婚活写真、お撮りします。

たまこ

文字の大きさ
上 下
15 / 33

15

しおりを挟む


 写真館でバイトを始めて二か月ほど経った。

 写真館のドアベルがカランコロンと鳴る。「いらっしゃいませ。」と笑顔を向けると、よく来てくれている区長の田嶋さんが「よう」と右手を上げた。田嶋さんは熱心な区長さんで、区内のお店をよく回っているようだ。この写真館にも、町内の広報誌を届けたり、ただお喋りに勤しんだり、コミュニケーションを欠かさない。

「梨奈ちゃん、随分馴染んできたね。」

「そうですか?ありがとうございます。」

「ここは男一人の店だったからね。梨奈ちゃんみたいな優しい子がいてくれたら、お母さんたちが入りやすいって話も聞いたよ。」

「ふふふ。本当かな?それなら嬉しいです。」

 田嶋さんは気の良い笑顔を見せて頷いた。その時、後ろから「本当だよ。」と佐藤さんの声が聞こえ、事務所から顔を出した。

「梨奈ちゃんが来てくれてから売上が上がっているんだよ。」

「おお~!梨奈ちゃんは優秀な看板娘だね。」


 果たして三十歳オーバーは、看板娘を名乗ってもいいのだろうか。そんな思いが一瞬頭を掠めるが、うんうんと大きく頷き合っている二人へは言えなかった。


「じゃあ、今月の広報誌を置いていくね。尚也くん、今回も良い写真だったね。」

 渡された広報誌の表紙は、地元の山の写真が飾られている。美しい新緑が表現されている、その写真の下には『撮影:佐藤 尚也』と記されていた。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

堅物監察官は、転生聖女に振り回される。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:154

お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:125

就職氷河期シンデレラ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:192

悪役令嬢の私は死にました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,093pt お気に入り:3,983

ネズミの王子様の声は、氷の令嬢には届かない。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:169

処理中です...