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しおりを挟む「エミリー、最近仕事ばかりですまない。」
アランは出勤前、申し訳なさそうに肩を竦めた。異動の話を聞いてから、二週間。アランはいつも夜遅くに帰ってくる。今日だって本当は非番だったのだが、出勤しないといけないと昨夜から頭を下げられた。
「荷造りだって、全く手伝えなくて、申し訳ない。」
「ううん。荷造りのことは気にしないで。それより無理しないでね。貴方が倒れないか心配なの。」
エミリーはアランにぎゅうぎゅうと抱きつくと、アランは遠慮がちに背中に手を添えてくれた。アランは大丈夫だ、と言うが、いつも体力に自信がある彼も流石に疲れが見え、エミリーは苦しかった。
「アラン、夕食は何が食べたい?」
エミリーがしてあげられることは、ほんの僅かなことだ。もどかしく思うが、出来る限りのことはしたい。
「・・・エミリーのビーフシチューが食べたい。」
いつもは「エミリーの作ったものは何でも旨い。」と言うアランが、初めてリクエストしてくれた。エミリーは嬉しくなり、「美味しく作って待っているからね!」と腕を巻くって見せた。アランは口許を綻ばせ「行ってくる。」と、エミリーにいつもの口づけを落としてから出発した。エミリーは、アランの背中を祈るような気持ちで見送っていた。
◇◇◇
エミリーは家事を終えると、市場へ買い物へ出掛けた。アランがリクエストしてくれたビーフシチューの材料を買うためだ。
(お肉は良いものにしちゃおう!)
いつもよりワンランク上の肉を選ぶ。エミリーはアランの喜ぶ顔が浮かび、微笑んだ。
喜怒哀楽が乏しいアランだが、エミリーの料理は気に入ってくれているようで、いつも表情を緩ませて完食してくれる。アランのことを思うと、料理への気合いも入る。
アランほどの立場だと、使用人を雇う事が普通らしい。アランも、共働きだから住み込みの使用人を雇おう、とエミリーの家事の負担を心配してくれていた。だが、エミリーはアランに尽くす事がライフワークなので丁重に断った。
結局週に一回、通いのハウスメイドを雇うことでお互い妥協したのだ。エミリーは、それ程アランの為に家事をする事が好きだった。
(後は、パンも買っておこう。)
アランの好きなパンを選び、漸く帰路に着く途中、「エミリー。」と聞き慣れた声がした。
トニー=ハンソン。アランの勤める第一騎士団で騎士をしている、エミリーの幼馴染みだった。
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