13 / 63
集会という名の公開処刑2
しおりを挟む
(やっぱり無理にでも今日は休ませるべきだったわ)
大喝采の中、白目を向きながらぐったりとして連行されていく楽斗を見て流音はグッと唇を噛みしめた。
昨日の事件に引き続き、今日こんなことがあったんじゃ、いくらメンタルが強い人でも学校に行きたくないと考えてしまうだろう。そして、それはあまりメンタルが強くない楽斗が不登校になってもおかしくない事を意味していた。
先生達もそれは分かっているはず。なのに......
「何故今日なの。確かに偉い人から圧迫されたら口答えは出来ないだろうけど、それは明日でもよかったはずだし別に今日集会を通じて言う必要は無かった」
思いは頭の中だけに留められず、遂には小さな言葉となって外へ放出される。
あまりに小さな声から、それはごく僅かな範囲にしか聞こえてなかったようだが、端から見れば突然激昂したようにも見える行動に自然と人は離れ、流音の周囲には不自然な間が生まれていた。
だが、そんなことに気を向ける様子はなく、流音はヒステリック気味に呟き続ける。
先生が少しでも気を使っていれば......明日こっそり呼び出して言っていれば、ダメージは今より抑えられた、と。その事実を永遠に。
呟いていると、真愛が流音の隣に立って肩に手を置いた。
「るーちゃん」
「━━━真愛?......おとなしく並んでないと怒られるわよ」
「大丈夫。友達が困っている時に手を貸さない方が怒られるよりずっと心に響いて痛いから」
「そう言えばあなたはそういう人だったわねお節介さん」
「うん。私はお節介さんなの。で、るーちゃんどうしたの?」
「......」
嫌味にも表情を変えず笑顔で答える真愛に流音はふぅと息を吐いて無言を貫く。
「━━━楽くんが心配なの?」
「......」
「大丈夫。楽くんは強い子だよ。強い強い」
「......でも、もし不登校になってしまったら......あの時のように」
「そしたらまた皆で救うだけだよ。ね?」
返事が返ってきた事に喜びを抱いたのか、ホントにそう考えているのか心配になるくらいに真愛は満面の笑みを浮かべた。
「......ちゃんと考えてる?」
「もちろん!」
「......ホントに?」
「もちろん!」
「......絶対考えてないわね」
「もちろん!」
「は?」
「え?」
「まぁいいわ。もう大丈夫だから戻りなさい」
真愛と話している間にすっかり毒素が抜かれた流音は苦笑して、
「......ありがとう」
自分にしか聞こえないような小さな声で呟いた。
真愛が深く考えて発言していないにしても救われたことは確かなのだ。
助けられたら礼を言う。それが助けられた側の義務であり、責任だ。
そのため、ここで礼を言わないことは流音には考えられなかった。
「にひひ。どーいたしまして」
「!?」
「またね!」
耳元に熱い吐息と共に言葉が流れる。
ハッと反射的に見れば、真愛がにっこりと笑いながら自分の列に戻っていくところだった。
「もう......昔はあんなのじゃなかったのに......。圭子と菫に毒されすぎよ......」
さりげなく問題児と呼ばれる友人を愚痴る流音の口元は、今度は苦笑いではなく完全な笑みとなっていた。
前の月に問題を起こした生徒を壇上に上がらせただけで刑が終わる、何てことはありえない。それだと刑が軽すぎるからだ。
では、壇上に上がらせた目的とは何なのか。
それは━━━
『じゃあ、まず鳳 宗吾から。いつも通り、今回の違反行為をした理由と今後どう高校生活を送っていくかここで言って貰おう』
そう言って何故か表情を暗くした先生は宗吾にマイクを手渡す。
━━━自分がした行動の理由と今後どうするかを言わせること。
流石にどんな悪い奴も全校生徒の前で言うとなれば怖じ気づき、ふざけずにしっかりと理由と今後どうするかを宣言してしまうだろう。
そうなれば、次また同じ行為をしたとき、前回の集会で嘘をついたとして更に厳しい罰を与えることができるし、また何かあったとき証人として全校生徒を使うことができるのだ。
以上が違反者を壇上に上がらせた目的だった。
だが、ここで忘れてはいけないのは宗吾達が過去十二回と違反行為を繰り返しているのにも関わらず、相も変わらず刑が変わっていないと言うことだ。
先生達が周到に考えてきたであろう、この作戦には二つの大きな落とし穴があったのだ。
一つ、この作戦を成功させるためには全校生徒の前でどうしてもふざけずにしっかりと宣言させる必要があること。しかし、どんな生徒でも壇上に立てば怖じ気づく事を前提として立てられたこの作戦は、壇上に立っても怖じ気づかない宗吾達には効果がなかった。
二つ、どんな理屈でも理由と今後どうするかを言えば刑は終わるということ。
『えー。一年は知らないと思うから挨拶をしておくぞ!初めまして初めました!俺は鳳 宗吾だ!よろし━━痛ッ!拳で殴りやがったなてめぇ!!』
「真面目にやらんか!......もう一度地獄に落ちたいのか」
『ちゃんとやるからっ!!!』
そのやり取りに体育館のあちこちから笑いが起きる。
『えー......。先生、俺の罪って何でしたっけ?』
「信号無視だ。早く理由を話せ」
『はいはいっと』
瞬間、宗吾の表情がキッと変わった。
『━━━諸君!始めに聞くが、お前達は日本の文化をいくつ知ってるッ!』
唐突の質問に二年三年はまた新しい熱弁が始まるぞと笑い一年は戸惑った。
百ぐらい?いや、千はあるでしょ。
大衆の間でそんな話が広がるが気にせず宗吾は続ける。
『百?千?日本が始まって約二千年超。その間にたかがそれだけしか特有の文化が出来ていないと思うのかっ!?そんなわけがないだろうッ!』
宗吾が拳を握りながら力強い声を張り上げた。
『食事の取り方一つに置いてもそう。平仮名一つに置いてもそれは日本の文化として扱われる。それらがたかが百?千?しか無いだって?笑わせるなッ!億は余裕で超えるだろッ!』
(((いや億は言い過ぎじゃね?)))
壇上にいた楽斗除く三人はそう思ったが、まだまだ宗吾の熱弁は止まらない。
『では何故さっき諸君らに挙げて貰ったように日本の文化だと思うものがこれほどに少ないのか。それは次々と入ってくる西洋の文化のせいで日本の文化が失われているからだッ!』
『だから俺は徐々に失われつつある日本の文化を少しでも残すために常に行動している。その一つが信号無視だッ!』
(((何言ってんだコイツ?)))
体育館にいる皆の意思が一つになった。
『下克上。この言葉を聞いたことはないか?』
(((まさか......)))
『そう、信号無視とは交通『弱者』である歩行者が交通『強者』である車を自らの意思で操ることができる。まさに下克上という言葉を残すのにピッタリな手段だ!
だからこれからも俺は何度怒られようとも日本の文化のため信号無視をすることをここに決意する!』
大喝采の中、白目を向きながらぐったりとして連行されていく楽斗を見て流音はグッと唇を噛みしめた。
昨日の事件に引き続き、今日こんなことがあったんじゃ、いくらメンタルが強い人でも学校に行きたくないと考えてしまうだろう。そして、それはあまりメンタルが強くない楽斗が不登校になってもおかしくない事を意味していた。
先生達もそれは分かっているはず。なのに......
「何故今日なの。確かに偉い人から圧迫されたら口答えは出来ないだろうけど、それは明日でもよかったはずだし別に今日集会を通じて言う必要は無かった」
思いは頭の中だけに留められず、遂には小さな言葉となって外へ放出される。
あまりに小さな声から、それはごく僅かな範囲にしか聞こえてなかったようだが、端から見れば突然激昂したようにも見える行動に自然と人は離れ、流音の周囲には不自然な間が生まれていた。
だが、そんなことに気を向ける様子はなく、流音はヒステリック気味に呟き続ける。
先生が少しでも気を使っていれば......明日こっそり呼び出して言っていれば、ダメージは今より抑えられた、と。その事実を永遠に。
呟いていると、真愛が流音の隣に立って肩に手を置いた。
「るーちゃん」
「━━━真愛?......おとなしく並んでないと怒られるわよ」
「大丈夫。友達が困っている時に手を貸さない方が怒られるよりずっと心に響いて痛いから」
「そう言えばあなたはそういう人だったわねお節介さん」
「うん。私はお節介さんなの。で、るーちゃんどうしたの?」
「......」
嫌味にも表情を変えず笑顔で答える真愛に流音はふぅと息を吐いて無言を貫く。
「━━━楽くんが心配なの?」
「......」
「大丈夫。楽くんは強い子だよ。強い強い」
「......でも、もし不登校になってしまったら......あの時のように」
「そしたらまた皆で救うだけだよ。ね?」
返事が返ってきた事に喜びを抱いたのか、ホントにそう考えているのか心配になるくらいに真愛は満面の笑みを浮かべた。
「......ちゃんと考えてる?」
「もちろん!」
「......ホントに?」
「もちろん!」
「......絶対考えてないわね」
「もちろん!」
「は?」
「え?」
「まぁいいわ。もう大丈夫だから戻りなさい」
真愛と話している間にすっかり毒素が抜かれた流音は苦笑して、
「......ありがとう」
自分にしか聞こえないような小さな声で呟いた。
真愛が深く考えて発言していないにしても救われたことは確かなのだ。
助けられたら礼を言う。それが助けられた側の義務であり、責任だ。
そのため、ここで礼を言わないことは流音には考えられなかった。
「にひひ。どーいたしまして」
「!?」
「またね!」
耳元に熱い吐息と共に言葉が流れる。
ハッと反射的に見れば、真愛がにっこりと笑いながら自分の列に戻っていくところだった。
「もう......昔はあんなのじゃなかったのに......。圭子と菫に毒されすぎよ......」
さりげなく問題児と呼ばれる友人を愚痴る流音の口元は、今度は苦笑いではなく完全な笑みとなっていた。
前の月に問題を起こした生徒を壇上に上がらせただけで刑が終わる、何てことはありえない。それだと刑が軽すぎるからだ。
では、壇上に上がらせた目的とは何なのか。
それは━━━
『じゃあ、まず鳳 宗吾から。いつも通り、今回の違反行為をした理由と今後どう高校生活を送っていくかここで言って貰おう』
そう言って何故か表情を暗くした先生は宗吾にマイクを手渡す。
━━━自分がした行動の理由と今後どうするかを言わせること。
流石にどんな悪い奴も全校生徒の前で言うとなれば怖じ気づき、ふざけずにしっかりと理由と今後どうするかを宣言してしまうだろう。
そうなれば、次また同じ行為をしたとき、前回の集会で嘘をついたとして更に厳しい罰を与えることができるし、また何かあったとき証人として全校生徒を使うことができるのだ。
以上が違反者を壇上に上がらせた目的だった。
だが、ここで忘れてはいけないのは宗吾達が過去十二回と違反行為を繰り返しているのにも関わらず、相も変わらず刑が変わっていないと言うことだ。
先生達が周到に考えてきたであろう、この作戦には二つの大きな落とし穴があったのだ。
一つ、この作戦を成功させるためには全校生徒の前でどうしてもふざけずにしっかりと宣言させる必要があること。しかし、どんな生徒でも壇上に立てば怖じ気づく事を前提として立てられたこの作戦は、壇上に立っても怖じ気づかない宗吾達には効果がなかった。
二つ、どんな理屈でも理由と今後どうするかを言えば刑は終わるということ。
『えー。一年は知らないと思うから挨拶をしておくぞ!初めまして初めました!俺は鳳 宗吾だ!よろし━━痛ッ!拳で殴りやがったなてめぇ!!』
「真面目にやらんか!......もう一度地獄に落ちたいのか」
『ちゃんとやるからっ!!!』
そのやり取りに体育館のあちこちから笑いが起きる。
『えー......。先生、俺の罪って何でしたっけ?』
「信号無視だ。早く理由を話せ」
『はいはいっと』
瞬間、宗吾の表情がキッと変わった。
『━━━諸君!始めに聞くが、お前達は日本の文化をいくつ知ってるッ!』
唐突の質問に二年三年はまた新しい熱弁が始まるぞと笑い一年は戸惑った。
百ぐらい?いや、千はあるでしょ。
大衆の間でそんな話が広がるが気にせず宗吾は続ける。
『百?千?日本が始まって約二千年超。その間にたかがそれだけしか特有の文化が出来ていないと思うのかっ!?そんなわけがないだろうッ!』
宗吾が拳を握りながら力強い声を張り上げた。
『食事の取り方一つに置いてもそう。平仮名一つに置いてもそれは日本の文化として扱われる。それらがたかが百?千?しか無いだって?笑わせるなッ!億は余裕で超えるだろッ!』
(((いや億は言い過ぎじゃね?)))
壇上にいた楽斗除く三人はそう思ったが、まだまだ宗吾の熱弁は止まらない。
『では何故さっき諸君らに挙げて貰ったように日本の文化だと思うものがこれほどに少ないのか。それは次々と入ってくる西洋の文化のせいで日本の文化が失われているからだッ!』
『だから俺は徐々に失われつつある日本の文化を少しでも残すために常に行動している。その一つが信号無視だッ!』
(((何言ってんだコイツ?)))
体育館にいる皆の意思が一つになった。
『下克上。この言葉を聞いたことはないか?』
(((まさか......)))
『そう、信号無視とは交通『弱者』である歩行者が交通『強者』である車を自らの意思で操ることができる。まさに下克上という言葉を残すのにピッタリな手段だ!
だからこれからも俺は何度怒られようとも日本の文化のため信号無視をすることをここに決意する!』
0
あなたにおすすめの小説
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる