君たちへの処方箋

たまこ

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 ある日の夜のこと。葉名が来ている日は就寝前に彼女に絵本を読んでもらうのが颯の日課になっていた。この夜も布団に横になったまま葉名に絵本を読んでもらっていた。

「―――動物たちはみんな仲良く暮らしましたとさ。おしまい」

「……」

「颯ちゃん?」

 いつもなら読み終わると同時に笑顔で感想を語り始める颯が、この日は黙り込んでいた。葉名が心配して声を掛けると漸く口を開いた。

「ねぇ、はなちゃん」

「なあに?」

「はなちゃんもいなくなっちゃう?」

「え……」

 一瞬戸惑った葉名だが縋るような瞳で自分を見つめる颯を見てすぐ首を振った。

「いなくならないよ。大丈夫」

「ほんと?」

「うん、絶対いなくならないからね」

 やっと表情を緩めた颯を見て、葉名も胸を撫で下ろした。いつもより長くおしゃべりをして颯が寝入るのを見届ける。



「葉名さん、いつもありがとうございます」

「いえ、私も楽しいですから。……それより旺也さん、相談なんですが」

「うん?」

 先程の颯の様子を旺也へ伝えると彼の表情が険しくなっていく。

「その……颯ちゃんにお母さんが亡くなったこと、どう説明されてますか?」

「それは……」

 旺也は澪の葬儀の場面を必死で思い出した。急なことで旺也自身も妹の死を受け入れられず、加えて各手続きに追われており記憶が曖昧だった。旺也だって澪の死を受け入れられていないのに、幼い颯が受け入れられる筈が無い、そのことに今更気付き旺也は項垂れた。

「確か……澪は、颯のママはいなくなったんだ、と」

 思い返すと何ておざなりな説明だったんだろう。葉名に説明する声が段々と小さくなっていく。

「旺也さん、ごめんなさい。責めている訳ではないんです」

「いや、今考えると酷い説明だったなと思う。それに……」

「それに?」

 旺也が五歳の頃、祖父宅へ来たばかりの時期のことを思い出す。旺也が「お父さんとお母さんは?」と尋ねると祖父は酷く困った顔をして「いなくなった」と答えた。
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