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猫の国の動乱
仲間を増やす
しおりを挟むフランス陸軍特殊部隊とグレースランド陸軍部隊は合流後、ミャウシア軍の追撃を逃れるように土砂降りの雨の中を行軍しながら歩く。
けれどこれは運が良かったのかも知れない。
なんせ既に周辺空域はミャウシア軍の手に落ちつつあり、堂々と歩いていれば襲撃してくるのは目に見えていた。
しかし雨の中で攻撃してくることはまずないのでその間は後方にミャウシア軍が食いついてないかを警戒すればいいだけなのだ。
その頃フランス軍では予想以上のミャウシア軍の快進撃に特殊部隊の後退が遅れたことに懸念が集まっており、イギリス軍や他の欧州連合軍部隊も急いで撤収を始めていた。
戦線は完全に崩壊状態に陥っていた。
皆大雨でずぶ濡れになりながら歩いているが歩いていないものもちらほらいた。
フニャンとアーニャンである。
この時フニャンはグレースランド軍の戦車の車体正面の傾斜装甲の上でタンクデサントしながら移動していた。
「やっぱり気に入らねえよ、俺。ミャウシア人がここにいるのもそうだがよりによって俺らの戦車の上にふんぞり返ってるのが一番気に食わねえ」
戦車兵の一人がフニャンの存在が相当気に食わない様子だった。
「どいつもこいつも...」
戦車長のシャーロット・カーライル大尉は部下たちが愚痴をこぼしまくっていることにうんざりしている様子だった。
実際兵士たちのミャウシア人に対する憎悪は強く気持ちはわからなくもない。
しかし隊長のシャーロットは感情論では基本動かないようにしているので地球人が保護したミャウシア人を乗り物に乗せて欲しいとの要望を断らなかった。
そんな憎悪の視線にフニャンはとても居心地の悪さを感じてしまう。
「私、もう歩けるから戦車を下りますよ」
「だめだよ、初め言ってすぐバテたじゃないか。本当は筋肉痛でとてもしんどいんでしょ?」
そう返したのは戦車の脇を並走して歩くナナオウギであった。
基本的にフニャンとアーニャンの面倒は通訳の関係上ナナオウギが見ていた。
「...」
フニャンは反論できなかったので猫耳を倒してしょぼんとする。
その様子を見たナナオウギは少し言い過ぎたかなと困惑してしまう。
ナナオウギはあんまり女性と接点がない生き方をしてきただけにフニャンのことが色んな面で気にしてしまうのだった。
「おい、ナナオウギ!」
フランス軍部隊の仲間がナナオウギを呼ぶ。
ナナオウギはすぐ声のする方に向かうと担架に乗せられたアーニャンが目に入る。
よく見ると相当顔色が悪かった。
「何かあったんですか?」
「いや、血が足りないんだ」
「血?」
ナナオウギはアーニャンを見る。
助けた時腹部の服が血まみれの状態だったことを思い出し、出血がそこまで酷かったのかと把握する。
「酷い失血で極度の貧血になっている。このままじゃ持たないかも知れない」
「!」
ナナオウギはフニャンを見る。
既にフニャンはナナオウギたちがアーニャンを取り囲んでいるのをじっと見ていたが戦車から降りる様子はなかった。
フニャンは自分は捕虜の範疇であり勝手な行動は許されないと考えていたのであくまでも戦車から降りるにしても無断では下りなかった。
ナナオウギはフニャンが駆け寄りたいのを我慢している様子だったのを感じ取り、来てとジェスチャーを送る。
するとフニャンはとても固く重い足を引きずってアーニャンのもとに駆け寄る。
「アーニャンに何かあったの?」
フニャンはナナオウギに必死に質問する。
「血が足りなくて、すぐ輸血してあげないと危険な状態なんだ」
アーニャンの呼吸は荒いのに弱々しく、つらそうな表情だった。
「輸血できないのか?」
ナナオウギの質問に衛生兵が答える。
「輸血キットはあるが彼女の血液型がね。司令部からの連絡だとミャウシア人には特殊抗原を持つ人が大勢いるから気安く輸血できならしいんだ。それにここには血液型検査キットもグロブリン製剤もない」
「そうか。フニャンさん、君の血は分けてあげられそうかな?」
「アーニャンはOf型で私の血は輸血できない」
ナナオウギは知らない血液型に関する単語がわからなかった。
だが概ねミャウシア人たちは自分たちの血液型に関する知識はちゃんと持っているようだった。
そしてミャウシア人は血液型とRH因子の区別をセットで表すのが一般的だった。
なぜならミャウシア人の持つRH因子には地球人にはない重篤な副作用を持つF抗原が存在し、一般レベルで知られていたからである。
「ミャウシア兵の捕虜はいないのか?」
他の兵士たちが話しに加わる。
グレースランド軍部隊は2人のミャウシア兵を捕虜に取っていた。
ナナオウギは捕虜を集めて一人ひとり尋問する。
「あたしらになんか用でもあるの?」
「血液型を聞きたいんだけどいいかな?」
「血液型?」
「うん、ミャウシア人の一人が血が足りなくて危ないんだ。型が合えば輸血して欲しい」
「はあ?」
捕虜のミャウシア兵は訳がわからないのかそんな返答をする。
そもそも自分たち以外にも捕虜がいることを知らなかったという感覚であった。
「半日前に撃ち落とされたあたしら以外に撃墜されたやつなんていなかったでしょ」
「それとはまた別に先客がいたんだ。とにかく教えてよ」
「ふん。Bf型だよ」
「そっちは?」
「私はOb型」
「くそ」
捕虜の中にアーニャンに輸血できる人はいなかった。
このままではせっかく助けた女の子が死んでしまいかねないと思う。
「ずいぶん、大変そうね」
ミャウシア兵捕虜はナナオウギが悔しがっている様子がお気に召した様子で鼻で笑う。
ナナオウギは少し頭にきてムッとした顔を向ける。
「そんな顔したって解決しないんでしょう?」
ミャウシア兵捕虜はナナオウギを煽り倒して遊ぼうとする。
だがそれを遮るように後ろで控えていたフニャン割って入ってきた。
少し静まり返ったところでフニャンをジロジロ見ていた捕虜が話す。
「へえ、ネニャンニャ族の戦闘機パイロットってことはあんた噂に聞く参謀総長派のフニャンってやつでしょ?あんたも撃墜されたわけ?」
「そう」
「少数部族上がりで生意気なくせにアホみたいに強いって聞いてたけど落ちれば惨めなもんね」
「かもしれない」
「それで?」
「協力して欲しい」
「そんな義理ないわね」
「では一つ聞かせて。あなたはタルル将軍に支配されたミャウシアと共和の理念に基づくミャウシア、どちらを望む?」
「いきなり話が飛び過ぎだよ。何が言いたいわけ?」
「今海軍はタルル将軍に対して大規模な反乱を企てている。軍内で囁かれている噂は事実。そしてその計画を立案したのは私だった」
「え?」
「もしあなたが協力してくれるのならいつか反逆が成功した暁にそれなりのポストを用意する。簡単な口約束には絶対しない。だから私達を助けて」
しばらく捕虜二人は硬直したようにフニャンをじっと見つめる。
捕虜にとっては寝耳に水であったがフニャンが嘘を付いている様子は微塵もなかった。
もしこのまま戦い続けてもタルル将軍にボロ雑巾のように使い倒され最後は後ろからズドンだってありえる悲しい現状がミャウシア派遣軍兵士たちにはあった。
「なら証明しなさい」
捕虜がそういうと腰を叩いて手を差し出す。
フニャンはナナオウギを見る。
ナナオウギも混乱していたが体はスムーズに動いた。
ナナオウギは彼女たちが撃墜されたあと没収された拳銃を持ってきて手渡した。
すると突然フニャンの額を狙う。
しかしフニャンもナナオウギも微動だにしない。
更に間をおいて捕虜は拳銃を下に向けるとそれを懐にしまう。
「いいわ。そっちのほうがずっと面白うそう」
「ネニャンニャの下につくの?」
相方にほとんど喋らせていた捕虜が口の悪そうな捕虜に質問する。
「主義主張なんて衣食住が足りたらの話ってね。あんただって民族や人種に興味ないくせに」
「たしかにそうだけど」
捕虜はナナオウギたちに心を開き始めた。
ナナオウギもフニャンも表情が明るくなる。
「あたしニーナよ」
「私はニャーラ、よろしく」
「フニャンよ、よろしく」
「ところで協力ってどうするの?」
「元友軍兵を生け捕りにする」
「え?」
元捕虜とナナオウギは口を揃えて疑問の声を上げた。
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