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しおりを挟むその日の夜。
執務を終えたアルバートが、アレクサンドラを部屋まで迎えに来た。
「サンドラ?入るぞ?」
入室したアルバートは、お気に入りの赤いドレスを身に纏うアレクサンドラを見て、目を丸くした。
「アル•••?どこか可笑しいでしょうか?」
やはり気に入らなかっただろうか。淡い色合いの物にした方が良かっただろうか。そんな不安はすぐアルバートが消し去ってくれた。
「サンドラ、とても可愛いよ。よく似合っている。」
野獣と呼ばれた辺境伯が耳の端を赤く染め、微笑むなんて、誰も知らないだろう。
「アルバート様。可愛いより美しい、の方が良いのではありませんか?」
「そうか?勿論美しいが、可愛いんだから仕方ない。」
こっそりと、ジャンが助言する言葉が耳に入り、アレクサンドラは首を振った。
「私、アルに可愛いと言われたら嬉しいですわ。アルだけが言ってくれる褒め言葉ですから。」
アレクサンドラは美しい、と言われ慣れてしまっていた。勿論アルバートに言われたら嬉しいが、可愛いという褒め言葉は格別だった。
アルバートは満足そうに頷き、アレクサンドラの手を取った。
◇◇◇
アルバートは、アレクサンドラを自身の馬に乗せた。アレクサンドラは、アルバートと思った以上に密着していることにドギマギしていた。こっそり、アルバートを見上げると「ん?」と微笑んでくれる表情が堪らなくときめいてしまう。
(考えてみたら、私今までデートってしたことないわ!)
クリストファーとは、デートをするような関係性では無かった。また王太子妃候補をデートに誘うような不届き者はいなかったのだ。
(アルは、デートなんてしたことあるわよね•••。)
余計な事に気付いてしまい、急速に気持ちが落ちていく。せっかくのデートだ。楽しまないと、そう思うのに、上手く気持ちが切り替わらない。
「サンドラ?どうした?」
アレクサンドラの表情の変化に気付き、アルバートが声を掛けた。
「えっと、あの、私、生まれて初めてのデートですの。」
急に声を掛けられ、思わず考えていたことをそのまま話してしまう。それを聞いたアルバートは、嬉しそうに笑った。
「そうか、嬉しいよ。私と同じだ。」
「へ•••?アル、これまでに恋人の一人や二人いたのでしょう?」
「いや、恥ずかしながらいない。」
「そんな筈ありません!だってアルはこんなにもかっこいいんですもの。学園に通っていた頃なんて、たくさんアプローチを受けたでしょう?辺境伯になってからだって、縁談話ばかりだったでしょう?」
必死の形相のアレクサンドラに、アルバートは苦笑いを浮かべた。
「サンドラは、私に甘過ぎるな。こんな容姿だと女性は距離を置くんだよ。辺境伯という立場上、こちらから縁談話を持ちかけた事はあるが、持ちかけられた事は無い。こちらからの縁談話も、会う前に断られてばかりだよ。私が粗暴な人間だと、皆知っているからね。」
自虐めいた言葉を聞いて、アレクサンドラはぎゅうっとアルバートにしがみ付いた。
「サンドラ?」
「•••良かった。」
「うん?」
「見る目の無い女性ばかりで良かったです。」
しがみ付くアレクサンドラは、何と愛らしいのだろうか。あまりに可愛らしい婚約者の言葉に、アルバートは、また頬を綻ばせた。
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