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しおりを挟む「はなちゃん、もうくる?」
朝から何十回も繰り返す質問に旺也は苦笑した。
「夕方って言ってただろう」
「う~、まだぁ?」
もどかしそうに颯は身を捩った。旺也が葉名に醜態を晒した日から二日後、今日は彼女が彼に貸したタオルハンカチを取りに来ると約束した日だった。本来なら借りた旺也が届けるべきだが、彼女は苦労している旺也に負担を掛けたくないと思ったのだろう。自分が取りに行くと言って引かなかった。
だが彼女の訪問は颯に良い影響を与えた。
颯はもしかしたら彼女が家の中まで上がってくれるかもしれないと期待し、荒れ放題だった部屋を片付け始めた。小さな身体で玩具を必死に運んでいる颯と共に旺也も居間やキッチンを片付け、三ヶ月ぶりに清潔な我が家に戻った。
「おうちゃん、らじおできた?」
「う……」
葉名から貰ったラジオステッカーには番組名が記載されており、颯は聞いてみたいと強請った。旺也がスマートフォンで検索すると、その番組は地上波ではなくインターネットラジオという括りのようで専用のアプリをインストールする必要があるらしい……ネットに疎い旺也はここまでの情報に辿り着くまでにかなり時間を要してしまった。
「まだだ……」
「じゃ、はなちゃんにきこ!」
屈託なく笑う颯はこの三ヶ月荒れていた彼とは別人のようだ。ほっと息を吐いた旺也は颯の頭を撫でた。
「少し早いけど風呂に入っておくか」
「えぇ!いや!はいらない!」
「……お前も俺も汗びっしょりだぞ」
「……おふろはいる」
綺麗にして彼女に会いたいと思ったのだろう。こんなにも素直に風呂に入れる日が来るなんて数日前までは想像も出来なかった。急に現れた女神のような彼女に感謝し旺也は風呂場へと向かった。
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