【完結】婚活写真、お撮りします。

たまこ

文字の大きさ
17 / 33

17

しおりを挟む
「わぁ……。」


 思わず漏らした声に、佐藤さんは満足そうに笑った。

 あの時、来月分の広報誌の写真の撮影に付き合ってほしいとお願いされた。写真館の定休日に、仕事外で会うことに抵抗が無かった訳ではない。だが、「帰りに美味しい海鮮料理のお店に行こうよ。」という言葉に、私は呆気なく頷いてしまった。


 今日は、町内にある河原へやって来た。澄んだ川の景色に、思わず頬が緩む。河原を当てもなく二人並んで歩いていると「ピンと来た風景があったら、遠慮なく教えてね。」と佐藤さんから言われた……が、全く分からない。取り敢えずキョロキョロしながら、何か良いものは無いかと見渡す。


(それにしても……。)


 こんな風に、のんびりと自然が豊かな場所を歩くなんて、いつぶりだろう。夏前の眩しい日差しも、川の水音も、温い風すらも心地よい。

「っ、わっ!」


「っと、大丈夫?」


 物思いに耽っていたら、足を取られ、躓きかけたところを佐藤さんに支えられる。密着した身体から、思った以上に逞しい腕や、爽やかなウッド系の香水の香りが感じられ、身体中に熱が駆け巡る。


「……っ、大丈夫です!ありがとうございます……あ、佐藤さん!」

 恐らく赤くなっているだろう顔や、熱の籠った身体を誤魔化すように、私は指さした。


「ああ。これいいかもね。」

 私が指さした先には、薄紫色の野花が咲いていた。どこにでもあるような花だが、妙に力強さを感じた。野花を真剣な眼差しで撮影する佐藤さんの横顔を、ぼんやり眺めながら、私は熱を冷ましていた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています

真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。

見た目九割~冴えない遠藤さんに夢中です~

凛子
恋愛
ボサボサ髪に無精髭、眼鏡を曇らせうどんを啜る、見た目の冴えない遠藤さんに夢中です。

先生の秘密はワインレッド

伊咲 汐恩
恋愛
大学4年生のみのりは高校の同窓会に参加した。目的は、想いを寄せていた担任の久保田先生に会う為。当時はフラれてしまったが、恋心は未だにあの時のまま。だが、ふとしたきっかけで先生の想いを知ってしまい…。 教師と生徒のドラマチックラブストーリー。 執筆開始 2025/5/28 完結 2025/5/30

花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】

naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。 舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。 結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。 失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。 やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。 男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。 これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。 静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。 全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...