42 / 48
42
しおりを挟む引っ越しや諸々の手続きが落ち着き、葉名が一緒に暮らし始めて暫く経ったある休日、旺也は職場から事務作業を持ち帰っていた。葉名に颯を頼み、自室の机に向かう。
「そう言えば、最近聴いてなかったな」
ラジオアプリを立ち上げると『処方箋ラジオ』をクリックする。すると、処方箋ラジオは最近休んでいたようでトップページにお詫びが書かれており、アーカイブもあまり増えていなかった。最新回の再生ボタンを押し、事務作業に取り掛かる。
<みなさん、こんにちは。処方箋ラジオのお時間です。今週のご相談は……>
「おうちゃん!みて!」
事務作業を始めたばかりだというのに、早速颯が飛び込んできて苦笑いを浮かべる。颯は旺也の表情を気にすることなく、ラジオが流れるスマートフォンをちらりと見た。
「またきいてたの?はなちゃんのラジオ」
「ん?ああ、そうだな。前に葉名さんに教えてもらった……」
「そうじゃなくて!はなちゃんのラジオでしょ!」
「え」
呆然とする旺也を余所に、颯は「ね!はなちゃん!」と振り返る。颯を追いかけてきたであろう彼女は心底気まずそうに困った表情を浮かべていた。
よくよく考えれば気付いた筈だ。
『処方箋ラジオ』は人気番組で登録者も多い。それなのに旺也の相談メールは既に三回も読まれている。同じリスナーのメールが短期間で繰り返し採用されるのは不自然だった。
「最近処方箋ラジオ聴いてる?」と旺也が尋ねる度に葉名は少し変な顔をして首を振っていたこと、貴重であろうラジオステッカーを何枚も持っていること、それらも葉名自身がパーソナリティだったなら納得だ。
インターネットラジオならスタジオに行かずとも自宅で録ることができる。葉名はこれを生業としていたのだ。
「黙っていてごめんなさい」
「いや……」
「おうちゃん、きづかなかったの?」
「……ああ」
「気付いた人、颯ちゃんが初めてだよ。友達にも家族にもなかなか信じて貰えなくて……ラジオだと声がちょっと違うみたいで」
「確かに、スピーカー越しだと違う人のような気がするな」
「ふふ、そうがはじめて!」
颯は両手を頬に当て、満足そうに笑った。
「最初は自分の番組に二人が興味持ってくれて嬉しくて。そしたら旺也さんからのメールが来て驚いたけれど、あの頃の旺也さんには色々な人の助言があれば心の支えになるかなって、つい贔屓してしまいました」
「ひいきってなに?」
「うーん、特別ってことかな」
「えぇ、おうちゃんだけとくべつ?」
「颯ちゃんも特別よ」
「へへ」
身体をくねらせながら颯は照れ笑いを浮かべている。
「旺也さん……ごめんなさい。その、お仕事のことだから早く言わないとって思っていたんですけど、なかなか切り出せなくて」
険しい表情のままの旺也へ、葉名は眉尻を下げまた謝った。
「あ、いや。怒ってるとかじゃないんだ。驚いているけど、あの時の助言はすごく支えになったし感謝してる」
「良かった……」
「ただ……」
神妙な顔つきの旺也を見て葉名の顔にも緊張が滲んでいた。
51
あなたにおすすめの小説
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】お嬢様だけがそれを知らない
春風由実
恋愛
公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者でもあるお嬢様には秘密があった。
しかしそれはあっという間に公然の秘密となっていて?
それを知らないお嬢様は、日々あれこれと悩んでいる模様。
「この子たちと離れるくらいなら。いっそこの子たちを連れて国外に逃げ──」
王太子殿下、サプライズとか言っている場合ではなくなりました!
今すぐ、対応してください!今すぐです!
※ゆるゆると不定期更新予定です。
※2022.2.22のスペシャルな猫の日にどうしても投稿したかっただけ。
※カクヨムにも投稿しています。
世界中の猫が幸せでありますように。
にゃん。にゃんにゃん。にゃん。にゃんにゃん。にゃ~。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる