37 / 48
37
しおりを挟む庭を出て、辺りを見渡す。車の影に隠れるようにしゃがみ込んだ颯が肩を震わせているのを見つけた。
「颯」
「……っ」
旺也が抱き上げると、わんわんと大きな声を上げて泣き始めた。
「み、みぃが……っ、いじわる、したっ……」
「そうだな」
猫が意地悪なんて大袈裟だと、さっきまでの旺也なら思っていただろう。だが、三毛猫が颯を一瞥したあの時、彼女は優越感をたっぷり浮かべていたのだ。まるで「葉名は私のことが好きなのだ」と自慢するかのように。
「みぃ……そうにっ、いじわるした……っ、きらい、きらいっ」
「確かにさっきのみぃは意地悪だったな」
旺也の言葉に大粒の涙を流しながら何度も大きく頷く颯を見て、思わず苦笑してしまう。
「みぃは寂しかったのかもな」
「みぃ……さびしい?」
「ああ。俺たちはいつも葉名さんと一緒だろ?だけど、みぃはどうだっただろう?」
「……」
「もしかしたらずっと葉名さんを待っていたのかもしれないな。それでやっと会えたから、ずっと一緒にいた俺たちについ意地悪したくなったんじゃないか」
「みぃ……」
颯は暫く考え込んだ後、ぽつりと零した。
「あのね、はなちゃんがね……」
「うん」
「さびしいときにいじわるしたくなったり、おこりんぼになることがあるんだよって」
「なるほど、そうかもしれないな」
「だから、そんなときはいっぱいだっこするよって」
「ああ」
「みぃもさびしかったんだね」
颯は袖で涙を拭うと真面目な表情を浮かべ、旺也を見つめた。
「どうした?」
「おうちゃん、ごめんなさい」
「うん?」
「ママが……てんごくいったあと、そう、おうちゃんにいっぱいいじわるしたでしょ」
「……颯」
「ごめんね」
澪が亡くなった後、颯が荒れていた頃のことを言っているのだ。毎日泣き叫ぶ彼は時々旺也を叩いた。力のコントロールができない彼からの攻撃で、旺也の身体に痣ができたのも一度や二度ではない。
「颯、俺は怒ってない。颯は何にも悪くないんだ」
「だけど、おうちゃんにいっぱいパンチしたよ」
「寂しかったんだろ?」
小さく頷く颯へ旺也は笑ってみせた。
「じゃあ、次からは抱っこしよう。意地悪したくなったら抱っこしてって教えてくれ」
「……わかった」
「俺が寂しい時は颯が抱っこするんだぞ」
「えぇ~おうちゃん、あかちゃんみたい」
「なんだと?」
今まで泣いていたのを忘れたかのように、颯は声を上げて笑った。
ずっと一人で気にしていたのだ。何も気にする必要なんてないのに、この小さな身体で思い悩んでいたんだ。葉名に出会うまでの旺也だったら、颯の気持ちを聞き出せなかっただろうし、励ますこともできなかっただろう。葉名への感謝を膨らませながら、颯と二人、彼女の元へと戻った。
71
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる