君たちへの処方箋

たまこ

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 幼い頃から祖父の営むガラス工房によく出入りしていた。工房の職人たちは兄妹を可愛がりよく相手をしてくれていたし、空いた時間に作業を手伝わせてくれることもあった。工房が忙しい時期は、暗くなる時間に子どもたちだけ家には置いておけないと祖父の仕事が終わるまで事務所の中で待つこともあった。工房で祖父の仕事姿を見る時間が好きだった。

 高校を卒業した旺也は祖父のガラス工房に弟子入りした。孫だからと特別扱いをされることは一切無かった。それでも漸く祖父孝行できると思っていた矢先、祖父は病に倒れあっという間に亡くなってしまった。体調が悪いことを隠していたのではないか、我慢していたのではないか、そんな自責の念に囚われていた旺也を支えてくれたのは、祖父の後を継ぎ新しく工房の経営者となった上司、げんだった。彼は祖父の一番弟子であり、祖父のことも兄弟のこともよく気に掛けてくれていた。

「あの人は自分のことに無頓着だったからな。本当に自分の不調に気付いてなかったんだよ」

「馬鹿だよな。旺也がここに来てくれたってあんなに喜んでいたのにさ。もっと長生きしなきゃ駄目だろう」

 そう言って旺也と一緒に何度も泣いてくれた。彼は今でも旺也を助けてくれる恩人だ。

 幸い、両親と祖父が遺してくれた遺産があったので澪を大学まで行かせることはできた。大学卒業後、澪は県外に就職した。最初の内は時々帰って来ていたが、段々とその頻度は減っていった。工房の職人たちは心配していたが、まだまだ若い妹が兄しかいない実家にそう頻繁に帰ってくることも無いだろう、と旺也はあまり気にしていなかった。一年ぶりに帰って来た妹の腕に抱かれた赤ん坊を見るまでは。

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