのメンバーだけだった。だからもう呼ばれる人はいないだろうと考えたのだ。

 なのにも関わらず、呼び出しはまだ続いた。
『次、これで最後だ』

(一体誰だよ......もしかして一年生か?)
 
 二年、三年には呼ばれるような生徒はいない。楽斗は一年の方に視線を移した。
(うーん。パッと見、ヤバそうな生徒はいないんだがな......。だがまぁ、人は見かけによらないからな......)

 見ただけでは人の心はまでは分からない。

 いくら美少女だと言っても内面が圭子や菫のように終わっている場合もあるのだから。
 
 
 と、そんなことを考えている間に、先生が罪状を話始めようとしていた。
 急いで耳を傾ける。

『これは、この学校に毎日届けられている報告なのだが━━━』

 どうやら相当ヤバイ新入生が入ってきたらしい。毎日違反を犯すなんて強すぎるだろ。
 そんなやつとは是非ともお近づきになりたくないものだ。

『と言うよりも、実は去年も毎日報告は来ていたのだが、あまりにも酷い報告だったので先生達の間で内密にしていたんだ。だが、どうも最近その数が増えてきていてな。つい先日、ほら、放送室事件があっただろ?その時にお偉いさんに内密にしていたのがバレてしまってな』

 ふむふむ。どうやらそいつは二年か三年にいるらしい。それにしても先生に匿われていたなんて、どんな奴なんだろう。
 理事長の御子息とかそんな感じなのだろうか。

『━━━で、すぐに対処しろとの命令が出たんだ。だからすまないがその生徒には来週から制服を変えて貰うことになった。男性用から女性用にな』

 制服を変える。その言葉に聴衆がざわめいた。
 何故だろうか。物凄く嫌な予感がする。

『ちなみに言うまでもないが、罪状は......女子が男子用の制服を着ている件についてだ。
 よし。覚悟はできてるな?呼ぶぞ━━━雨宮楽斗!』
「ちょっと待てぇぇえ!!!」

 すかさず自分の周りを囲ってくる教員に楽斗は戸惑いの声を上げた。
 ジリジリと包囲網が狭まっていくなか、助けを求めるように、呆然とした顔で観衆を見まわす。

 全員が注目していた。キラキラとした目で。

「あの人可愛くね?男装趣味だったのかな?」「やべっ、惚れたわ」「好きだぁぁ」「プリティーガールが来週から私と同じ制服だと!?......ハァハァ。この学校に来て良かった......」「あ、姉御!?って、尋常じゃない量の鼻血出てるけど大丈夫ですかっ!?誰かーっ!救急車ぁーっ!!」「ははッ。これでますます流音と区別がつかなくなるな」「未知だな!」「あれ?るーちゃんどうしたの?元気がないみたいだけど」「......えっ?いや、元気あるわよ。ありまくりよ!コラァ大毅。後で覚えておきなさいよ!」「ウヒョオオオお」「いぇぇぇーい」「ついに楽斗ちゃん女の子デビューですか」「ねぇねぇ。ってことは修学旅行私たちと同じで女風呂なのかなぁ。うへへへ、楽しみぃ!」「えー、男風呂じゃねぇのかよ!」「ウヒャヒャヒャヒャ!」「うぇぇぇえい!」

 そんな大喝采に包まれて、引きずられながら楽斗は何で今日学校来たんだろうと後悔した。
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