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しおりを挟む長い沈黙の後、旺也は重くなった口を開いた。
「それは……」
「旺也さんと結婚したいってことです」
晴れない表情のまま、葉名ははっきりとそう告げた。逃げ場のなくなった旺也が再び黙ると葉名の憂いは濃くなった。
「……すぐ決められる話でも無いと思うので」
「あ、ああ」
「考えて貰えますか。いくらでも待ちますから」
縋るような、今にも涙が零れ落ちそうな彼女へ旺也は頷くことしかできなかった。
「へぇ、そんなことになってたのか」
「……はい」
旺也の体調が戻った数日後、仕事を再開したが表情の硬い彼を見て上司の玄は問い質した。すっかり困り切っていた旺也は素直に葉名とのことを相談すると、玄はあまり驚くことも無く相槌を打った。休職中に何度か職場に行くことがあり、その時に颯に付き添っていた葉名のことを玄はよく覚えていたようだ。
「あまり驚かないんですね」
「まぁな。それで葉名ちゃんからそれ聞いてお前はどう思ったんだよ?」
「それは……」
出会ってまだ数ヶ月だが、沢山あり過ぎる彼女との思い出が頭を駆け巡る。
「葉名さんは……すごく優しい人で、颯と俺を大事にしてくれる人で」
「そうだな」
「だから、気を遣ってくれてると」
「は?」
旺也と颯、二人だけでは生活するのは大変だから、心配したお人よしの彼女はそんな申し出をしたのだと旺也が説明すると、玄は呆れ切った。
「お前……ほんと馬鹿だな」
「……え」
「気を遣って、自分を犠牲にして、そんな風に葉名ちゃんは結婚を考えるような人間か?お前たちの家族になりたいと言った理由がそれだと本当に思ってるのか?」
「で、でも、葉名さんに俺みたいなやつ、絶対勿体ないです!」
声を荒げた玄に釣られて旺也の声まで大きくなる。
いつも穏やかで、笑ってくれて、颯と旺也に寄り添ってくれる人だ。颯と思いっきり遊んでいる姿を見るだけで嬉しくて泣きたくなる。あんな女神のような人は自分なんかよりずっと素晴らしい男性と結ばれて欲しい、旺也は本心からそう思っていた。旺也の言葉に玄は大きく溜め息を吐いた。
「それを決めるのはお前じゃない、葉名ちゃんだ」
「……」
「なぁ、旺也、それを話した時、葉名ちゃんは悲しそうだったんだろ」
「……はい」
「その顔を見て、お前はどう思ったんだ?」
それが答えだよ、と付け加えて玄は力いっぱい旺也の背中を叩いた。
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