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「ロキ様……申し訳ありません。」


 急遽、急用が入ってしまったお兄様の代わりに、カフェに同行してくれるお兄様のご友人、ロキ様に私は頭を下げた。


「いやいや、いいんだよ。俺の分のケーキ代まで貰ってるし気にしないで?」


「でも……。」


「それにレナードってさ、色々とクラスの用事や厄介事まで、いつも引き受けてくれているリーダーみたいな存在なんだ。そんなレナードがどうしても今日妹にケーキを食べさせてやりたいって言うんだから、俺は喜んで来たんだよ。」


「え!お兄様が?」


 私はケーキを食べるのは別の日でも良いと思っていたのだけどお兄様がそこまで考えて下さったということと、家では意地悪なお兄様が学校では頼れる存在であるという二つの驚きに目を丸くした。


「そうだよ。レナードってさ~……」


 カフェに着くまでの間、ロキ様はお兄様の学校でのお話をして下さった。いつもと違うお兄様の様子に楽しんでいると、あっという間にカフェに辿り着く。


 さぁ、カフェに入ろうと扉に近付くと隣を歩くロキ様がぴたりと止まった。



「ロキ様?」


「……ルシル。」


 私の名を呼ぶのはロキ様、ではない。私たちの目の前に佇む、私の大好きなベンジャミン様だった。


(名前呼ばれるのなんて何年ぶりかしら!嬉しい!って、そうじゃなくて……ベンジャミン様がどうしてここに……そっか!ヴィクトリア様と待ち合わせされているのね!)



「……ルシル。」


 再度私を呼ぶ声には、怒りに満ちている。私は、ふと思い当たった。


(私ったら!昨日、ベンジャミン様の視界には入らないなんて言ったばかりじゃない!それなのに早速鉢合わせたものだから、怒っておられるのだわ!)



「ベンジャミン様、申し訳ありません!決してわざとではありません。すぐお暇致しますので!」


 私はそう言い放つと、ベンジャミン様の返事も待たず、ロキ様の腕を掴み、一目散に走り出した。



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