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しおりを挟む「ほんと、馬鹿ですよ」
すやすやと眠る旺也に向かって葉名はチクチクと小言を続けた。
「身体が動くうちに連絡入れてくれれば良かったのに」
葉名だって分かっている。まだ大丈夫かな、と思ってるうちに急に体調が悪化することだってあるし、旺也のことだから葉名に迷惑を掛けないようになんて思ったのだろう。それは分かっているのだ。
「颯ちゃんにあんなに心配掛けて、危ないことさせて」
旺也が目を覚まして颯の行動を聞いたら、どれほど青褪めるだろう。そして颯を不安にさせたことに気付き、どれほど落ち込むだろう。それが分かっているから葉名は起きている彼ではなく眠ったままの彼へ小言を続けていた。
颯と共に旺也の家へ向かった後、彼の体温を測ると発熱はしているが救急に行くほどでは無かった。汗を拭いた後、氷枕を頭の下へ入れているとうっすらと目を覚ましたようでその隙に水分補給をさせ常備薬を飲ませた。少し経つと薬が効いたのか顔色が戻ったようだ。
その後、汗と涙でびしょびしょになった颯を風呂に入れ、二人で朝食を取る。今更かもしれないができるだけ旺也には接触しないように伝えると颯は素直に頷いた。
「結構傷つきますよ」
旺也への葉名の小言はまだ続く。頼ってくれたら、と思うのに頼って貰えないのは酷く寂しい。頼りにならないと思われているようで虚しくもあった。だけど、きっと旺也はそんな葉名の気持ちを察して心を痛めるだろうから、葉名は今のうちに発散していた。旺也が目を覚まして、ごめんと謝った時に笑顔で許せるように。
ぱちりと目を覚まし、窓の方へ視線を遣ると既に日が暮れかけていることに気付く。颯のことを思い出し、血の気が引いた旺也はガバリと身を起こした。
「そ、そう……っ」
掠れた声で呼ぶが返事は返ってこない。視線を彷徨わせると、枕の横に水筒が置かれており付箋が貼られている。
『颯ちゃんと夕飯の買い出しに行っています。すぐ戻ります』
見慣れた彼女の文字を確認すると息を吐き、布団にまた倒れ込んだ。付箋の余白には怒った顔の猫が器用に描かれている。彼女の不器用な優しさがじわりと胸に染み込んでいった。
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