【完結】君たちへの処方箋

たまこ

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 引っ越しと同時に諸々の手続きを進めていく。そして、もう一つ、大切なことがあった。


「ふふっ、たのしみだな~」

「そうだね」

「そう、ちゃんとこんにちは!って、いえるよ!」

 ご機嫌な颯をほんの少し羨ましく思う。この日、三人は葉名の母親へ挨拶するため、彼女の実家に向かっていた。後部座席ではチャイルドシートに座る笑顔の颯が挨拶の練習をしている。その隣で葉名は颯を優しく見守り、褒めていた。

 一方運転席の旺也の緊張は高まっていた。数日前から「うちは父親もいないですし、厳しく反対されるようなことは絶対無いですよ。母は喜ぶと思います」と何度も彼女にフォローされていたが、結婚の許しを本当に得られるのか今更不安が募る。

「はなちゃん、みぃにもあえる?」

「うん、お客さんが来たらちょっと緊張しちゃうかもしれないけど」

「はやくあいたいな~」

 颯が楽しみにしているのは、葉名の母と会うことだけではない。実家で飼われている三毛猫に会うのを心待ちにしていた。『ねこのムギ、てんごくをさがす』の絵本を読んでから颯は猫が好きになったようで、外で猫を見掛ける度に付いていこうとする。朝早く公園で積んできた猫じゃらしは、颯の小さな手に握られ既に少々しおれている。


 車で一時間ほど掛かり、葉名の実家に到着した。

「いらっしゃい!」

 玄関で明るい笑顔で迎えてくれた葉名の母親を見て旺也はホッとした。自己紹介と挨拶を終えると、自分の番を待っていた颯が大きな口を開いた。


「そうです!よんさいです!」

「お話し上手ね。この前お誕生日だったんでしょう?」

「うん!おっきなケーキたべたの」

 颯が腕を大きく動かし、空中で円を描く。少々大袈裟な表現だったが、葉名の母親は「大きいねぇ」とにこにこと聞いていた。そして家の中へ招き入れられると、ぴょん、とふわふわの物体が葉名に抱き着いた。

「みぃ、久しぶりね」

「みゃぁん」

 小柄な三毛猫は、葉名の腕の中ですりすりと頬を寄せていた。

「みぃ!こんにちは!」

 颯が三毛猫に挨拶するが、彼女は知らんぷりだ。

「あ、おみやげもってきたんだよ!」

 颯が取り出した猫じゃらしを三毛猫の顔の前に差し出すが顔を背けられてしまう。

「みぃ、ちゃんと挨拶するのよ」

 葉名が三毛猫の体の向きを変えようと抱き上げるが、梃子でも動かぬとばかりに踏ん張っている。その姿を見ていた颯は段々と苛立ち始めた。三毛猫は無視してくるし、何より自分以外が葉名に抱っこされている姿を見ているのは耐えられなかった。

「ねぇ、みぃ、どいて」

「……」

「そこ、そうのばしょ!」

 三毛猫はちらりと颯を一瞥した。

「……っ!みぃのばか!きらい!」

「あ、そうちゃん!」

 颯は猫じゃらしを三毛猫に投げつけると、走り出し靴も履かずに外へ飛び出した。慌てて追いかけようとする葉名を、旺也は「待ってて」と制止し、颯の背中を追った。





◇◇◇◇

 ちょっと意地悪な三毛猫を気に入って下さった方、『三毛猫みぃのお家』宜しければお読みください!
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