【完結】君たちへの処方箋

たまこ

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「うわぁぁぁん!!うっ、うっ……」

 夜中三時、一軒家に響く泣き声。その小さな身体から発せられたとはとても思えない程の大きな声でそうは何時間も泣き続けていた。旺也おうやは彼を抱き上げようとするが身を捩り拒否されてしまう。勘弁してくれ、と小さく呟き、どうにか宥めようと重い身体に鞭を打ち立ち上がった。

みお……帰って来てくれよ」

 この三ヶ月、何度言ったか分からないこの言葉を繰り返した。



 元々、家族というものから縁が遠い人間だった。旺也と澪の兄妹は幼い頃からずっと寡黙で職人気質の祖父に育てられた。彼らの両親は幼い兄妹を残して、二人そろって他界してしまったためだ。事故に巻き込まれた、と聞いている。

 祖父は子どもを育てることにあまり向いていない人間だった。幼い旺也が同級生たちの温かい家庭を羨ましく思ったのは一度や二度ではない。だが、大人になってから思い返すと祖父の気持ちも分かってしまう。祖父の時代は、男が子どもを育てる考えが薄かった頃だ。だというのに、自分の娘夫婦が若くして亡くなったばかりか、幼い孫が二人も自分の元にやってきたのだ。戸惑わない方が可笑しい。しかも、あの頃澪はまだ赤ん坊だったのだ。泣き続ける澪を、必死で抱いていた祖父の顔がどうしても上手く思い出せないでいた。

 幼い頃は何度も祖父を困らせた。友達のようなカラフルな弁当が良いと泣いた。同級生が持っている母親手作りの手提げ袋が良いと泣いた。その度に祖父は近所の人たちに頭を下げて、弁当の作り方や手提げ袋の縫い方を習いに行っていた。

 温かい言葉を掛けてくれるような祖父では無かった。孫に笑いかけるような祖父では無かった。それでも、そんな祖父の背中を見ていたら自然と困らせようとは思わなくなっていた。そして旺也が祖父と同じガラス職人を目指すようになったのもまた自然なことだった。


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