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しおりを挟む写真館でバイトを始めて二か月ほど経った。
写真館のドアベルがカランコロンと鳴る。「いらっしゃいませ。」と笑顔を向けると、よく来てくれている区長の田嶋さんが「よう」と右手を上げた。田嶋さんは熱心な区長さんで、区内のお店をよく回っているようだ。この写真館にも、町内の広報誌を届けたり、ただお喋りに勤しんだり、コミュニケーションを欠かさない。
「梨奈ちゃん、随分馴染んできたね。」
「そうですか?ありがとうございます。」
「ここは男一人の店だったからね。梨奈ちゃんみたいな優しい子がいてくれたら、お母さんたちが入りやすいって話も聞いたよ。」
「ふふふ。本当かな?それなら嬉しいです。」
田嶋さんは気の良い笑顔を見せて頷いた。その時、後ろから「本当だよ。」と佐藤さんの声が聞こえ、事務所から顔を出した。
「梨奈ちゃんが来てくれてから売上が上がっているんだよ。」
「おお~!梨奈ちゃんは優秀な看板娘だね。」
果たして三十歳オーバーは、看板娘を名乗ってもいいのだろうか。そんな思いが一瞬頭を掠めるが、うんうんと大きく頷き合っている二人へは言えなかった。
「じゃあ、今月の広報誌を置いていくね。尚也くん、今回も良い写真だったね。」
渡された広報誌の表紙は、地元の山の写真が飾られている。美しい新緑が表現されている、その写真の下には『撮影:佐藤 尚也』と記されていた。
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