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しおりを挟むミゲルの執務室から退室したレティが厨房へ向かっていると、メイド達の話し声が聞こえた。
「ねぇ、聞いた?ミゲル様の婚約話」
「ああ、王女様との婚約話でしょう?あれって本当なのかしら?だって……」
「本当よ!王宮に勤めている友人が言っていたもの、ミゲル様が王女様と同じ部屋で一緒に過ごしているって!」
「あのねぇ……」
レティの心はじくりと痛んだ。上手く息ができなくて、足がすくんだ。レティは彼女たちに見つからないように遠回りしようと体の向きくるりと変えた時……。
「おい、お前ら無駄話してる暇あるんならさっさと持ち場に戻れ」
「は、はい!」
ドスの効いた声にメイド達は逃げるように立ち去った。レティがひょっこり顔を出すと見慣れた顔がそこにはあった。
「……ダン」
「おお、レティか」
大柄で精悍な顔つきの男が手を挙げた。
ダンは公爵家の料理長だ。元々はレティの父ペルジーニ伯爵に憧れ、彼の元で修業をしていたと言う。その後、公爵家の料理人として働き数年経った頃にレティが公爵家に雇われた。ダンが伯爵家で修業していた当時、レティはまだ幼かったので彼のことを覚えてはいなかったが、ダンの方はレティをよく覚えていた。そのため、レティが公爵家に雇われてからは彼女を気に掛け面倒を見てくれていた。
公爵家には公爵夫妻、そして使用人たちのための料理を作るために主厨房がある。そして、レティが作る料理はあくまでミゲルのためのものだ。レティは他の料理人たちと調整しながら、メニューや仕入れを決める必要があった。そのフォローをしてくれていたのがダンだ。ダンのおかげでレティは昔も今もスムーズに料理人たちとコミュニケーションが取れている。
「チッ。あんなくだらない与太話、信じるんじゃねーぞ」
「うーん……」
煮え切らない返事をするレティを見て、ダンは目を吊り上げた。
「あのなぁ……!」
ダンはレティの面倒をよく見てくれるが厳しくもあり説教が長い。嘘でも頷いておけば良かったとレティが後悔していると救いの声が聞こえた。
「ダン、レティ、二人ともここにいたの」
「ミア!」
レティが思わず救いの女神に抱き着くと、ミアは驚いたように目を瞬いた。ダンは少々きまり悪そうに頭を掻きながら「なんだ?」と尋ねた。
「旦那様がお呼びよ。二人で来て欲しいって」
ミアの言葉にレティとダンは目を丸くし顔を見合わせた。
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