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しおりを挟む「……ムギ、ムギ、起きなさい」
優しい声が聞こえます。ムギがぱちりと目を覚ますと、周りにふわふわの白い雲が浮かんでいるのが見えました。そして目の前にはムギとお揃いの茶トラ柄の猫がいます。
「……おかあちゃん?」
「ええ、そうよ」
「おかあちゃん、あいたかった!」
ムギはぎゅっとお母ちゃんに抱き着きました。温かくて優しい香りがします。
「お母ちゃんも会いたかったわ。寂しい思いをさせてしまってごめんなさい」
「ううん、これからはずっと一緒にいられるもんね!」
「ムギ……」
その時、ふわふわの白い雲の隙間からクロが見えました。
「ムギ!!ムギ!!」
返事をしないムギの体を抱き締めて、クロはずっとムギを呼んでいます。先程会った、錆猫もやってきて二匹は協力してムギの体を猫の病院へ運ぼうとしています。
「ムギ……助けてやるからな。死ぬんじゃないぞ!」
クロは必死でムギを運びながら、そう声を掛けます。
「ムギ、本当にここにいて良いの?クロと離れ離れになってしまってもいいのかしら?」
「おかあちゃん……でも、ぼく、おかあちゃんとずっといっしょにいたいよ。もう一人ぼっちはいやだよ」
「ムギ……お母ちゃんは死んでしまって天国に来たの。でもね、いつでもこうやってムギのことを見守っているのよ」
「みまもってる?」
「ええ、そうよ。ムギ、頑張れ!ムギ、すごい!ムギ、ゆっくりでいいよ!っていつも応援しているし、心配しているよ」
「おかあちゃん……」
「それにムギは本当に一人ぼっちだったのかしら?」
「え……」
そうです。本当は一人ぼっちじゃなかったのです。ずっとずっとクロが隣にいてくれました。怒ったり呆れたりしながら、クロは隣にいて色んなことを教えてくれました。ムギはもうずっと前から一人ぼっちではありませんでした。
「おかあちゃん」
「ムギ、大丈夫。離れていてもずっとムギのことを見ているからね。ムギのことずっとずっと大好きだからね」
「ぼくも!ぼくもおかあちゃんだいすき!」
お母ちゃんは優しくにっこり笑いました。
「―――お願いします……!大事な家族なんです、助けてください!」
ムギが次に目を覚ましたのは病院のベッドの上でした。
「怪我が酷いからね……目を覚ますかどうか分からないよ」
「そんな……」
お医者さんとクロの声が聞こえます。起きているよ、って言いたいのに体が痛くて上手く動けません。
「……クロ」
「……っ!ムギ!」
小さな声で呼ぶと、目を丸くしたクロが慌てて寄ってきます。
「ぼく、クロのかぞく?」
「馬鹿、ムギは馬鹿だ」
クロは泣きました。お医者さんもムギが目を覚ましたことにびっくりしています。
「しばらくは入院だよ」
ムギは小さく頷きます。
「クロ。たいいんしたらクロのいきたいばしょにいこう」
「お前……天国探しはいいのかよ」
「うん、もういいんだ」
天国は探さなくてもお母ちゃんが見ていてくれる。そう思えば元気が湧いてきました。クロとの次の冒険を想像しただけでムギは嬉しくなりました。
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